こんばんは、へちま細太郎です。
今日は、藤川先生と広之おにいちゃん、そして奈々子と一緒に棒斐浄寺へ向かった。
ひなまつりの飾りつけが済んだからみにいらっしゃ、と招待を受けたんだけど、飾りつけが済んだ、とは思えない。
絶対に、飾りつけを手伝わせる気だ、と疑わしい。
ところが、棒斐浄寺つ到着してみると、飾りつけが済んでいる。
「なんだよ、珍しいな」
藤川先生は、棒斐浄寺の事務を扱っているきれいなお姉さんを目で追いながらへらへら笑う。
「新人?」
と聞けば、
「ばか、北別府さんの娘さんでしょ」
と、尼御前さまに怒られた。
「へ?あんなに美人だったっけ?」
広之おにいちゃんも、驚く。
「一番下のよ。仏教学部でたんですって、珍しいわよねえ。。。で、うちでお手伝い」
「ふうん」
ぼくは、奈々子が藤川家の別荘だったころからあるという雛人形を奈々子に見せながら、聞くとはなしに話をきいていた。
「そういえば、いたなあ、あの時は小学生だったっけな。いい女になったんだなあ」
広之おにいちゃんも、しみじみうなづいている。
「そうか、だから雛人形を飾れたんだな」
「まあねえ、でもそれだけじゃないし」
「それだけじゃねえって?」
藤川先生たちの会話を後ろにきいて、ぼくは奈々子を連れて庭に出た。
そういえば、この寺…というか、別荘には山からセンイチというイノシシが、たまにあらわれてエサをもらっていくということだったけど、今でも出てくるのかな。だとしたら、奈々子がけがしないようにしなくちゃ、と旧奥御殿の方に光悦垣の間をぬけてはいっていくと、紀藤造園のおじさんの丹精を込めた庭園が広がっていた。
「奈々子きれいだねえ」
ぼくは、庭の池を覗き込んでいる奈々子に話しかけると、山際のほうから黒い影がごそごそ音を立てている。
「やばい」
てっきりセンイチだと思った僕は奈々子を抱きかかえようとしたけど、その固まってしまった。
「え?」
視線の先には、黒い衣を着た尼さんが枯れ木を持って立っていた。
「…」
ぼくは、なんで日本の尼寺に、西洋の尼さんがいるのか、理解できなかった。
「あら、お客様、もういらしてたの?」
京尼御前さまと同じくらいの年のころだけど、浮世離れした風の胸に十字架を下げたシスターの出現に言葉もなく突っ立っていた。
「は?」
「アドレス変えたのなら、ちゃんと教えて欲しいなあ」
「うざい」
「減るもんじゃないだろ~」
「うざい」
「なんだよ~」
「黙れ、せんとくん」
「(° ∀° ;」
う~、それは思っていても口にしてはいけないぞ…。
へちま細太郎でした。
こんばんは、棒斐浄寺の京ちゃんよ。
今日は久しぶりにバカ弟が訪ねてきて、
「バレンタインデーまでで、あとは外すって言ってなかったか」
と、イルミネーション用のライトを見上げて文句をぶちかましてきた。
「昔あんたが乗っていた4輪に比べたらマシだと思うけどね」
弟はこれでも元暴走族だ。
「おかげで客も来てね、こんな山奥でも儲かってしょうがない」
弟は顔を覆い、激しくため息をついた。
「情けない、これが僧侶とは」
「人のこと言えんのか」
わかっている人はわかっているだろうが、こいつはうちの藤川家の菩提寺須庭寺の副住職だ。住職の娘に手を出して、本家のご隠居と住職にどつかれゾクから足を洗い、遠い北陸の地まで修行に出された。
私は、はめられたんだけどね。
「たまにさ、田吾作のバカがあらわれて、私を脅すんだけどさあ、いまさらなんなのって感じよねえ」
「は?田吾作?ねえちゃん、気は確かか」
「確かだよ~。あんまり憎たらしいから護符代わりに人参をぶら下げておくとさ、恨みがましい目でにらむんだわ」
「こんな山奥で無理もないとは思うけどさあ~」
やな視線を向けてくるな、こいつ…。
と、都合よく田吾作がふわふわと現れた。
「ほれ、見えるべ、あれだよ」
指さしてやれば、
「げっ」
弟は一瞬ひるんだが、
「おのれ、成仏させてくれるわ~」
と、数珠を取出し田吾作に向かって経を唱え始まった。
「このくそガキがあ」
田吾作のバカも負けてはいない。
