日向で雪遊び

WTRPGやFGOなどのゲーム。
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読参~「機動戦士ガンダム 一年戦争史」~第4回 月の兎

2008年02月14日 | 読参小説(ガンダム 一年戦争史)
●痛み止めの休息
「全く・・・傷の具合は大丈夫か、ドジ娘」
「あはははは・・・面目ないです」

 困ったような口調の大尉に、ユキはしゅんと肩を落とす。
 先の中東作戦。それは、小隊にとって順調に進んでいた。そう、途中までは。
 作戦半ば、小隊は思わぬ連邦の反撃にあってしまった。
 これによりユキの機体は中破。幸い当たりどころが良かったのと、カトゥー大尉とトウヤが即座に敵へ対処したため、どうにか負傷で済んだ。そして、今の今まで療養していたのだ。

「大人しくしてろ・・・といいたいが、ジオンは人材不足だ。すまねぇが、今回は負傷をおしてでも出てもらうぞ。
 ただし、お嬢ちゃんは死なせねぇ。前みたいにな。だから、安心しとけ」
「大尉の言うとおりだ。そこは、きっちりな」

 大尉の後を、トウヤが継ぐ。
 しかし、それがまずかったらしい。大尉はおかしそうに口元を隠した。

「このまんまじゃ、またひよっこが慌てかねねぇしな。お嬢ちゃんは気絶しててしらねぇだろうが、ひよっこはかなり慌ててたぜ?
 まあ、あれはあれで面白かったんだが」
「大尉!? それはあれほど仰らないでと!?」
「堅いこと言いなさんな。仲間同士なんだしよ」

 慌てるトウヤにユキは目を丸くした。普段はそこそこの話程度しかしないトウヤが、自分を心配してくれているのが意外だった。
 カラカラ笑う大尉。そしてそれに顔を赤くして反論するトウヤ。気易い空気がとても心地よく感じられる。

「分かりました。私は大丈夫です」
「ふん、いい笑顔だ。頼むぜ、曹長」
「・・・え?」
「言ってなかったな。中東でのことで、お嬢ちゃんとひよっこは昇進している。二人とも曹長だ。早くおぢさんを楽にしてくれるとありがたいねぇ」
「まだそんな年齢でもないでしょうに。 ・・・確かに少々老けてはいますが」
「んだとぉ!? けつに殻がまだひっ付いてるひよっこに、このNice男児の良さがわかってたまるかぃ!!」
「・・・大尉。それ、言葉が成立してませんよ。それに、自分はもうひよっこでは・・・」
「バーロー! まだひよっこで十分よ!!」

 目の前で繰り広げられる漫才じみたやりとり。
 おかしいと同時に、だんだん恥ずかしくなってくる。

「もう、二人とも。ここ、病院なのに・・・」

 顔を伏せてぽつりとつぶやく。
 赤らめるのは、今度はユキの番であった。

●準備期間

 喉と舌で精いっぱい味わった後、口元をぬぐう。安酒を片手に、大尉は実に陽気だ。そんな大尉の側に、トウヤが控えている。一人じゃつまんねぇよ、と引っ張られたらしい。酒をあまり飲まないトウヤには、少々迷惑であった。

「ユキは問題なさそうですね・・・よかった」
「なんだ? 案外、手が速かったんだな」
「な!? 何をおっしゃるんですか!? 自分は仲間として・・・っ!?」

 ええい、このおっさんは・・・。
 頭の中で毒づきつつも、酒の飲みあいなのだからと、予てから気になることを口にする。

「大尉、酒の席の戯言とお聞きください。
 大尉はその階級の高さでありながら、しかるべき部隊がいません。もっと上の扱いをされてもいいはずなのに・・・」

 しばしの沈黙・・・しかし、カトゥー大尉は笑う。そう、いつものように。

「・・・ふん。そいつは野暮ってもんだぜ。まあ、ザビ家様の覚えがおよろしくねぇと色々とあるってことよ」
「・・・大尉、あなたは・・・」
「俺たちは所詮一兵卒よ。出来ることは限られている。だがな、駒じゃねぇ。自分の意思で戦っている。
 そしてそれは、仲間がいるからこそ出来るんだ。分かるな?」
「・・・はい、それは理解しております」
「仲間を大事にしろ。MSパイロットったって、それを作る者、輸送する者、整備する者・・・他にも様々な連中がいて初めて動かせるもんだ。特別ってわけじゃねぇ。パイロットに限らず、自分が特別だと浮かれて、分かってねぇ連中が多過ぎるがな」
「大尉・・・?」
「世の中、自分一人じゃ何もできねぇってことさ。飲み過ぎちったかな・・・ほら、行くぜ? 酒が切れちまった」
「諒解。お供します」

 まだまだ飲むことになりそうだ。これから先のことを覚悟しつつ、足を外へ向ける。
 夜は、長い。


●第2の月に兎はいるか
 今回の目的は、ルナツーの偵察と破壊工作、この2点になる
 最近、新型の戦艦が入港したらしい。それも含めての偵察だそうだ。
 噂によると、かの赤い彗星や、悪名高い海兵隊も動いているとか・・・いずれにせよ、激戦になることはまず間違いないだろう。

