真夜中は俺の時間だ、ども、けんちゃんだ。
懐かしいだろ、久々だな。
さて、雪のバレンタインデー。
結婚前も今も、あんまチョコには縁が無い。
もらっても、ほとんど義理ばかり。
うちの嫁さんは変わり者で、
「チョコ、みんな義理ばっかりね。高級品ないじゃない?失恋ショコラティエみたいな、おいしそうなのないの?」
と、文句たらたらだ。
「おめえよ、中学生に何を期待してんの?」
と、それでもバックいっぱいのチョコを渡せば、結局ニコニコ顔だ。
「これで、理におかしを作ってあげられるわ」
あ~そ。
バレンタインデーの日の会話といえば、毎年代わり映えしない。必ず、
「バレンタインデーキッスだな、国生さゆり」
強面体育教師の黒田が言えば、
「そうそう、ソッコーで帰ったなあ」
と、帰宅部だった学年主任の阿南も、懐かしげ。
「何で早く帰ったんです?」
どこまでもKY野郎の赤松は、相変わらず生首をしょって、話にクビを突っ込んでくる。
「夕ニャンだよ。秋元大先生が手がけたおニャン子クラブ」
「伝説の夕焼けニャンニャンですか?」
今のガキどもは、AKBかもしれんが、ある一定の年齢の男どもにとっては、夕方5時は胸どきどきな時間だ。
中学生も高校生も、学校からすっ飛んで帰って来て、テレビの前にかじりついて、高井麻巳子や工藤静香、新田恵理だのに胸も下半身もふくらみっぱなしだった。
「で、誰のファンだったんです?」
赤松はしつこい。
「俺?」
嫌がりもせず、むしろ聞いてくれと言わんばかりに黒田は、
「俺、河合その子」
と、へらっと笑う。
きもいぞ、黒田。
「俺は、吉沢秋絵」
阿南もにたあ。
うへ。
「バカ野郎、ゆうゆが一番だ」
「何を!生稲ちゃんだろ~が」
放課後の職員室、担任に呼ばれて説教くらっていた生徒が、呆れた視線を向けてくる。
おまえらはAKBに夢中だろうが、おニャン子は、それ以上に人気だったんだ。
「ふん、おまえら、遅れてるな。夜は、女子大生のオールナイトフジだ」
赤松以上にKYな、のぶちゃんがボツリとつぶやいた。
「山崎美貴、よかったなあ」
一瞬にしてシラっとした雰囲気が流れたが、
「バレンタインデーキ~ッス」
と歌いながら、その場を離れてくれたので、全員がホッとした。
おっさんたちには、おっさんたちの若いころの思い出があるんだぞ。
といっても、俺にとっては夕にゃんは、子供のころのかすかな記憶しかないけどなあ。
「緒方せんせ、ビデオありますよ、夕にゃんの…」
阿南が、へろへろ笑ったので、丁重にお断りした。
あ~、この調子だと、学年末の宴会は、おニャン子総動員かもしれん。
みたくねえ~、セーラー服を脱がさないでのおっさんバージョン。
どこの職場でも、こんな会話、あるかもな。。。
ねえって?いや、えらそうにしている上司も、おニャン子みたさに家にすっとんで帰ってたクチだって。
そんな、バレンタインデーの、妄想とかした孟宗学園の中学校職員室の会話をお届けしたぜ。