「何なんだ」
さっきから背後で梯子を持った紀藤造園のおやじが呆れている。
「食い地と女好きだけじゃないんですねえ、藤川家は」
このおやじもとぼけてはいるが、しっかり田吾作が見えている。無視の仕方が半端なく、何とか気づかせようと田吾作もいたづらをかましているが、それでも知らんふりだ。
「で、どうします?外しますよ、イルミネーション。ご住職からも言われていますので」
じろりと横目でにらまれて、さすがの私も考えてしまう。
「そうだねえ」
弟と田吾作の不毛の対決をみつつ、少しは寂しいけれどイルミネーションを外す気になったのよ。
つまんないわねえ。
雪が降ってる。
う~ん、ロマンチックだ。
で、今日の朝はバス停で数人の小学校時代の先輩たちが立っていて、
「細太郎君、はいチョコと紙袋」
と、かわいくラッピングされたチョコと、なせだか紙のショッピングバッグまで渡された。
「たくさん貰えるでしょ」
「ど、どーも」
ぼくは半ばため息をついて、これから学校で渡されるだろうチョコの数を思うとうんざりした。
そこへ水嶋先輩もやってきて、
「負けそうだな」
と笑いながらも、すでにチョコが入った手提げ袋を下げていた。
「後からおすそ分けな」
(仮)有岡軍団さんがそう言いながらバスに乗り込んだ。
「また、あんたたち!」
はるみのキンキン声だ。
「いい加減あきらめたらどうよ」
「相変わらずの勘違い女」
バスの外での女同士の言い争いは、気が滅入る。
「本命はぼくだから」
キチローが自信たっぷりな態度で口をはさみ、
「うざいっ」
と一斉に怒鳴られた。
ほんと、空気読めないやつ。
学校に着いたら着いたで、高校は水嶋先輩が1番人気で、中学はぼくということになっている。
放課後、紙袋に満載されたチョコをみた浜中先生が、
「おまえね、担任差し置いて何なの」
と、ぶつぶつ文句を浴びせてきた。
「全くよぉ、合コン出れば降られる、見合いをすれば断られ、何でこうも女っ気がないんだか」
う~、ジメジメうるさい。
で、家に帰れば、
「何だよ、何で去年より増えてんだよ」
とおとうさんが恨みがましい視線を送ってきた。
そんなおとうさんを無視して、またチョコをくれた女の子の名前をせっせと、書き込むぼくだった。
でも、まだ肝心のりょうこちゃんから、今年も貰ってない。
ほんとは嫌われているのかな。
ぐすっ。
もはや、誰も見ていない大河ドラマだけど、試しに藤川先生に、
「本能寺の変の時に、藤川家は何をやっていたの?」
と聞いてみた。
「わかりきったことをきくな」
藤川先生は“ビフォーアフター”を見ながら、お尻をぽりぽり。
「食料調達?」
「ああ、秀吉とは逆方向のな、関東の滝川一益のところに向かっていたんだ」
「じゃあ、引き返せなかったんだね?」
「京極高次が邪魔しくさったんだ」
「誰」
藤川先生はいきなり起き上がると、講釈を始めた。
あ~、長くなる~。
「京極竜子の弟だ」
知らね~よ。
「浅井長政の姉妹が主筋の京極に嫁いでできた子供たちで、浅井三姉妹のいとこだよ」
「ふうん。じゃあ、何にもしなかったんだね」
「んだ、結局山崎の戦いには炊き出しで参加したくらいで」
やっぱり…。
「で、お市の方や浅井三姉妹とは」
「知らね」
「知らねって…」
「みんな忘れてたんだよ、小谷から戻ってからこっち、誰も思い出さなかったんだよ」
ひぇ~、じゃあドラマと全然違うじゃん。
「400年も前の話、誰が知ってんだ」
そりゃそ~だ。
まあ、食いしん坊が幸いして大名になったくらいの藤川家だから、歴史の細かい記録なんて残してないだろうな。
「東海荘でもリフォームしようかなあ」
東海荘は田吾作さんの隠居所だ。
「システムキッチン入れて~」
罰当たりな子孫だなあ。
「あ」
棒斐浄寺の尼さまも子孫だ…。やりかねないな。
どうせなら、どっかの子孫みたいに、オリンピックに出るくらい才能があれば、天下統一の野望を遂げられてあげられたのに…。
「うまそうな仕出し弁当だあ」
藤川先生はテレビをみて大声を張り上げた。
ダメだ、こりゃ。
