家に帰るとおばあちゃんが、ネットで“SMAP”のCMをみてわらいころげていました。 おばあちゃんは、アイドル好きのミーハーなんです。
「おばあちゃんの時代には、どんなアイドルがいたの?」
「どんなアイドルっていってもねえ」
少し考えこむようにしていたおばあちゃんは、
「新・御三家かな」
といいました。
「新・御三家?」
「そう、郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎のこと」
「あ、ごぅでえすっていう人だよね」
「そうそう」
おばあちゃんは、また笑いだしました。
「“新”っていうことは、前に御三家がいたんだ」
「そうなんだよね。たぶんいってもわからないよ。おばあちゃんだって、アイドルとは思ってなかったから…あ、でも、西郷輝彦はかっこよかったかな」
「誰?」
ぼくは、くびをかしげました。
「辺見えみりのお父さんだよ」
「キム兄とかいう人と結婚した人?」
ぼくは、吉本ファンのタコ壺の先生から聞いたことを思い出しました。でも、よくわかんないや。
「スカパー!の時代劇チャンネルの、おまえが好きな“江戸を斬る”の金さん役だよ」「あー、あの人かあ」
それならわかります。てきとうにかっこいいから。 ぼくは、“江戸を斬る”の松坂慶子さんが好きです。なんとなく、ぼくの中のおかあさんのイメージが、松坂慶子さんの中にあるから。きれいだもんね。
「あ」
ネットをみていたおばあちゃんが、小さな声を出しました。
「どうしたの?」
「ファニーが死んじゃった」
「え?」
それからおばあちゃんは、ファニーという人のことを教えてくれました。
昔、レイジー(LAZY)というバンドがあって、そのベーシストだったそうです。レイジーのボーカルは、
「ドラゴンボールZの歌を歌ってる人だよ」
と、びっくりするようなことを言いました。
「じゃあ、あんまり昔の人じゃないよね」
「それに、レイジーは、おまえの好きなウルトラマンダイナの歌を歌っているしね」
またまた、びっくりです。
「そうかあ、ファニー死んじゃったんだあ」
おばあちゃんはもう一度言うと、
「なんか、さびしいんだよね。レイジーはおばあちゃんより年下だけど、テレビに出ていた人たちが死んじゃうなんて、自分の年を考えちゃって」
口だけでなく、ほんとにさびしそうな表情をしました。 もし、おばあちゃんがいなくなっちゃったら、ぼくはどうしたらいいんだろう。ぼくは、涙があふれてくるのがわかりました。
「あれ?」
おばあちゃんはぼくが涙を浮かべているのを見つけて、やれやれという顔をして、 「ばか、まだまだ死なないよ」
と、頭をポンとたたきました。
「ち、ちがうよ」
ぼくは、ごまかしておばあちゃんをみないようにして、ネットの中の、レイジーのメンバーの写真をみました。 みんな、若いかっこいいお兄ちゃんたちでした。中にはそうじゃない人もいるけど…。 きっと、この人たちは仲良しで、友だちが死んでしまって悲しいだろうなあ、と思いました。
おばあちゃん、おじいちゃん、おとうさん、そして、おかあさん、リカも長生きしてね。