「誰だ、こんなくだらない企画をたてたのは…」
と、ぼやく金本先生。
「許可したのは、校長だ」
と、ため息をつく黒田先生。
学校中を鬼ごっこ、しかも炎天下の中だった。
おかげでどこの保健室も満員御礼。
節電の影響でエアコン設定も28℃前後になっている。
「う~ん」
各保健室のおばちゃんは、頭を抱えている。
コンクリートに寝ころび、教室からひっぱってきた電源コードに業務用扇風機の前に巨大氷をおき、冷風冷風。
おかげで、製氷所からは巨大な氷が運ばれてくるわ、学食や家庭科室や体育館の製氷機はフル稼働するわで、てんてこ舞い。
バカなやつが氷をなめて痛い思いをするやら、扇風機の前で、
「宇宙人だ」
と、“おとうさん”をやるやつ、とさまざま。
何とか間に合ったミスト機能のおかげで、武断派と事務派の戦いがスムーズに行われ?、プールにわざと飛び込んで暴れるやらと、
「う~ん、企画は成功だったかも」
と、高校の生徒会長が、メガネを人差し指であげてむふふと笑った。
どんな脳みそしてんだろ、と思ったワタクシ野茂でした。
あ~、暑いわ、こんちくしょ~
こんばんは、へちま細太郎です。
孟宗学園高校の野球部は、今年は期待ができるらしい。といっても、せいぜいベスト16を突破できれば、ということなんだけどね。
で、応援団から逃げ切ったぼくらだけど、中学校も含めての応援練習を行ってびっくらした。
さすがに、旧大名家の武道派が中心になって作り上げたというだけあって、その統制力はさすが。
ビシッと決まる型に、声の張りも素晴らしい。
「う~ん、ぼくらじゃ無理だったね」
「ほんとだねえ」
つくづく眺めると、こんどはチアの振付に目を奪われた。
「団部の女子部らしいよ」
「あんなのあったんだ」
隣の女子の列のはるみは、目がハートだ。
「わたし、高校に進んだらチア部に入る」
あ~、そ。
「孟宗学園高等学校~の勝利を祈ってえ~、校歌あ~」
吹奏楽部もうまい。。。
でも、体育館暑すぎるぜ。
団部の先輩たち、学生服着ていて暑くないのかなあ。
「梅雨が明けたなあ」
「心は晴れねえ」
「ああ、いかにも雷がきそうな入道雲だあ」
「俺の心は曇り空」
バカ息子とバカ殿の毎度おなじみドン引き漫才。
聞いてるだけでうっとおしい。
カビが生えてきそうだわ。。。
おばあちゃんでした。
こんにちは、へちま細太郎です。
テストも終わり、部活もないし、学園内エアコン故障と校長のロクでもない発案のおかげで、他の学校より早く終了時間がきて暇なぼくたちは、タコ壺保健室に遊びに行った。
保健室の痛々しい小百合は、かわいらしいリボンと鈴がつけられ、扇風機の風に揺られて涼しそうだった。
時々、チリーン。。。
で、自分のデスクの椅子にふんぞり返る匿名希望の東山先生と、自称紳士の片山教授、マッドサイエンテスト中島教授が今後の展開について、大論戦になっていた。
今後の展開とは…。
「札束でほっぺたひっぱたいてな、横取りしてもやな、この体たらくじゃあわがタイガースの敵やないと思うんやけど」
「そうだねえ、ぼくとこのチームは、監督を途中交代したおかげで、今年は首位独走だしね」
「てやんでえ、ヤクルト飲んで阪神電車にのって、どこっかへいっちまいな」
あ~、3人そろうといつもこれだ。
「借金生活の果ては自己破産やね。あの野球以外に能ナシ監督のままでは」
「いやいや、交代できんのはあとに続く監督がおらんからだろう」
「川合がいるぞ、2軍で鍛えてもう少しの辛抱だな」
「いっそ清原ならどうだ?」
「あ~、だめやだめや、乱闘要員ではいいかもしれへんけど」
「桑田の成長を待て」
「成長を待てって、戻ってくるんかい」
「戻ってくるやろ、清原監督で、桑田ピッチングコーチや」
「体を張るのは清原、頭を使うのは桑田」
「金を使うのはフロントってか?読売体質を変えないとあかんやろ」
「読売っていうな」
「投げ売りかい」
「黙れ、乳酸菌」
「なんだと、強引な勧誘の新聞やめ」
始まったよ…。
ぼくは小百合を抱えて表に飛び出し、応援バットでチャンバラを始める教授たちを見た。
う~ん、ここでも時代劇だ。
で、巨人は浮かびあがれると思いますぅ?
