ユウスゲ
裏山の尾根は2千メートルの高原鉢伏山に連なっている。
夏休みのある日、弟や近所の子供たちと連れ立って、未知の山鉢伏登山を決行した。
道なき道を背丈を越える草をかき分けて進むのだけれど、大粒な朝露がこぼれ落ちて、わずか進むうちに水から上がったように全身ぬれ鼠となった。
苦難の末にようやくたどり着いた高原は、ニッコウキスゲが果てしなく咲き乱れる草原で、未知の世界に漂着したような興奮を抑えきれなかったことを覚えている。
その後この高原は何度も訪れたことがあるけれど、最初に見た光景とはどこか違って物足りない。