【ひるまのもめごと】
おりゃあ、けんちゃん、中学の理科の教師だ。嫁さん欲しいけど、相手がいない。いないからといっても、すぐ見つかるわけじゃない。
今日も自宅アパートから愛車のけんちゃん号
乗り、荷台をがたぴしいわせながら学校へと向かう。
俺ものぶちゃんも、4月からは3年生の担任になるはずだ。
束の間の休息だ。
学園の正門を過ぎ、右手正面にカウンセリング研究所、隣接するタコ壺保健室がある。覗いてみると、白いヤツの1人息子細太郎が遊びに来ていた。
「よっ、元気か」
俺が声をかけると、細太郎は笑って手をあげた。その奥から、大音量のいびき
が聞こえ、片山教授が性懲りもなく居眠りをしにきているらしい。
体育館ではバスケ部が、全国大会に向けて練習している。
そう、俺の友人ののぶちゃんは…。
体育館にある学園事務局に所属する、細太郎の色の白い父は親は、息子と撮った大学の温室でのムービーを見て、バカ面をさらしていた。
「何でこう、うちの息子はかわいいんだろうか」
時折呟いては、へへへと不気味に笑う。
かあっ
かあっ
かあっ
突如として耳元でカラスが鳴き、白いやつはムービーカメラを落としてしまった。
「バカ、びっくりするだろっ
!ベンジャミン
」
のぶちゃんのペットであるカラスのベンジャミンが、白いやつの机に舞い降り、とんとんと跳ねた。開け放った窓から、すっかりクセになった坊さんのかっこうをしたのぶちゃんが顔を出した。
「やあ」
「やあじゃないっつーのっ
」
白いヤツは、立ち上がりのぶちゃんを指差して怒鳴りつけた。
「かあっ
」
ベンジャミンは、再び一声発すると白いやつの頭に飛びうつり、べちょっとフンをした。
「ぎえっっ
」
白いヤツはパニクり、のぶちゃんは何事もなかったように、
「ベンジャミン、行くぞ」
と、カラスを呼び寄せると、ベンジャミンはのぶちゃんの肩に止まり、そのまま謝りもせず行ってしまった。 後に残された白いやつは、
「てめえなんざ、一生寺にこもってりゃよかったんだっ
」
と、のぶちゃんの給料袋を床にたたきつけると、ぐりぐりと踏みにじった。
失踪事件は、理事会選挙に影響を与えたくない校長によって不問にふされ、のぶちゃんは従前通り勤務を続けられることになった。
以前と違うことは、のぶちゃんの姿は、ジャージではなく坊さんの袈裟になった。棒斐浄寺の庵住様が、記念にいくつか送ってよこしたんだ。
それ故、のぶちゃんの新しいあだ名は、クソボーズ に変わった。
あほーっ
あほーっ
あ、カラスが鳴いた。 おしまい…。
長い間、つきあってくれてありがとう。
関係ないが、衣笠米穀店のなまはげ娘は、どうしてものぶちゃんが諦めきれず、しばらくストーカー行為をしていたが、以前にもましてボーっとするようになった坊主姿に興ざめしたらしく、自分からのぶちゃんを振ってしまった。
のぶちゃん、あんたなまはげに振られたんだぞ…。
なさけねえ
。