「凄いな・・・」

 不意に言葉が口から洩れる。
 遠目からでも凄まじいまでの弾幕が窺える。まさに、ハリネズミの如し。もしかすると、かつてのルウムの時よりも恐ろしいのかもしれない。
 腐っても連邦拠点ということか・・・トウヤは更に気を引き締める。

『いいか、ひよっこども!? まずは敵を潰しつつ、対空砲火を黙らす。
 それから突っ込んで連邦の情報収集と破壊だ。実に単純よ! 行くぜぇ!!』
『了解!!』
『諒解です、大尉!!』

 大尉は特殊チューンを施した06Sを、トウヤとユキは06Fを吹かし、今まさに戦線へと突入する。
 魔女の窯底ですら生温い、その場所へと。


●月下乱舞
「煩わしい! 邪魔だ!!」

 先程から幾度となく向かってくるトリアーエズとセイバーフィッシュ達。今も1部隊を潰したところだ。
 幾つかの防衛網を抜き、これらを蹴散らしつつも、一向に減る気配がない。自然と息が荒くなる。
 連邦は、この岩の塊にどれだけの力を蓄えているのだろうか?

『ユキ曹長、援護を頼む!!』
『は、はい!?』

 トウヤの通信にユキ機からの援護の弾幕が張られるも、ばら撒かれるそれから1機が逃れる。
 闇夜の嵐をくぐり抜けたそれはユキへと牙を剥いた。幾つかのミサイルが放たれ、損傷を与えていく。

『下がれ、ユキ!』
『くっ!? 当たりなさい!』

 やるかやられるか、それが戦場の習い。肩のシールドでダメージを減少させると、ユキは自力で敵機を破壊した。
 対MSミサイルではなかったことが幸いし、損傷はそれほど酷くはない。だが、彼女の動きはやはりぎこちのないものである。
 やはり怪我が大きいか・・・。大尉はここで一つの判断を下した。

『潮時だな・・・お嬢ちゃん、引け! ここの時点なら、まだ安全ラインだ』
『大尉!? で、ですが、私はまだ戦えます!!』
『足手纏いだってんだよ!! 死なせねぇってことは、引き際を見極められるってことだ!! それとも、俺に部下殺しをさせる気か!?』
『ユキ、戦争はまだ長引く。無理をする必要はない。お前は怪我を押して十分戦った。恥じることじゃない』

 カトゥー大尉にトウヤ曹長、そのどちらもが仲間への想いで来ている。
 悔しさで下唇を噛むも、ユキは素直にそれに従った。

『・・・わかりました。でも! でも、無理はしないで・・・』
『はっ! 誰に物を言ってやがる!』
『ああ、諒解した』

 駆けていく2機の機影。
 後ろ髪を引かれる思いを胸に、ユキは前線を離脱していくしかなかった。


●痛みの中で
 完全な乱戦。敵味方が入り混じり、安全な場所などあるはずもない。
 帰還途中、母艦を目指してどうにかやり過ごしてきたが、ボール部隊が自機に狙いを定めている。
 回避行動を!? 手持ちの武器で牽制を行いつつ、機体のスロットルに力を入れる。
 ずきり、途端、無理な機動で傷が疼いた。痛みの感覚が一瞬、集中力を奪う。だが、戦場のそれは刹那の時で決まってしまう。
 一瞬! その一瞬の最中! 機体内に大嫌いなロックの警告音が鳴り響く。
 や、やられる!? 動悸が激しくなると同時に、ユキは一つの覚悟を強いられた。
 しかし・・・。

『アハハハハハハッ!! ぼやっとしてんじゃないよ!! 死にたいのかい!』

 嘲笑染みた声が駆け巡る。それは、特別な彩色を施されたザクからのものだ。

―――MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ 海兵隊仕様―――
 高機動型ザクⅡに、更に軽量化を施した海兵隊専用の特別機。

 その声の主・・・それは、紛れもない海兵隊の長。女傑と恐れられるシーマ・ガラハウ中佐、その人である。
 中佐率いる海兵隊は、特別仕様の90mmマシンガンを持って瞬く間に周囲の敵を破壊し尽くした。
 そして用がないとばかりに消え去っていく。あとに残るはただの残骸と、呆然とするユキだけだ。

 あんな・・・女性もいるの!? 今まで見たこともないタイプの存在に、ユキは目を丸くする。
 だが、理由はどうあれ、自分は彼女によって助けられた。
 胸のざわめきを感じつつも、ユキは彼女へと感謝すると、背中に滲む汗を意識せずにはいられなかった。

「あれが、海兵隊の長の実力・・・」

●内にあるもの
 目の前にいくつもの光がを尾を引いて走る。それは新式のMAビグロ、そしてその前身であるザクレロのメガ粒子砲。
 幾重もの光線がルナツーへと向けられ、爆ぜるごとに確実に対空砲火が沈黙していく。

