夏は草木が茂る分,昆虫たちが躍動します。躍動するので,いろんなダイナミックな姿が観察できます。それを虫の目写真でとらえるのはたいそうおもしろいことです。
夏が近づくにつれて,「虫の目写真が撮れるゾ!」と気持ちが弾んでいました。その夏が本格的に来て,「さあ,いよいよだな」と高ぶる気持ちでいます。
先日,第一弾としてセミを撮ろうと思い,神社と公園に出かけました。ともに蝉しぐれが降り注ぎ,好被写体にも出合えました。田舎のセミは,どうも警戒心が強いようで,人が近づく気配を感じるとサッと退散します。それで,相当注意深く,抜き足差し足という感じで被写体に近づいていかなくてはなりません。おまけに,高いところにとまって鳴くのがふつうなので,接写写真を撮るにはさらにまた苦労がいるというわけです。
ときには,先にピント合わせをしておいて,ファインダーを覗くことなく,両腕を伸ばしてカメラ本体をグッと前方に突き出すようにしながら,見当をつけて撮影することがあります。地面から低いところに被写体がある場合は別なのですが,2mぐらい高さがあると,もう偶然の出来に任せるほかありません。
じつのところ,虫の目レンズは胴が長くて先が魚眼レンズになっているため,被写体近くに硬いものがある場合はファインダーを覗きながらピント合わせをするわけにはいきません。レンズと被写体との距離が1cm程度なので,その硬いものがレンズに触れる恐れがあります。それで慎重さが必要になります。
神社では,たまたま社務所に脚立が置かれていたのでそれを拝借できました。蝉は木にとまって鳴いています。それも,相当の高さで。木肌がレンズに接触しないように,目測で距離を確かめながらカメラを前方に突き出して撮るのですから,マア,たいへんといえばたいへんです。
ニイニイゼミと鳥居を組み合わせた写真です。セミがいるのは桜の老木。ごつごつした木肌の風格が伝わるでしょうか。セミは保護色をうまく使って生きています。翅の表面を見ると,無数の微細毛が見えます。これなら水滴が弾けるはず。
藤棚の下から伸びた桜の小木にアブラゼミがとまって鳴いていました。鉄骨にレンズが触れないように,鳥居を入れて遠近感が出せるようにと思い,レンズとセミの距離を目で確認しながらシャッターを押しました。鉄製のパイプが曲線を描いているのは,このレンズゆえの効果です。葉陰で暗いためフラッシュを使用しています。
接写と遠近の世界を思いがけない効果で演出するのが虫の目レンズです。じっと見ていると,物語が流れ出すような気持ちがしてきます。
この夏は虫の目レンズです。