こんにちは、へちま細太郎です。
藤川家に由来したお祭りがあるんだけど、そんなことは関係なしに、先生のうちに遊びにいった。
まあ、稲刈りも終わって脱穀もすんで、新しいもち米で餅をつくから来いってことで、いった。
そしたら、小栗先輩や水嶋先輩が競うように農業スタイルで杵をもってポーズをとっていた。
だんだんかっこづけができなくなってきた先輩たちだ。
それをあきれたように見ていた孝太郎先輩だったけど、
「餅を大量にもらって大学に持っていくと、モテるんだ」
と、瀟洒な横浜に住んでいる割には田舎じみたことをいう。
「バカいえ、都会なんて、住んでいる奴のほとんどが田舎もんだぞ。都会ぶったやつほど、つくばった山の向こう側の農村の出身なんてこともあるんだ」
「そんなもんなの?」
と、都会に縁のないぼくはちょっと考えてしまう。
「でも、俺なんか田舎丸出しが目立っちゃって目立っちゃって」
なつかしや、悠樹先輩が麦わら帽子にサングラスの姿で笑ってる。
わかるような気がする
大学を卒業したら、藤川家で働くことが決まっているんだそうだ。
「御隠居のご指名でねえ」
どうも浪人中の働っきぷりが気にいられたらしい。
「北別府さんの下で働くんだよ」
「ゆくゆくは、御家老さまだ」
「で、藤川家の誰かと結婚して、後継ぎの座を狙う…ぼっちゃんの結婚がうまくいって、種馬としての立派に役割が果たせたら出番なしだねえ」
ぼくらが、藤川先生のだめっぷりを話題に喋っていたら、
「何、あいつ、まだ結婚できないのか?」
と厭味ったらしい声が聞こえた。
誰?
振り返ると、
「あんた、来てたの?」
孝太郎先輩がふんと鼻を鳴らした。
「御挨拶だな」
と、言いながらぼくの隣に座り、
「こいつが細太郎か。へ~、イケメンじゃねえか」
「なんだ、おまえ」
ぼくは、いきなり挨拶もなしで話しかけてきた、30代も半ばなおっさんに、つい嫌味で声を返してしまった。
「オレ?おれ、ここの殿さまの弟が婿養子にきた、杉内家のおぼっちゃんだよ」
と、エラそうに答えて、ぼくにバカにしたような視線を向けてきた。
ほんと、名まえからして大嫌いになりそうな第一印象なやつだった。
ひさしぶりだ、けんちゃんだ。
香川の活躍、わくわくだ。
カズの現役は、男の希望。。。
で、バカ義弟が先日の日曜日に、タコ壺を誘って棒斐浄寺に行ったんだそうだ。
ところが、あの京尼さん、今から遊びに出かけるから留守番せえ、と二人をおいて行ってしまったんだと。
「まったく、しゃあねえなあ」
棒斐浄寺には、京さん以外にお手伝いの女性がいるんだが、
「食料の買い出しに行ってきます」
と、これまた外出。買い出しっていっても、基本食料は藤川家から届くんだが、それでも足りない時は、この女性が山を下りて最寄のスーパーに出かける。
「いったい、どうなってんだ」
台風が近づいてくるっていうのに、のんきな京さんなんだが、彼女に世間の常識が通用するわけがない。
きまず~い雰囲気が流れたんだが、庭のはじっこにすっかり餌付けされたセンイチが現れると、たちまち楽しい天気の監督と同じ名前のイノシシと、遊びに遊び、まあ、なんとか尼寺の留守番も何とか乗り切れたらしい。
で、センイチが山に帰ったあと、つい今まで手さえも握ったことのないタコ壺を押し倒して、
「ヤッちゃったのか」
と、身を乗り出してバカ殿の顔を覗き込むと、
「ほれ、この通りだが」
腕のひっかき傷を見せつつ、
「ヤッっちゃった」
と、頭をかいた。
「で?」
「でって…」
「タコ壺は、どんな反応だ」
ここでうまくいくかいかないかで、今後の藤川家の将来がかかっている。
「だから、蹴るわ、殴るわ、ひっかくわだが、ま、最後は、おとなしくはなった」
「なんだそれ、不感症か」
「いや、そうでもないとは思うんだが、まあ、3回もしちゃえばあいつも女にみえるから不思議だ」
って、おい。
「おまえな、突発的なこととはいえ、3回もすれば、跡継ぎもできるだろ」
「まあねえ、できたら結婚すればいいし、できなくてもこれをタテにとって、結婚せまればいいし」
なんだこいつ。
おりゃあ、頭抱えたね。殿様っていうのは、こいうもんなのか?
「ま、これで子供ができたら、おれも種馬としての役割を果たせたし、誰にも文句は言わないだろ」
「おまえねえ、タコ壺の気持ちって考えたことないのか」
「一応、あるよ、でも、あいつ、好きな男はいない割には結婚願望あるから、俺としても結構気に入ってたし、いつかは誘ってみようぐらいは思ってたし、よかったんじゃん」
バカか、こいつ。
こいつ、ほんとはタコ壺のことが好きなんだって気が付いていねえのかって、おりゃあ思ったね。
問題は、タコ壺の気持ちなんだが、子供ができちまったら、このバカと結婚するハメになることになるから、実に気の毒だと思ったわけだ。
でも、俺、まともな家庭に生まれてよかった、とつくづく思ったぞ~。。。
おはようございます、へちま細太郎です。
朝、登校するなり目に飛び込んできたのは、中島教授の恋人小百合の姿だった。
タコ壺保健室の前に、9月21日以来外に放り出されていた、あの不気味な蘭の原種だ。
小百合は、風にあおられて倒れたものの、ごろごろ周辺を転がって、結局はタコ壺の前に戻ってきたみたいだ。さらに、土の残骸と、落ち葉にまみれてきたくなっているジャビットも落ちていた。
タコ壺の隣のカウンセリング研究所の窓にはつば九郎が干してあり、
「祝、CS出場」
の手製の旗がはためいている。
「そりゃ、悔しいだろうねえ、阪神最下位じゃあ」
と、たかのりがいうと、突然、窓が開いて、
「アホぬかしとんじゃない!! 最下位はモバゲーやっ!!」
ひええ、聞こえてた。。。
これで、最下位だった時のことを考えたら、ぞっとした。
「ねえ、小百合とジャビットはどうすんの?」
また、余計なことをみきおが中の匿名希望の東山先生にきけば、
「ころがしときっ!!」
という、怒鳴り声が聞こえてきた。
花とぬいぐるみには、罪はないだろうに…。
が、しかし、いくらなんでも、機嫌が悪すぎるなあ。
何でだろ…。