こんばんは、父のピカイチです。
長いお盆休みの最終日、片山教授とタコ壷に誘われて神宮まで野球を見に行った。
半ば、強引だ。
タコ壷とバカ殿の関係は、あれからしりすぼみになるかと思いきや、何だかあちこちデートし歩いているらしい。
もっとも、本人たちはデートではないと、むきになって反論している。
ま、ど~でもいいが…。
俺と教授と広之、ひまな浜中は1塁側、タコ壷と桜井、慶子は怒号渦巻く3塁側へと別れた。
「傘、お土産ね」
おふくろの注文通り傘を家族分買った。
「こんな小さくて700円もすんのか」
痛い出費だ。
教授は、6サマこと宮本が出場できないでいることに、面白くない表情だ。
「やっぱり、宮本あってこそのスワローズだ」
と、ぶつぶつ言っていたが、タフマン先着1万名さまに大盤振る舞いというイベントに、機嫌もコロっと変わってしまった。
「滋養強壮にはタフマンが一番だ」
タコ壷保健室のドドメ色の蘭は、持ち主と違ってリポビタンDが好物だが。
試合は、3塁側から聞こえてくる「くたばれ○売、くたばれ読○」という意味不明な叫び声に、
「相手が違うだろうが」
と、広之は呆れていたが、
「11球団共通の敵なんだ」
という教授のこれまた理由になっていない理由をかまされて、反論するのをやめてしまった。
途中、タイガースのノーアウト満塁のチャンスを潰してヤンヤヤンヤの大喝采だ。
「兄弟で3アウトをとるのは、世界でもあるまい」
教授はビールをカブのみして、喜びの雄叫びだ。
対して3塁側からは、悲鳴と落胆とヤジがあがっていた。
「あの3人も怒鳴っていそうだな」
浜中も何杯めかのビールを飲み、苦笑してヤジを聞いていた。
否定できないから、黙って頷く。
試合は、8回裏に追いついたものの、9回表に6点も取られて、結局負け。
やれやれだ。
しかし、入口で待てど暮らせど3人の女どもが戻ってこない。
勝利の2次会も終わり、トラッキーも去ったはずなのに、おかしい。
「トイレか?」
「にしても、遅い…」
「ゴミ拾いしてたのよっ」
という、慶子の鬼声に俺達はびくびくっ。
「ゴミ拾い?」
広之が怪訝な表情を慶子に向けると、
「あんた、教師のくせに周りのゴミをうっちゃらかしてきたのっ?」
と、応援バットで殴り返された。
「ちゃんとゴミ置場に置いてきた」
「それだけじゃ、ダメなのっ」
慶子たち3人の後ろには、関ケ原と鳥羽・伏見の我が家の先祖たちが、タイガースのハッピを着て、ジェット風船よろしく漂っていた。
まだ、やってたのかよ~。
なに?見えてるじゃねえかだと?
気のせいだ。
阪神の勝利と同じように、気のせいだ。
と、目をこすったら、関ケ原に殴られた。
ちきしょ~っ
これから、美都まで長い時間電車に乗って帰るのかよっ
ほんと、こなきゃよかったぜ。
こんちゃあす、暑いっすね、細太郎です。
須庭寺の本堂掃除は深夜まで続き、結局泊まることになり、百合絵さまの手料理で満足。
夜は本堂で運動会、た~のしいなあ~た~のしいなあ
…なわけねえだろ、先輩たちが夜中にエロ話を始めて、寝られない。
おまけに、エロ話に近衛少将さんまで現れ、
「そちら、甘いでおじゃる」
と、大昔の武勇伝を語りだした。
「麿がの、都のみかどにそば近く仕えておじゃったおりにの、みかどの女御が麿が叔母上で確か登華殿の女御殿とおおされて」
みかどの女御様と聞いて、先輩たちの顔がにやりと笑う。
ぼくはちんぷんかんぷん…。
「その登華殿さまの女房に、妙に色っぽいおなごがおった」
「出たっ光源氏夜ばい」
「何、それ」
「ガキにはわからない話だろうな」
「てか、おめえ、古典やってねえのか」
うるせえやい。
「まあ、きけ、その登華殿の女房はの~」
と、18禁な話を明け方近くまで語り、気がつけば、住職さんまで座り込んで、ほ~ほ~と楽しげだ。
近衛少将さんのドヤ顔は、ほんとにぼくの先祖なんだろうか?と疑いたくなってきた。
ただ、近衛少将さんの子孫の一人であるたかひろは、間違いなく血をひいていると、実感したな。
暑さお見舞い申し上げます、ぼくがへちま細太郎です。
お盆の前に、副住職さんから 、
「5分で本堂に来い」
と無茶苦茶な電話があった。
ふざけるな、と悪態をついたけど、あとが怖いのでチャリに乗り、のんびり出かけていった。
「相変わらず、嫌がらせが得意なクソガキだな」
こめかみに青スジを立てて副住職さんが、本堂の入口に立っていた。
「早く来てほしけりゃ迎えによこせよな、どうせ掃除だろ」
ぼくは、今にもキレそうな副住職さんのわきから本堂に入る。すると、
「やあ」
と、またも水嶋先輩とその先祖以来のライバル美都地区豪農No.1の小栗先輩が、すでに仏像のからだを拭っていた。
「おまえの分は、あの細かいホトケさまな」
ぼくが中学1年の時、副住職さんに拉致られて以来、すっかり本堂の掃除は僕たち中学高校生の役割になってしまった。
言っとくが、ぼくんちの寺は、山の中だと一度言い訳したら、
「山元定寺の息子は、一緒に修業した中だ」
と、返ってきた。
本堂の中に、業務用扇風機が何台か置かれていたものの、暑くてたまらない。
「ったく、寺なんだから霊くらい出ろよな、そしたらいっぺんで涼しくなるってもんだ」
と、水嶋先輩が余計なことを言ってしまった。
その瞬間、
「おのぞみ通り出てやったぞ」
と、鎧甲のおじさんが、首を横に抱えた武士を連れて現れた。
「げっ」
水嶋先輩と小栗先輩は、驚いてぞうきんを落としてしまったけど、
「何でえ、そこの首のないやつ、赤松にくっついてたやつじゃん」
と、爆笑され、
「おっさん、露出のしすぎも飽きられる元だよ」
と、ツッコミを入れられる始末。
「…」
二人?は、恨めしそうな表情で、本堂の天井にへばりついている田吾作を睨みつけていたが、はあ、とため息をついた。
「慣れちゃしょうがないやねえ」
ぼくは、ふがいないごせんぞさまに苦笑いして掃除を続けたのであった。
で、赤松は今ごろ、ど~してるだろ?