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ブラック・ジャックは遠かった 久坂部羊

2023年08月21日 | 
 副題が 阪大医学生ふらふら青春記図書 とある。

 とてもおもしろかった。こういうのが読書の楽しみだなあ。自分でも言っているのにダメ押しだけれど、白い巨塔や、手塚治虫のような偉大な作家ではないと思うが、あるいは永井明のようでもあるが、ともかくこういう現場からの話って大切だと思う。
 著者の医者になるまでの実習とか研修とかのことがとても印象的だ。

 初めての手術の実習で、開いた部位のさらに奥に乳がんの転移が発見されて執刀医は「これはもう仕方ないな」と言って、放置して縫合したと言うのだ。著者はそのとき、放置したら確実に死ぬ、たいへんでもなんでも見つけたんだから取れよ、と思い、その後自分が実際外科医になってから、わかったと言う。さらに取るためには鎖骨を取ったりたいへんなことで、それはめんどうではなく(死の)リスクを高めることであり、取らずに後で別の治療をすることが延命の確率を高めることなのだ。
 いろいろなところで「総合的な判断」みたいなことを言うけれど、まさにそういう総合的な判断が必要なのだろうし、その判断はひじょうに微妙で、微妙に間違っていることもあるだろうし、それが医学の進歩とか、後でわかることもあるのだろう。
 著者の書いているとおり、あらゆることで一面から見ただけではわからないことがあるのだと思う。だがそれは、だからそれはまかせておけば良い、のではなく、意識し整理し時に説明できる、する、あるいは説明を求めることが大切なのだと、これは僕の考えだが、思っている。