オッス、オラたかのり。
チャリ旅行は順調。
事情を知った孝太郎先輩が、
「じいさんに逆らうやつがいたなんて、そりゃ今までいたことないから、農場じゃ騒ぎになってるけどさ~、やっぱ逆らうとしたらおまえらぐらいだろう」
と、大笑い。そして、
「心配すんな、多分おまえらの勇気に手を差し延べるやつは大勢いるって」
と、鍵と地図を渡された。
「これ、うちの別荘ね。しばらく使ってないから汚いけど、ここにいなよ」
とありがたい申し出をしてくれた。
「夏の間いていいよ、そのかわりあちこち傷んでるとこ直して、温泉も出てるし、ほったらかしの畑には野生化した野菜がはえてるから食うには困らないよ。ま、たまに肉食いたいけりゃ、猪か熊が出没するからそっちで調達して」
と、ありがたいんだかありがたくないんだかわからん言葉も付け加えられた。
「先輩、猪…熊出るの?」
細太郎はおっかなびっくり。情けねえやつ。
「たどり着く前に、会っちゃったらごめんな」
孝太郎先輩はしれっとした顔で、ペットボトルと炭酸水を一口ごっくん。
「山ごもりの前に、中華いくべ」
と、VUITTONの財布の諭吉10人を数え直すと、
「さあて、フカヒレいっちゃう?」
とにこやかに笑ったのさ。
あんた、間違いなく藤川家の血をひいてるよ。
御隠居とバカ殿そっくりじゃねえかっ
藤川だ。
クソ暑い
久しぶりにタコ壺に顔出しにいったら、何しにきたんだ、と言わんばかりに睨みつけられた。
まあ、結婚してくれ騒動も、野茂のガキが卒業した途端に消え去ってしまった。何回か×××(自主規制)はしたが、イマイチ相性が悪かったんだな。
自然消滅のウキメにあっている。
惜しい相手ではあるが、肝心のあっちの相性がよくないとだめだよなあ。
で、話は元に戻るが、タコ壺保健室内には傘の花が開いている。それもただの傘じゃない。
「単独首位だからなあ」
案の定、上機嫌の片山教授がげたげたげたと笑っている。
「へんだ、讀賣め、ざまあみさらせ」
勝っても負けても虎命のタコ壺にしてみりゃ、これくらいのげたげたげたは、気にはならないようだが、ちょっとでも自分とこのチームが悪く言われようものなら、目くじら立てて怒りまくる讀賣ファンが黙ってはいない。
「ふん、そのうち、うちだって若手の調子があがってくれば、定位置の首位に戻る」
窓ガラスをあけて、マッドサイエンテストDr中島が顔を出した。
「ふん、バカをいいたまえ、FAで札束つかまして、いいとこ取るんだろう?で、人的保障で変なピッチャーつかされてよ~」
「誰のことをいっとるんだ」
「一岡の人的保障が、大竹」
「ばっかも~ん」
「くったばれよ~み~・・・」
「うたうなああああ」
今宵はここまでにいたしとうございます。。。
ふ、ふるい・・・
けんちゃんだ〓
ラジオ体操のおっさんたちは、藤川家…というかうちの学校の卒業生をこき使って出店を出している神社ではなく、別口の神社の氏子も兼ねていた。
つまり、八坂の神さんと明神さんとで共通の氏子を融通しあっているらしい。
その両方に江戸時代から藤川家は金を出して、いい顔してたんだと。
日本人も適当だな、とつぶやいたら、
「罰当たりなことを言うな」
と副住職のゾク野郎にありがたくもない説教をされた。
