こんにちは、へちま細太郎です。
1時間目が終了して、職員室に行っていた野茂が教室に血相をかえて駆け込んできた。
「大変、大変。片山学長が校長室に入っていて、教頭先生や阿南先生となんだかもめている」
「なんだなんだ?」
クラス中がざわめいた。
「細太郎、おめえ、なんかやったのか?」
黒板にいたずら書きをしていたたかのりが、ぼくに怒鳴る。
クラス中の視線を一斉に集めたけど、ぼくは首をふる。
「大学がらみはみんなおめえだっぺよ」
「そんなこと言われたって、知ら…、あ…」
ぼくは、先週タコ壺保健室で愚痴ったことを思い出した。
「ほら、やっぱり」
野茂がぼくの胸ぐらを捕まえて、
「あんた、何を言ったの…」
こええ~という声があがるものの、野茂にすごい剣幕でにらまれると、なんかムカついた。
「勉強したくないっていったんだよ。なんで、高校の授業を先取りしてやらなくちゃいけねえんだよ。他に受験するやつがまだいるっていうのに」
野茂の手首を捕まえ、負けずに睨み付けながら胸元から外した。
「だいたい、おめえ、高校行くのかよ」
と、小声だささやけば、
「行くわよ!!」
と、余計逆上されてぼくは野茂に突き飛ばされてひっくり返った。
「あんたなんかに、私の気持ちがわかるか!!」
そう怒鳴りながら野茂はぼくに馬乗りになると、ぼくの首をしめてきた。
「死んでしまえ、あんたなんか」
げっ。殺す気かよ、この女。
野茂は泣きながらぼくの首を絞め、さらに頭を床にガンガンぶつけてきた。
「何すんだよ」
ぼくは野茂の髪をひっぱり、
「この男女」
と、苦しい息の中思いっきり横面を張り倒した。
野茂の手が離れて、ぼくは起き上がると、
「何すんだよ、死んじゃうだろ」
と、今度は野茂を押し倒して首をしめようとした。
ぼくも、頭に血が上ってしまった。
「バカやめろ」
そばにいたしんいちとみきおが止めにはいり、なぐり合っているぼくと野茂を引き離した。
「この女、ぶっ殺してやる」
「うるせえ、このへなちょこ草食男子」
野茂の猛烈な蹴りが僕の股間を直撃。
。。。
こ、声が出ない…。
野茂のヒステリックな泣き声が耳に入ってきたけど、この首を絞められるよりつらい激痛が女にわかってたまるか。
泣けよ、バカ女。
「細太郎くん、ひどい」
はるみのきいきい声が響いてきたけど、おめえ、どっちの味方だ。
「みじめ~」
しんいちのぼつりとつぶやいた声が聞こえてきた。
女に股間を蹴られた上に、親友の1人にそんなこと言われるなんて、ぼくは気絶したいと思ったぞ。
ざわめく教室に、
「細太郎はそのままほおっておけ」
という浜中の笑い声したけど、男に見放されるって、ほんとみじめだな、と思ったね。
で、何でこんなことになったんだ?
