品種改良の結果,栽培種ではメバナだけを持つ品種が多いそうです。国内で栽培されている品種は昆虫による受粉を必要とせず実を結ぶもので占められているとか。そうなら,専門用語で単為結果性の持ち主ということになります。セイヨウタンポポ,キュウリ,バナナなどの結実と共通しています。そうすると,栽培種のオバナはどうなっているかという話になりますが,退化して本来の役割を果たせないようになっていると思われます。
ここでは,そこまで考慮して話を進めていくとややこしくなりますので,以下野生種を念頭に置き,イチジク元来の生殖法に基づきながらみていくことにしましょう。
下写真は,目が開き始めた時点の花嚢を割って撮りました。オバナ・メバナともに赤みがかっているのは,生殖過程がそれなりに進んでいるからとみてよいでしょう。
三裂している実を見つけました。裂けるのは,熟してきているからです。赤みといい,その熟し方といい,白かった頃とはずいぶん違ってきました。メシベの先“花柱”が黄色くなって,倒れたり縮んだり。種子も見えます。
花嚢の先に開いた目を見てみましょう。 イチジクは虫媒花なので,ここから昆虫が出入りするのです。狭い目から入る昆虫はどんなものかと想像してしまいます。おまけに,目の構造を見ると,一旦入るとなんだか出にくいように見えます。鱗片が爪のように並んでいて,怖そう!
とにかく,昆虫が入るお蔭で受粉が行われ,結実します。イチジクを食べると,口にプチプチした粒が残ります。この感触を与える正体こそ,種子です。種子の様子はクローズアップ写真を撮れば,手に取るようにわかります。 黄色で,萎びた細長いものは花柱です。
イチジクには,昆虫が訪れます。大きなものでスズメバチがいます。子どもの頃,イチジクを採りに行ったとき,たくさんのハチがいた思い出が懐かしくよみがえってきます。考えると,そんな危険を冒して実をもぐとは,まことに怖い話です。熟して甘い糖分が露わになっているのですから,ハチには格好の食糧になっていたわけです。似た場面は,その後何度も見てきました。しかし,スズメバチは糖分を一方的に得るだけで受粉には貢献していません。この食餌行動は樹液にあつまる姿と重ね合わせると,理解できます。
まだ若い実に,ショウジョウバエぐらいの大きさのハエがよくいます。こうした類いの昆虫こそが,本来イチジクが招きたいものなのでしょう。イチジクとの相性がよいのはイチジクコバチというハチらしく,花嚢に棲み付いているとか。それが受粉に一役買っているのです。わたしが見たのは栽培種なので,イチジクコバチではないのかもしれません。
この間,下写真のようなカに似た昆虫を見かけました。糖分を舐めに来ただけなのか,それとも種として受粉に多少なりとも貢献する役目を受け継いでいるのか,それは不明です。余りにも小さいので,レンズを通してやっとその存在に気づいたほどです。ちっとも慌てず,悠々とした動きでした。
もう一匹,見つかりました。
成熟する前の果実,つまり花嚢に入っていたのですから,なんらかの目的をもってやって来たのでしょう。
イチジクはまことにふしぎな果実を持つ植物です。