「虎叱」と並んで、朴趾源の代表作、両班伝です。
試験に合格して両班になると、能力に応じて、さまざまな役職に就く事が出来ます。
武官になれば西側に立ち、文官になれば東側に立ち、それで、両班といわれました。
朝鮮王朝末期、両班制度はすたれ、本を読むだけしか能の無い両班(ソンビ)は、没落して
行きます。
ある村に、聡明で、本を読むことを、最も好んだ両班がいました。
村人から尊敬され、この地方に赴任して来る郡主は、真っ先に、彼の所に挨拶に行く程でし
た。
しかし、彼は、次第に貧乏になり、食べるものにも困る様になります。
毎年の、官家(地方の役所)から米を借りて凌いでいましたが、とうとう、借金が、千石に達し
てしまいます。
監査に来た役人が、これを見つけ、処罰しようとしますが、彼には、到底払う事の出来ない額
だと分って、困惑します。
同じ村に、低い身分ですが、金持ちの者がいて、金で両班の身分を買うと言って、千石を肩
代わしようと申し出ます。
両班も、役人も大喜びしますが、後々問題が起こらない様に、役人が、証書を残すことにしま
す。
両班の心構え。
①悪事を働いてはいけない。
②毎朝4時に起きて本を読み、手本帖を暗記すること。
③金を儲けたり、美味しいものを食べたいと思ってはいけない。
④腹が空いても我慢をし、寒さに耐え、貧しさを口にしてはいけない。
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等々、たくさんの心構えを聞かされます。
金持ちは、悲しげに、「私の聴いた両班は、こんなものではありませんでした。せっかく千石も
出すのですから、もっと、楽しいものに変えて下さい。」と懇願します。
そこで役人は、証書を作り直します。
①両班は、いくらでも金を稼げる。
②働かなくても楽な生活が出来る。
③畑は、下人に耕させ、言う事を聞かない者には、鼻の穴に灰汁を流し込んでもよい。
④昼間から部屋にキーセンを侍らせ、美味しいものを食べ、酒を浴びる程飲んでもよい。
ーーーーーーーーーー等々。
これを読んだ金持ちは恐ろしくなって言います。
「アイゴー。とんでもない。お役人様は、私に泥棒になれとおっしゃるのですか。」
金持ちは、それから一生涯両班と言う言葉を、口にする事はありませんでした。