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自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

イチジクの実と昆虫と(後)

2013-11-15 | 昆虫と花

品種改良の結果,栽培種ではメバナだけを持つ品種が多いそうです。国内で栽培されている品種は昆虫による受粉を必要とせず実を結ぶもので占められているとか。そうなら,専門用語で単為結果性の持ち主ということになります。セイヨウタンポポ,キュウリ,バナナなどの結実と共通しています。そうすると,栽培種のオバナはどうなっているかという話になりますが,退化して本来の役割を果たせないようになっていると思われます。

ここでは,そこまで考慮して話を進めていくとややこしくなりますので,以下野生種を念頭に置き,イチジク元来の生殖法に基づきながらみていくことにしましょう。

下写真は,目が開き始めた時点の花嚢を割って撮りました。オバナ・メバナともに赤みがかっているのは,生殖過程がそれなりに進んでいるからとみてよいでしょう。

 

三裂している実を見つけました。裂けるのは,熟してきているからです。赤みといい,その熟し方といい,白かった頃とはずいぶん違ってきました。メシベの先“花柱”が黄色くなって,倒れたり縮んだり。種子も見えます。

 

花嚢の先に開いた目を見てみましょう。 イチジクは虫媒花なので,ここから昆虫が出入りするのです。狭い目から入る昆虫はどんなものかと想像してしまいます。おまけに,目の構造を見ると,一旦入るとなんだか出にくいように見えます。鱗片が爪のように並んでいて,怖そう!

 

とにかく,昆虫が入るお蔭で受粉が行われ,結実します。イチジクを食べると,口にプチプチした粒が残ります。この感触を与える正体こそ,種子です。種子の様子はクローズアップ写真を撮れば,手に取るようにわかります。 黄色で,萎びた細長いものは花柱です。

 

イチジクには,昆虫が訪れます。大きなものでスズメバチがいます。子どもの頃,イチジクを採りに行ったとき,たくさんのハチがいた思い出が懐かしくよみがえってきます。考えると,そんな危険を冒して実をもぐとは,まことに怖い話です。熟して甘い糖分が露わになっているのですから,ハチには格好の食糧になっていたわけです。似た場面は,その後何度も見てきました。しかし,スズメバチは糖分を一方的に得るだけで受粉には貢献していません。この食餌行動は樹液にあつまる姿と重ね合わせると,理解できます。

まだ若い実に,ショウジョウバエぐらいの大きさのハエがよくいます。こうした類いの昆虫こそが,本来イチジクが招きたいものなのでしょう。イチジクとの相性がよいのはイチジクコバチというハチらしく,花嚢に棲み付いているとか。それが受粉に一役買っているのです。わたしが見たのは栽培種なので,イチジクコバチではないのかもしれません。 

この間,下写真のようなカに似た昆虫を見かけました。糖分を舐めに来ただけなのか,それとも種として受粉に多少なりとも貢献する役目を受け継いでいるのか,それは不明です。余りにも小さいので,レンズを通してやっとその存在に気づいたほどです。ちっとも慌てず,悠々とした動きでした。 

 

もう一匹,見つかりました。 

 

成熟する前の果実,つまり花嚢に入っていたのですから,なんらかの目的をもってやって来たのでしょう。

イチジクはまことにふしぎな果実を持つ植物です。  

 


ブナ帯の森林更新(前)

2013-11-15 | 植物

古い記事ですが,アップしないままになっていましたので,載せることにします。今秋登った大山にちなむ記事です。新聞によれば,11月12日に初冠雪があったそうです。みごとな紅葉風景とともに紹介されていました。


 

大山山麓はブナの見事な森林地帯になっています。一本一本の威風堂々とした姿といい,枯れ葉に覆われた根元一帯の瑞々しさといい,梢から射し込む日のきらめきといい,目に映るすべてがまるごと絵になっています。樹間をさわやかに吹き抜ける風が肌にやさしく触れ,葉ずれの音が耳に心地よく届いて,小鳥のさえずりが軽やかに響くと,気分を生き生きとしてくれます。ブナ林は生気に満ちています。

ブナの成長に,登山道からほんのすこし目を向けると,「ほほうっ!」と感じ入る発見が続きます。そんな話題をちょっとばかり。

 

幹の周りがおとな二人,三人両手をつないで測るほどの大樹に育つと,さすがに大したもので,根は地表にこんなに現れています。しかし,本来は土をしっかりつかんでいるはずのもので,たまたま道になったためにこんな姿になったのです。すべてのブナの根の様子を推測するのに,まことに見事な見本だといえます。

 

一本の大樹だと,根毛まで入れるといったいどれほどの根が付いているのやら。それらをつなぐと,どのくらいの長さになるのやら。地球一周をはるかに超すのじゃないでしょうか。

 

この根は,からだをどっかと支え,水分と栄養分を地中から吸い上げるたいへんな役目を果たしています。一日に吸い上げる水の量,蒸散する水の量は相当なものでしょう。しかし,ときには大自然の力には抗しきれない事態が生じます。すると,枝が折れたりからだ全体が根こそぎ倒れたりすることもあります。

ここにも。

 

あそこにも。中には,寿命が来て自然の摂理として倒れてゆく木もあります。

 

やがてこのからだにコケが生えて,蔦が登って,キノコが生えてというふうに,他の植物に格好の生育環境を提供することになります。