
米と水を入れたお釜を竈に乗せ、下から薪を燃してご飯を炊くのがごく普通の農家だった。
お釜の中に手首の関節まで水を張って水加減を確認する。
焚き付けの松葉は裏山から熊手で集めてきた、薪は冬仕事に持ち山から一年分を切り倒し、凍った雪道を引き出した。
松葉の弱い火は粗朶の小枝に移されて強さを増し、やがて薪に燃え移る。
「ハジメ チョロチョロ ナカ パッパ 赤子泣くとも蓋とるな」
勢いが付いた火力を飯炊きの極意通りにコントロールするのは難しい。
早朝小枝を折る音に目覚めると、台所の端に据えられた漆喰製のかまどの前で火を起こす母の姿があっとことを思い出す。
その姿に何故か安心してまた眠りに落ちた。
毎日竈で飯を炊くという大変な母の仕事を手伝うこともなく時代は変わった。