「ばかだ、おめえは」
「どうしてこんなやつがモテるんだろうねえ」
「まあ、初めて付き合った相手としよう、で、結婚したい、うん、よくある話だ」
「俺なんて、逃げられてばっかりだ」
「彼女いない歴、オレ、大学入って野球ばっかりだから、5年か?」
「オレは途切れたことねえなあ」
「そりゃあ、うらやましいこって」
「しかしねえ、あの性悪女とよく結婚しようだなんて思ったよな」
「ほんとだよ、多少マシになったとはいえ」
さっきから、友人4人が構内の某コーヒーショップで口々に先日の顔面餅はりつけ事件について、語っている。
「は?ちげーよ、何ごまかしてんの?餅はりつけじゃなくて、その前にあんた口走ったでしょ」
「は?なんのことかな?」
焦ってごまかすも、そんなことが通用する小学校からの親友たちじゃない。
「いくら勢いでいったとしても、ああいう場ではねえ」
「デリカシーないねえ」
「ソンナツモリジャナカッタンダヨ」
「じゃあ、どんなつもりだったんだよ」
「知るかああああ」
マジで逃げたい5秒前な、細太郎でした。。。
トホホ
細太郎です。
はるみは、無言でテーブルにどんぶりをどんと音を立てて置いた。おれとたかのりとたかひろは、やっぱり無言でどんぶりを見た。うまそうな…
「なんだよ~これっつ!!」
おれは、思わずどんぶりを指さしてはるみに怒鳴った。
「ごはんの上におかゆのっけんなよ」
「『究極超人あ~る』を読んでたら出てきたのよぉ~おかゆライス~」
「あのなあ」
はるみはにこやかに言うが目が笑っていない。
「あ、でも、七草かゆっぽいし、ね?味ついていそうだし…」
場をとりなそうとするも、はるみは笑っていない目で、
「でしょう?昨日、お餅たべたんでしょう?もたれちゃって大変よね?」
「うっ」
誰だよ、こいつに昨日のことチクったのは。
「聞いたのよ~、鈴木涼子子持ちで嫁いびりされているんだって?そういえばさあ、よしこちゃんたちに聞いたのよ~、すごい噂になってたって~。私たち情報おそくなあい?孟宗に進学したの間違ってたかしら~」
「だからあ、何で怒ってんだよ!昔のことじゃないか!」
「むかし~?その割には、後ろ姿目で追ってたじゃないの!!」
「そんなことしたかよ!」
「してたっ!!」
「してねえ」
俺たちは、たかひろたちの前だってことを忘れて言い争い。何で、俺がりょうこちゃんの後ろ姿を追ってたんだよ、してねえよって、してたか?
たかひろとたかのりは、交互におれとはるみを目でおいつつ、
「これ、食わねえと怒られっかな」
「食っちゃおう、まずくてもうまいって言おうぜ」
とこそこそ言っている。
「無理して食べなくたっていいわよっ!!」
それに気づいたはるみがふたりを怒鳴りつけ、
「私はぁ~あんたとぉ~鈴木涼子がぁどんな関係だったかんてぇ気にしてないからぁ~許せないのはぁ~目で追ったって事実なのよぉ~まだぁ気があるんじゃないのぉ」
「ねえよっ!!あいつは俺がいながらきょうすけに心変わりしたんだっ!!許せっかよ、バカ!!おまえだって秀にいちゃんに気があったろおがあ!!」
と言ったところで、しまった!と思った。おめえやべえぞ、とたかのりが視線で訴えている。たかひろは、救いようがねえという表情を浮かべていた。
「はあ?誰が滝沢先輩に気が合ったって言ったのよ!」
「だって、お、おまえ、秀兄ちゃんが好きでチアに入ったんだろ~が!おまえ、それで性格よくなって…」
オレ、何を言い始めたんだ?
ん?という表情をたかひろがした。眉をあげたのはたかのり。
「おまえみたいな、性悪女、俺がつきあわなきゃ誰がつきあうんだよ~、それが秀兄ちゃんに矯正されてさあ、こんな悔しい思いしたの、初めてだぞ」
「あ?」
「なんだ、それ」
ふたりが呆れたようにつぶやいている。
「何言ってんのよっ!!バカじゃないの!!」
「うるさい!!俺は、おまえと結婚しようってそう思ってつきあって…」
一瞬沈黙がした。はるみが無表情になっている。
「悪趣味」
たかひろがつぶやいた。
「昔だったらそうだ」
たかのりがそれに答えた。
「で、バカだ、こいつは」
たかひろの言葉に、はっとなる俺。
頭まっしろ…
そしてはるみが動いた。
「ばかああああああああああ」
と同時にどんぶりが顔面にはりついた。
「細太郎君なんて、大っ嫌い!!」
おれ、何かしたか?
