こんばんは、へちま細太郎です。
昼休みに学食から帰ってきたら、タコ壺保健室からだみ声と関西弁の漫才がきこえてきた。
中島教授と匿名希望の東山先生だ。
「へん、ざまあみさらせ、去年の罰があたったんやで」
「何の罰だ」
「忘れたとはいわせへんで。当たってもいないのに、当たったというて、頭抱えて転げ回った演技派がおったやろ。あれや」
「そんなこともあったなあ~」
「あとで、元気よくファーストにかけていったやろ、転げまわるほど痛かったんなら、救急車で病院へソッコーや。それが自分の足でかけて、ファーストだなんておかしいやろ」
「そんな昔のこと」
「去年のことや、アホ。演技派でないとウサギチームには入団できひん」
「ふん」
「背番号19も、しゃあないな」
「あれは、オレでも好かんわ」
何の話かと思えば、日本シリーズのことか。わざわざ仙台まで見に行った中島教授は、橙魂ユニホームがよれよれになるほどのくたびれっぷりだ。
あんな悪趣味なニホームきて新幹線にのって仙台までいくなんて、どうかしている。
「僕たちがのぞいていることに気がついた中島教授は、
「おお、クソガキ。仙台土産だ、食え」
と、箱を差し出してきた。
萩の月か、笹かまか。
期待にわくわくさせていたら、お菓子はお菓子でも、
「仙台駄菓子だ。懐かしいだろ」
「懐かしいって、ぼくらまだ17歳なんですけど」
ごじゃれたお菓子を期待していたんだけど、
「駄菓子かあ」
「これはこれで、年よりくさいけど、うまいもんな」
と、わきから手がにゅっとのびてきて、誰かがかりんとうを1本むんずとつかんだ。
「あ、赤松」
「先生といえ、ばかやろう」
相変わらずねくら~い口調でぼくらを人睨みして、ふとくてかたそうな茶色いかりんとうをかじった。
かじったけど、
「あ」
がりっという音をたててかじったその口から、かりんとうのくずがこぼれおちたが、その中に、
「赤松~、歯じゃねえ?これ」
と、ぼくは茶色の中に不自然な白い塊を発見した。
「歯?」
ぽかんと開いた口には、前歯が1本かけていた。
「あ~!!」
赤松はズボンのポケットから鏡を取り出し、口をあけて確認すると絶叫した。
「ばかあ」
「口の中でとろかして食わな」
匿名希望の東山先生は、かりっと小気味よい音を立てて小さなかりんとうを一口かじったとさ。
運のないやつだね、赤松は。
ところで、あいつ、鏡なんて普段持ち歩いてんだ。気持ちわる。
こんばんは、へちま細太郎です。
今日から11月。
11月といえば、あの…あの…。
「で、ラグビーはどんなかっこすんの?」
まるまったポスターを広げ、眉間にしわを寄せながら野茂はたかのりをみた。
「水戸黄門、なんちって」
「あんたねえ、冗談かましてんじゃないわよ」
「だったら、進撃の巨人」
「あら、ぴったり」
何がぴったりなんだか。
ぼくは、藤川先生と野茂、匿名希望の東山先生との結婚騒動以来、野茂と口をあんまりきいていない。正直、藤川先生が結婚してしまうのは寂しい。だから、野茂とも東山先生とも結婚してほしくない。
ま、そんなことどうでもいいんだけどさ。
どっちかっていうと、野茂のほうがぼくを避けている。どうでもいいけどさ。
当面、ぼくの悩みは、あのあの…
「バスケはどうすんの?」
「ああ?」
ぼくは、たかのりの質問に、
「ああ~、どうすっかなあ」
と気のない返事をした。
「バスケは気の毒なキャプテンを持ったもんだな」
ラグビーの部長になったたかのりは、鼻をこすると、
「ちきしょ~!!バカ殿~、何だよ~このライティングの宿題~」
と叫んで大量のプリントを放り投げた。
ばか、ちゃんとやらねえからだよ。
宿題より、駅伝だ、こんちくしょ~。