こんばんは、へちま細太郎です。
期末テストは、今週の月曜日から始まって、今日で終了する予定が、延びた。
なんと、エアコンが故障してしまい、校舎内は蒸風呂状態。真っ先にネを上げた校長が、
「1日2時間ずつ、ということにしてはいかがかな?」
と、のたまい、
「登校時間も1時間早めてね」
とさらに頭が痛いことをいった。
おかげで、
「毎日徹夜だよ、ちきしょ~」
という朝が苦手な連中が、スクールバスの中で高いびきだ。
そんな中で、生徒会が着々と進めていたのは、期末テスト終了後の真夏のクラスマッチだった。
「水泳大会かな」
と、思うけど野茂や高校の会長がそんな安易な大会を考えるわけがない。
「いじくそ悪いことを考えているぞ、きっと、二人とも女だし」
「うん、野茂はSだ」
たかのりとみきおが、バス待ちの学食でかき氷を食べながらお互いのべろを見せ合いっこしていた。
「誰がSだって?」
問題集を片手に、野茂はコーヒーフロートを持ってぼくらと同じテーブルに座った。
「あんたら、バカじゃないの?」
「なあにが、バカだよ、芸術だよ芸術」
「小学校からのぼくらの芸術」
しんいちも見事に黄色くそまったべろをだし、ぼくも真っ赤なべろだし。
「あ~、こんなんで武道派との戦いに勝てるのかしら」
「はい?」
野茂の言葉にぼくらは、べろをまた出す。
「まさか、藤川家のお家騒動をクラスマッチにしちゃおうっての?」
「そ~」
「そ~って…」
野茂はむふふと笑う。
「どうやって決めるの、武道派と事務方をさ」
「ああ、適当。あ、細太郎君の家としんいち君のところは、事務方って決まっているからね」
「ああ?」
「なんで、ぼくたちが事務方だって知っているの?」
「そのくらい知らなくて、家老の孫は務まりません」
野茂のしれっとした顔に、
「関係あるか」
と、たかひろは吐き捨てる。
「どうせ、うちは庶民だし」
「たかひろ君とこは、庶民でも脱藩して水戸藩の尊王攘夷に駆け付けたって話だよ」
「げっ、じゃ、武道派かよ」
ぼくとしんいちは顔を見合わせてため息。
「まったく、バカなこと考えるよなあ」
みきおのつぶやきに、
「あ、みきお君は、どっちでもないからくじひいてね」
何考えてんだあああああ。
テスト、自身なくしそうだ。
こんばんは、へちま細太郎です。
昼間、おばあちゃんは実家のお兄さん…ぼくにとっては大伯父さんに誘われて、広之おにいちゃんのおかあさんといっしょに食事にいったんだって。
で、広之おにいちゃん・慶子おねえちゃん・奈々子、おばさんとおじさんがぼくのうちに来ていて、みんなで楽しくお食事会。
といっても、帰る早々二人して、
「口直し、口直し、うなぎだあ」
と叫びまくっていたので、今夜はうな重を前にしてみんなホクホク顔だ。
「で、何でそんなに怒ってんの?」
うな重の2つめに手をだしている(自分で2つと注文した)藤川先生が、ふたりのおばあちゃんに訊ねると、
「あんたんとこのお家騒動でしょうが。みっちゃんとこと私の実家は、武断派だからね、あんたを居候させてるわ、息子たちが仲がいいときては、バカ殿派とみられて、実家の兄ちゃんなんか口から泡飛ばしてあーだこーだうるさいったりゃありゃしない」
「まったく、この現代に何を考えているんだが、アナログの田舎っぺどもがさ」
と、まくしたてられて藤川先生、箸をおく。
「あ~、わたくしがふがいないばっかりに…」
と殊勝なことをいうものの、ちっとも反省している様子がない。でもって、隣にすわるリカの口にうなぎを放り込む。
「じゃ、バカ殿よ」
と、初登場の広之お兄ちゃんのおとうさんが初セリフ。
「じゃあ、うちの孫娘の奈々子と婚約せんか。あと13年まってもらうことになるがよ」
「はい?」
一同唖然としておじさんをみるが、平気なもんだ。
これでも、一応中学校の校長を春先まで勤め、今は県の教育課に転勤してエラそうな役職についている。
「こんな下半身だけ丈夫なやつに、なんでかわいい奈々子を嫁にやらなきゃいけないんだああ」
広之おにいちゃん、逆上。
「てめえ、奈々子に手を出したら承知しねえといったはずだぞ」
「アホか」
慶子おねえちゃんに頭を叩かれて、とりあえずおとなしくなる。
「まったく、このバカにこのまま独身でいさせて、実孝んとこの子供に嫁にやりゃあいいじゃないの」
慶子おねえちゃん?何考えているの?
「ありゃだめだ、武断派は知らないあいつの素の顔を…、いや素の下半身を知っている俺は、このバカよりも危険だということを痛いほどわかっている」
黙々とうなぎを食べていたおとうさんが、やっと口をはさんだ。
う~ん、実孝さん、あなたって人はほんとはどんな人なんだ?
と、思ったところで、おじいちゃんが、
「おまえら、ばあさんたちがほんとに怒っているのは、そんな面白いことじゃないぞ」
と、おじさんにビールをつぎながらぼそり。
「なんなの?」
慶子おねえちゃんも、ビールをご相伴して3人で少々酔っ払い気味。
「なんで、今夜うなぎなんだか、考えてみろ」
あ、そ~か。。。昼、いったいおじさんと何を食べたんだろう。
「義兄さんのこったから、へそ庵のソバだったんだろ」
「へそ庵~?」
「あ~、そば食うのに能書き垂れるところだ」
広之おにいちゃんが、いやあな顔をした。
「いくら食道楽な俺でも、あそこだけは許さねえぞ」
藤川先生も怒りをあらわにする。
「どんなところなの?」
ぼくが聞いてみると、
「まったくよ、そばは早く食え、そばの風味を味わってくえ、余計な薬味はつけるな、てんぷらもご法度、そのくせつけ汁はダントツにまずい」
げっ。
「てんぷらそばは邪道だ。ネギもわさびもいらない。そばは3分以内で食え」
「そんなところで、そばの風味を味わうなんて、できる~?」
「で、見張ってんのよ、指示した通りに食べないとめちゃくちゃ怒鳴るわけ」
おばさんも、カンカンだ。
「兄ちゃんもなんであんな店がいいんだか、田吾作の食道楽を気取ってんのよ」
う~ん、ぼくなんか、ネギ大好きだけどな、ネギ星人だし…。
ネギだけで十分ですよ~んだ。
でも、このおかげでうなぎが食べられたんだ。感謝感謝。
ところで、藤川家相続問題は、いつまで続くんだ?