「したよ」
呆れたようなたかひろの声が、聞こえてきた。
「つくづく救いようがねえな」
「うん」
細太郎です。
おれの小学校時代からの友人の一人たかひろ。現在つくばった大学の院に進学して、とりあえず経済学の研究をしている、と思うwww
昔から女の子が大好きだったが、今はフリーで遊びまわっている。特定の彼女は、当分いらないそうだ。それゆえか、女の子の情報はたっぷり持っている。
「ああ、鈴木涼子ね?おまえが中学時代にちょっと恋人未満だったやつ」
孝太郎先輩所有のアパートには、俺たちの仲間うち俺とたかのりとたかひろがくらしている。しんいちはつくばった市内に住んでいるし、みきおはバイクか車で美都市内から通学していた。
今日は、そのたかひろの部屋で餅を焼いて食べていた。
「うるせえな、もう昔のことだ」
「おまえはモテる割には鈍感だし、りょうこみたいな優等生にフラれ、野茂に片思いされても気づかず、結局選んだ相手は性悪はるみだ。バレンタインのチョコ大量に貰っても、誰からもらったのかなんてわかってないだろ」
「うん」
正直にいうと、そうだ。大量のチョコの送り主なんて考えたこともない。
「破れ鍋に綴蓋、性悪同士がくっついただけじゃんか」
みきおは、とろけるチーズとのりを巻いた餅をほおばりながら相槌をうった。
「まあ、当たっているだけに反論もできない」
俺もチーズ巻餅をほおばる。
「鈴木涼子な、あいつ、きょうすけと学生結婚したらしいぞ」
「へ?」
「できちゃったらしい」
「あいつ子どもいんの?」
「いるけど、トメコトメに嫁いびりされて性格が一変したらしい。優しいお母さんのイメージないらしいぞ、教育ママっぽいし」
「ひえええ」
俺たちは、明らかに小学校とは違う、もう大人の世界の話に餅を食う手を止める。
「生々しいな。だから、小学校時代とは違って逆に性格がまともになったはるみに嫉妬してんだろ」
「は?コイツと付き合ったからじゃないの?」
としんいちはきな粉餅をのばしながら、ちろっと俺をみた。
「そんなわけあるか。羨ましいんだろ」
「ちげーよ、ハタチで結婚して嫁いびりされて自由がない。だけど、性悪はるみが自分を好きだった男と付き合っている、面白くないだろうよ」
う~ん、全員、なんとなく納得したようなしないような、そんな気になった。
というか、たかひろ、何でそんな情報しっているんだ?
「情報を得ることは、研究の第一条件」
なんだそれ。
「おまえ、孝太郎先輩の会社にでも入れてもらえば?」
「うん、誘われている」
ほんと、女好きだけどおぼれてないところが、たかひろのいいところだ。
「それな」
しんいちは、グローブみたい手で餅を丸めながら、うなづいている。
おまええ~、餅で遊ぶなよ~。
細太郎です。
謹賀新年です、遅くなってすいませんでした。
正月早々、はるみと大喧嘩して餅を顔面に貼り付けられるという、命あぶねえできごとがあったので、しばらく無視しています。
喧嘩の理由?それは…。
ふたりでシャカイの散歩をしていたら、偶然懐かしい同級生と再会してしまったからです、はい。ここまでくると、長い読者の方は想像つきますよね?
はい、それはりょうこちゃんです。
ぼくに向かってにこやかに笑いかけ、
「細太郎君久しぶり、中学校以来だっけ?元気そうでよかった…え~と、そちらの方はご親戚の方?」
とはるみにはにこりともせずに、そう言ったんだ。
はるみも同級生だったろうに。こんな性格の悪いバカ女を忘れるやつがいるか。という以前に、りょうこちゃんの言い方も厭味ったらしかった。
コンナオンナダッタカナ?
「はあ?あんたこそ誰よって、あんた、鈴木涼子じゃない」
はるみはぼくとりょうこちゃんのことは知りません…って、なんで小学校の時の口調に戻ってんだ、オレ。
「あらあ、そういえばその意地悪い口調、中野治美さんじゃありません?」
うげ、なんだこいつら。というか、なんだよ、りょうこちゃんの言葉遣い、昔と全然違う。そういえば、どことなくキツイ顔つきになっている。
何があったんだ、中学校の時から…。
「あらあ、優等生の鈴木さんとは思えないお言葉ですこと」
オンナ同士はフンと顔を背け、はるみはオレを帰ろうと促した。
「あ、じゃ、また」
俺はりょうこちゃんの去って行く姿をいつまでも目で追っていた。
で、それをみていたはるみに餅をぶつけられたというわけだ。
「私、知っているんだからね、中学校の時にちょっと関わってたって」
「へ?」
「一高にいってきょうすけ君とあの子付き合ってたって。細太郎君、フラれたんでしょ?」
「ああ」
嫌な思い出を…。で、何を誤解したんだか、餅を、というわけだ。
「でも、今は全く関係ないだろ」
「何よ、いつまでも見てたくせに」
う~、めんどくせ~。何でもねえっていうのに。
「あいつとは関係ないだろ」
「あいつ?あいつですってええええええ」
なんだよ~、どうでもいいじゃねえかあ。
「許さないかんね」
めんどくせえええええ。
こたつから顔を出したシャカイが、帰っていくはるみを追いかけドアの向こうに消えてしまうと、オレにむかって吠えやがった。
「なんでえ」
くどいようだが、めんどくせええええええ。