こんばんは、へちま細太郎です。
今夜の天気は、雪の予報が出ている。寒いから可能性はあるけど、どうだろうなあ。。。
一昨年つくばった町に引っ越したしんいちは、
「たぶん、つくばった山の向こう側は積もるんじゃないのかなあ」
と言い、降ったら部活は中止かな、とも付け足した。
「つくばった山の向こうというと、棒斐浄寺の尼さんは大丈夫かなあ」
たかのりが寒そうに震えている。
「大丈夫だよ、電飾ピカピカだからあったかいよ」
たかひろとみきおはぴょんぴょんはねていた。
「雪が積れっていえなくなったもんね」
野茂がいさましくバレーボールを小脇に抱えて立っている。
野茂はバレー部だったんだ(たぶん)
「関東じゃ降らないから雪は見たいと思うけど、雪国の人のことを考えたら降れ降れなんて言えないよなあ」
3年生がいなくなって、中学ではぼくらが先輩として部活を引っ張っていかなくちゃならなくなって、ちょっとはおとなの会話もできるようになってきた…と思う。
だけど、雪が降るのはちょっとだけも許して欲しい。
こんばんは、へちま細太郎です。
今日は節分だ。
で、体育館でも豆まきが始まってしまい、鬼は当然…金本監督になった。
高校の野球部の監督ということもあって、野球部の先輩たちはここぞとばかりに豆をぶつけるのかと思いきや、
「誰ができるかよ~」
と、半泣きになっていた。
それくらい、野球部の監督ってこわいんだ、野球部はいらなくてよかった、と思ったけど、これって、
「いじめ?」
と、しんいちが豆をぼりぼり食べながらつぶやいていた。豆をまく気はないらしい。
「何で食ってんの」
「食わなきゃもったいないでしょ」
こいつ、ほんとは藤川家の一族なんじゃね?と思ってしまった。
「だいたい、ぶつけて困るような鬼を選ぶなんて、体育の先生たちってひどいよなあ」
「ほんとだよな」
と、いきなり入口がうるさくなったと思ったら、
「お礼参りの豆まき~」
と、OBが突撃してきた。
「懐かしい、(仮)亀梨軍団さんだ、あの時の野球部の先輩もいる」
ぼくが懐かしがっている間もなく、OBの先輩たちはけんちゃん先生や藤川先生をスルーして金本先生に突進していき、
「20過ぎれば大人の仲間、こわくないこわくない」
と、意味不明な言葉を叫びながら金本先生に大量に豆をぶつけ始まった。
「てめ~ら、この俺を誰だと思ってんだ!!」
と、鬼の姿の金本先生が金棒がわりの金属バットを振り回した。
「金鬼!!」
「バットを取り上げろ」
と、一斉に飛びかかられてしまい、頭を押さえつけ口の中に豆を流し込まれてしまった。
現役の野球部の先輩は呆然。
黒田先生と新井先生は爆笑。
久保田先生と浜中先生は恐怖で顔がひきつっていた。
「あ~あ」
藤川先生が先輩たちをひとりひとり引き離しては投げ飛ばし、
「てめ~ら、そのへんにしとけ」
と、金本先生だってびびるくらいのドスのきいた声を出した。
「おっかねえ」
「やっぱ、元ヤンだよな」
ぼくたちはすみっこで恐怖していると、意外にも金本先生は、口から豆を吐き出し、
「このやろう、今夜は覚悟しとけよ」
と、吐き出した豆を先輩たちに投げ付けた。
「年寄りには負けませんからね」
野球部のOBは在学時代の恨みを晴らしてうれしそうだった。
そんなもんかなあ。。。
やっぱり野球部の監督は、卒業したってこわいと、どこの学校でも言ってるみたいだけど。。。。
へろ~藤川だ
最近、卒業生や友人やら、結婚式の招待状が舞い込むことが多くなり、これがまた頭が痛い。
郵便物は実家に届くので、家老の北別府がわざわざ近藤家まで届けてくれるのだ。そのたんびに、
「ご分家の当主のだれそれが、おいとこのだれそれがご婚約整いましてございますよ」
と、ぐじぐじうるさい。
この北別府は筆頭家老の出なんだが、今でも家老職をやった連中のまとめ役で、くそじじいがガキのころから手塩にかけて育てた忠実な家来だ。
おまけに北別府の息子をオヤジの秘書だ。有能さでは、俺よりも弟の実孝よりも上を行くかもしれない。
まったくなあ、身近に有能な人間をもつと、苦労するぜ。。。。