こんにちは、へちま細太郎です。
ひまな土曜日。
することもないので、須庭寺にぶらりと遊びにいった。
「いい若いもんが、土曜日に寺に来て何をするつもりだ。友達もおらんのか」
くそ副住職のいうことなんか、もう慣れた。
「別にヒマですることないし」
「部活でもしたらどうだ」
「部活は引退。高校へ入ってからもバスケする気はないし、かといっていまさらスイミングスクールでもないし」
「ふん」
副住職さんは、鼻で笑うと、
「なら、バイクの乗り方を教えてやろうか」
と、本堂の真ん前に止まっている750CCのバイクを指差した。
ピカピカに磨きあげられたマシーンは、KAWASAKIの文字がはいっている。
「何で、HONDAじゃないの?」
ぼくは、バイクといえば、HONDAしか浮かばなかったので、素直に聞けば、
「ほんとは、SUZUKIのハスラーにしたかったんだが、それじゃああんまりミーハーなんでやめた」
と、作務衣姿でバイクにまたがる。
「鈴木?さんがハスラー?」
「てめえ、冗談かますんじゃねえ。SUZUKIのハスラーっていやあ、新サイクロン号だ」
「サイクロン?台風?」
面白いから、どんどんつっこみを入れると、ガツンと蹴りがつっこまれた。
「いてえ、何すんだよ」
「なめた口きくんじゃねえ、ハスラーっていやあ、ライダーファンなら知っていて当然だ」
ライダー…、ああ仮面ライダーか。もしかして、ゾクになった本当のきっかけは…、
「仮面ライダーになりたかったんだ、文句あっか」
と、ふんぞり返っていう。
「でも、ならなんでSUZUKIじゃないの?」
「バカ野郎、ゾクのアタマが仮面ライダー好きだなんて、口が裂けてもいえっか」
と、その時、物置から段ボール箱を抱えた割烹着姿の女性が出てきた。
「あ」
その箱に目をやった副住職さまが慌ててすっとんでいった。
「百合絵さん、それはだめだ」
「あら、どうしてですの?」
割烹着姿とはまた百合絵様もすんごいイメチェンだ。
「これは、俺の宝物だからだ」
と、段ボール箱を奪い返すと、
「ライダースナックのおまけだ」
中から古くなったお菓子の缶を大事そうに取出し、
「国宝級だ」
と、箱をすりすりした。
げっ。
「あら、それはとんだことを失礼いたしましたわ。国宝ならば宝物庫の中にしまいませんと」
還俗してもマヌケぶりはかわんないな。
「そんなことをしたら、じじいに捨てられる」
「じじいだなんて、そんな、あんなに元気ですのに」
百合絵さまはポット顔を赤らめる。
副住職さんは、苦虫をかみつぶしたような表情になって、
「こら、いつまでいるんだ、クソガキ」
と、ぼくに八つ当たりをすると箱を抱えて母屋に入ってしまった。
「なんだよ、バイクの乗り方を教えてくれるんじゃなかったのかよ」
ぼくは、にこにこ顔の百合絵さまに、
「ご住職さまとおやつにいたしましょう」
と、誘われ余計に気が抜けてしまった。
でも、ま、いいか、暇つぶしになるしね。
こんにちは、へちま細太郎です。
内部受験で、高校へ進学が決定したぼくたちに待っていたのは、
「2月からは、高校の先取り授業するからなあ」
という、しょうもないお達しだった。
「何考えてんの?」
ぼくは、大層腹が立って、
「不登校してやる」
と、またもよからぬことを考え始めた。
「高校の勉強は、高校入ってからでいいじゃん」
だいたいなんだよ、ぼくらが東大はいれば学校の評判がよくなるってそんなくだらないところだろう。生徒数激減で、私立公立問わず、学校存続に青息吐息なんだろう。
「ふん。こんなことまでして入ったって、大学なんて意味あるか」
どうせなら、中島教授や片山教授のくだらない無駄話の方が、ものすごく勉強になる。
「そうか、そうか、おまえもそう思うか。褒美に、小百合の子供をわけてやるぞ」
中島教授はご機嫌だ。
「小百合の子供って…、父おやはだれだよ」
とつぶやけば、
「当然、俺だが…」
あ~、中島教授、住職さま以上にこわい。。。
「ふん」
鼻で笑っているのは、片山教授だ。