不思議っ子?おばはんの百合絵さまは、そろそろ臨月らしく藤川家御用達の病院に大事をとって入院中だ。
住職のじいさんは毎日毎日お勤めにせいを出しているが、どうみても仏頼みにしか見えない。
そんなわけで、双方の神社にたいそうな金額をこっそりと寄附したみたいだ。
呆れてものが言えん。
ところが、副住職は首を振り、
「愚かと思うなら笑え。だがしかし、人一人誕生するに、神と仏もあるまい、師僧はただの父であり夫であることを自然体で生きているゆえな」
そういうもんかね、と思うが、うまい酒に免じて頷いてやろう。
暑いしな。
しかし、本堂の須彌壇の下は暑いとおもいきや、案外と涼しい。ひんやりしすぎる。
「そりゃそうだ。いつも掃除にくるはずのガキどもがいなくなって、誰も掃除にこないから、遊び相手になろうと待ち構えていたやからが、怒ってこのへんに恐い顔をして漂ってるからな」
「なにっ?」
いうにことかいて、何いってんだこのヤンキーは
「」
と副住職が隣にいるはずののぶちゃんを指差している。
「あ」
泡噴いて気絶していた。
「全部ひっかぶってくれたらしい、ありがたきことだな、な~む」
な~にがなむだよ、バカ野郎
しかし、のぶちゃん、あんた、融通きかないのは幽霊相手にもかよ~。
こんばんは、へちま細太郎です。
チャリでのんびり関東を回ろうと計画し、熱風の中神宮球場に到着。
午前中が高校野球だったらしく、俺達は隣の電気館みたいなところでだらだらしていた。
「ぎりぎりでいいよねえ」
という、たかひろとみきおのメールにうんうんと頷く。
なぜメールかというと、おれがガラケーなのと、ラインだとバレバレになるからだ。
「しんいちはくそ暑いのに野球かあ」
神宮球場でただで配ってたうちわであおぎ、見事に焼き魚になっているしんいちの写メをみてため息をつく。
「第二の福谷だね」
「しんいちはKOじゃねえべよ」
「実力じゃKO行けたのにね、まさか野球を選択するとは…」
「箱根駅伝にも出てる大学だし、いいと思ったんじゃね」
といったところで、ヤクルトのユニホームをきたみきおとたかひろて彼女と、はるみが立ってた。
「尼御前さまが、東京の研修所使っていいってよ」
「ばれねえ?」
たかのりは不安げな表情をみせたが、
「藤川家の分家の研修施設たがら、本家は利用しないんだってさ」
「むしろ、使ってくれないと、税務署に文句言われるんだとさあ」
あ~、そ~ですか…。
神宮球場は、暑かった
初めてのプロ野球観戦に、はるみは大はしゃぎで、しばらく見ないうちにかわいくなりやがって、とちょっぴりうれしくなった。
で、ポップコーンバスケットに追加のポップコーンを入れてもらっていたら、
「おい、脇坂」
と肩を掴まれた。
「あ?」
と振り返ると、知らない顔が立っていた。
「おまえ、西武ファンだったろ、地元裏切んなかよ」
「なんだよ、おまえら」
藤川先生&広之お兄ちゃん&副住職さま仕込みのヤンキー口調で唸ってやると、
「おまえ、脇坂じゃないの?」
と、顔を覗き込まれた。まじまじと顔を眺め回されて、
「あ、わりい、うちの大学の後輩かと思った」
「ごめんな、でもおんなじ顔だからびっくりした」
「いや、驚いた」
と、頭をかいている。
同じ顔?
