河口の街
セグロツユムシとツリフネソウ 松本市
富士六合目は、地理的条件に起因する霧が多発するらしい。
その夜も中空の狭い範囲がブラックホールの様に抜けて星が瞬く以外、全方位の見通しが遮断されていた。
だから 望月さんが晴れたら東京の灯が見えます、というのを半信半疑で聞いた。
しばらくして 唐突に霧が晴れた、視界を遮る大きな遮蔽物が突然倒れたようだ。
眼下に街の夜景が漆黒を背景にして控えめに現れた。
まさしく本物の夜景に思わず息をのんだ。
視界は除々に角度を広げ、街の灯りが途切れたあたりの、そのはるかかなたに仄かに光芒を放つ一叢があった。
その 一叢を指さして、「あのあたりが新宿周辺です」と望月さんいった。
振り返ると暗いの空間の中に、それよりもさらに黒い富士の山塊がその存在感を誇示するように突き出して見えた。