「ぼかぁね、あんな進学のためだけの勉強なんて、やめさせたいと思っているんだ。学長として、断固中学・高校の校長に抗議するね」
「早い話、よその大学に行かれたら困るからだろう」
「あたり」
匿名希望の東山先生と、背中にMORINO 30 の文字がかかれたブルーのユニフォームをきた阿部さんが笑いあう。
阿部さん、学食の仕事はどうしたの。。。
「マッドサイエンテストの血が騒ぐな。。。細太郎、おまえが入学してきたとことを思い出すぞ」
「合宿やるか、勉強合宿」
「温泉付きの…」
二人の偉い学者さまたちは、ぼくの愚痴に何やらたくらみを覚えたらしく、お互いの悪っつらを見合わせて笑いあったのであった。
うわ~。。。またやっちまったか、ぼく。。。
こんにちは、へちま細太郎です。
昨日、雪が降ったおかげで学校は臨時休校にではなく、2時間遅れで開始、という連絡が回ってきた。それでもおとうさんは、朝早くからでかけていき、近道を抜けようとして逆に渋滞にはまり、
あげくぬかるみにはまった車を助け出そうと、みんなで協力してどろだけになったとさ。
学校に現れた時には、白い顔がどろで汚れていたらしい。
1時間遅れのスクールバス発車時刻に合わせて駅にいけば、はるみとキチローが喧嘩をしていて、たかのりがそんな二人に雪をぶつけていた。
キチローは去年の夏の終わりに、イメチェンをしたつもりだったんだけど、無理がたたってぼろが出て、結局元に戻ってしまった。要するにはるみの気をひきたかったんだろうけど、失敗してっていうことだ。ほんと、バカ野郎だ。
3学期に入ってから、中学3年間の総復習の勉強をさせられて毎日が地獄だ。
「なんだか、塾や予備校とかわんねえ」
と、ぼやくけど、
「私立っていうのはどこも同じだから」
という匿名希望の東山先生の言葉に、なんとなく納得した。
公立にいっていれば今頃受験で大変だったろうけど、でもまた違う人生…つまりはりょうこちゃんとうまくいけてたかもしれない。
「人生って複雑だ」
と、嘆いて高校生から爆笑された。
雪のせいで外は骨まで寒かったけど、暖かいバスの中のおかげで僕は爆睡した。
う~ん、心地よい時間だ。
ぼくは、はるみとキチローの延々と続く言い争いをBGMに、スリップした車を何度も遭遇したのも知らず、普段より長い長い通学時間を爆睡で過ごしたのであった。
遅ればせながら、新年のごあいさつです。
ぼくが、へちま細太郎です。
年末年始はいろいろとたてこんだりして、書けませんでした。。。
要は、作者がサボっていただけなんですけどね。
そんなわけで、本来は受験生のぼくですが、先日校内試験で無事、孟宗の高校に進学が決定しました。
合格祝いください。
あ、お年玉もください。
家族の様子ですけど、おばあちゃんもおじいちゃんもおとうさんもみんな元気です。
リカもシャカイもミッフィーも、カーペットの上でゴロゴロしています。
広之おにいちゃんと慶子おねえちゃんは、2番目の子供を作る作らないでまた喧嘩をしました。ほんとは、
「ヤラしてくれない」
と、ぼやいていた広之おにいちゃんです。
「下手じゃないとは思うんだが」
という正月早々の発言にドン引きでした。
ぼくは、相変わらずですけど。
あ、家族じゃないけど、藤川先生は年末から自宅から出してもらえず、脱走してはみつかりのオヤジに成り果てました。
顔やかっこうをみても、36のおっさんにはみえないんだけどさ。
そうだ、剛お兄ちゃん夫婦に待望の赤ちゃんが誕生して、
「俊作っていうんだ、いい名前だろ」
と、お正月にバカ親ぶりを発揮して苦笑されてました。
どう考えたって、青島俊作からとったんだろうって。
剛おにいちゃんのおくさんのおせち料理は、最高のおいしさでおばあちゃんも楽ちんなお正月だ、と大喜びでした。
その陰で、落ち込んでいた慶子お姉ちゃんでしたけどね。
と、家族の新年の様子でした。
奈々子も俊作に、ぼくも「おにいちゃん」って呼ばれるようになるんだろうな、とちょびっとうれしくなった正月でもありました。