「それ…翼?」
思わず呟くと、
「何、知り合い?親戚?脇坂翼と?」
「あ、いや違う違う、前にも勘違いされたから」
と、笑ってごまかしてその場から逃げ出した。
やばいよ、こんなところで、すっかり忘れていた名前を聞くなんて…。
でも、今は聞かなかったことにしようっと。いまさらだもんな…。
というわけで、席に戻ってみれば、傘の花が開いて東京音頭の大合唱だった。
うん。
今晩、はるみと気分よく寝ちゃおうかな…とスケベな気分になったわけだ〓
うん、健康的だなあ
久しぶり、けんちゃんだ。
元気だぞ。
かわいい盛りの息子を連れて、朝からラジオ体操だ。
細太郎の家の近くでやっている、町内会のラジオ体操に、今年も誘われてだな、
「どおれ、はんこ押しがんばっかな」
と、バカ殿の自宅でもある別邸に泊まりこんで早起きだ。
「けんちゃん先生、り~ちゃん、ペッピンの嫁さんに似てよかったなや」
というじじいどもの失言も息子のかわいさに、許す。
嫁さんの香華もノリノリでラジオ体操のあとの、茶のみ友達状態。
でもって、週末のおまつりにも参加しちゃうわよ、とじじいどもと約束する始末だ。
ナニ考えてんだ?と思ったら、あの隠居じじいにそっくりだわ。
姉の法華よりはおとなしめな感じはするが、元夫にストーカーされるほどの美貌ではある。なんで俺と結婚してくれたか?と常日頃疑問に思うが、変人ぶりは俺と相性抜群だ。
「おまつり、うちからも屋台出させましょうか?北別府さんに話を通せば、うまくはからってくれますよ」
北別府さんとは、藤川家の執事だが、昔は筆頭家老だった家の人だ。
国家老なので、権限は強い。御隠居の暴走も、北別府さんがいてくれるからこそ、あの程度で済んでいる。
「いいんじゃね?喜んで参加するだろうよ、でもなあ、縁もゆかりもないところで、大丈夫か?」
「あら、明治時代に神社をきれいに建て直ししたのって、うちのご先祖さまだから氏子さんたちも文句は言えないわよ~」
あ、そ~。
お姫さまのいうことは違うね。
ところで、細太郎とたかのり、きょうはどこの空の下にいるんだ?
藤川だ。
夏休みになった途端、見合い話がきた。
いやだから、逃げている。
で、細太郎とたかのりの二人だが、またいとこのところにいたのは知っている。たかのりはスマホ、細太郎は携帯のGPS機能を解除してやがって、とんと行方不明だ。
ところが、双方の家族とも一向に気にする様子がない。なんでだ?と思ったら、ひな人形みたいな幽霊…あ、あれだご先祖さまの近衛少将さんとやらが、近況報告にたまに出没するんだと。
おめーら、幽霊の言葉鵜呑みにすんのかいと聞いたら、
「ありがたいことです」
とめでたい返事が返ってきた。
何なんだ、コイツラ
「あらあ、常日頃の墓参りを欠かさないからよ」
とおふくろさんの答えがふるっていた。
先祖が同じと知って、今やあの5人グループの家族は、定期的に奥八地温泉に集合して宴会をやるんだそうだ。
たまに田吾作じじいが現れてひな人形と喧嘩しても、田吾作じじいに人参ぶつけてるんだとか。
尼御前の京ばばあがチクったな。
で、細太郎とたかのりは、バイトでためた金でチャリで旅行中だと。
どこいったかって?
知るか~っボケがっ
1か月のご無沙汰です。ぼくがへちま細太郎です。
ぼくら、再び、赤松の部屋に入り込んで、むさい男3人ぐらしとなった。
でもまあ、赤松の部屋、涼しいんだ。
「エアコンなくても平気だ、外の暑さがうそのようだ」
と、電気代かかんねえと、嬉しそうだ。
そりゃ、そうだよねえ、とたかのりと顔を見合わせる。
「妻にも言っているんだ、この部屋は涼しいぞ、でも、帰ってこない」
いや、だから、それはアンタねえって。。。
もっとも、涼しい原因を作ったのは俺のせいでもあるわけで、こんなに長いこと居座られるとは思わなかった、と鎧かぶとのおじさんも恐縮の体だ。
部屋のすみにいるのは、どうみたって“顔なし”なんだが、本人?は、
「だあれが顔なしだ、この野郎」
と、首から上をどっかに落としってきたらしいからだから声を発して脅してきた。
「こわかねえよ、バカめ」
「頭なし、黙れ」
と、2人そろってこの世ならぬものに言いたい放題だ。
でも、脅し過ぎて出ていかれても困るので、それ以上はやらない。
で、赤松の背後ではねている首は、この顔なし?の頭ではないらしく、
「は?ふざけんな、俺様は、戦場で失くしてきた首なし野郎とは全然違うわ、ボケ」
と、こっちはこっちで文句の言いたい方だ。
「今日は寒すぎるからナベな」
赤松~!!
おめえ、見えてねえのか!!
と、いいつつ、脅かすばっかりで、実はものが食えない連中に見せびらかしながら、ナベをつつくのは、悪くなかったりするんだな。
って、俺たち、いつまで放浪してんだ?