 ありがたい! 口の端を歪ませつつ、トウヤと大尉の機体はルナ2へと取りつこうとする。だが、敵もさる者。早々、楽には行かせてくれないらしい。
 地上でやり合った事のあるタンクもどき。それが移動砲台として砲火を向けてくる。

「連邦がぁ!! 宇宙で戦車を使うなああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 機体を旋回しつつ、回避。そして同時にバズーカを打ち込む。敵の性能は、以前の時で理解している。打ち出されたそれ、ただの一撃で弾けてしまった。

『ひよっこ! ハッチの一つをぶち壊した! 突入するぞ!』
『諒解!』

 言うや、内部へと突入する二人。
 狭いルナツーの内部でトリアーエズをマシンガンで蹴散らし、大尉がアンカーを飛ばすボールを2丁のヒートホークで切り裂く。どうやらまだまだ敵の機体がいるらしい。

『厄介なことですね。弾が足りるのか・・・』
『足らすんだ。施設の破壊もある。無駄遣いすんじゃねぇぞ』

 そう言ってシュツルムファウストを構える大尉。
 2機のザクに閃光と爆発が奔ったのは、その時だった。
 これによりカトゥー機はマシンガンごと片腕を。トウヤ機は右肩をロストする。
 二人は目の前のそれらに焦りが浮かんだ。そこには、4体ものMSがいる。3機もの鹵獲型ザクと、内一機は、見たこともない機体。それは、紛れもなく連邦の新型MSであった。

―――RGM-79 実験型ジム―――
 ルナツーのMS工場にて製造された、連邦の新型MS。ただし、先行量産型ですらない、極めて実験的な機体。
 小さな銃を持ち、その大盾には、交差した3本の剣のマークが施されていた。

 今、まさに自覚しなくてはならない。その最優先事項は、非常事態であるということだ。
 先の先制により、戦いの勢いは完全に向こうにある。加えて、彼我の数と場所の両方。最早すべきことは決まった。迅速なる撤退である。
 そしてそれをするには…。

『・・・俺が盾になる。その隙に引け!』
『な、何を馬鹿な事を!?』

 大尉が即座にシュツルムファウストが放つ。正面のザクが後続を巻き込み、そこにトウヤが左腕のマシンガンで1機のザクに止めをさす。
 それと同時に、既に大尉の機体はヒートホークで切り込んでいた。灼熱の斧が、敵の大盾を焼き斬っていく。
 しかし、ここは敵の基地内部である。何時増援が来るとも知れない・・・。

『連邦の新型MSを確認! こいつに関する情報を持ち帰るのは任務!! そして仲間を守ることが俺の役目だ!!』
『ですが、大尉!!』

 更に閃光! ビームスプレーガンがトウヤの銃器を掠め、装甲を焼いた。武装は最早、何も無い。
 当ててきたそれは、どうやら隊長機らしい。くそっ、これが連邦のMSか!!

『仲間がいるからこそだと教えたはずだ!! この情報には仲間を救える価値がある! 行け! トウヤぁっ!!』
『くっ!! 了解!!!』

 やるせない思いに歯噛みしつつも、直ちに引き返すトウヤ。
 残りのザクたちが120mmと180mmバズを構えようとするも、大尉の機体がその隙を与えない。

『させねぇよ・・・。俺が馬鹿して仲間を死なせるのは、もう嫌なんでね!』
『だから自分が捨て駒に、か? 大した覚悟だ・・・スペースノイドにしておくには惜しいな。名を聞こう』

 その隊長機は、部下を下げて高らかに言葉を放つ。戦場ではなく、まるで舞台の一角の如く。

『俺はカトゥー・トン大尉! 地球だ宇宙だ、そんな変なカテゴリーなど、どうでもいいんだよぉ!!』
『私はジャン・ジャック・ジョンソン大尉。通称、J3だ。見知りおけ!!』

 いうや、J3は大盾を前に出しての突進。カトゥーも斧を握りしめて駆ける。
 火器のない今、近接で戦うしかない。そして近接なら俺に分がある!

「撃たせねぇぞ!! 悪いがなぁ!!」

 振り下ろされるヒートホーク。真空の世界に光が走り、幾度もの斬撃で盾が溶けていく。
 しかし、敵は甘くはなかった。大盾が焼かれる中、J3は一つの脆計を行う。
 死角からの攻撃。盾超しのビームサーベルが、瞬時に06Sを貫いた。

『貴様の技量、こうでもしなければ勝てんのでな。これが最大の敬意と思え』

 警告音が鳴る中で、ふと、大尉は自分の斧へと目をやった。そして笑う。いつもの様に。
 それが、負け惜しみであることも理解して。

『ふん・・・片腕をやられちまった時点で、俺のツキはなくなってたか・・・だが、無駄じゃねえ。トウヤが、きっと・・・』

 通信は、そこで途切れた・・・。




 大尉が盾となったこともあり、からくもルナ2を脱出するトウヤ。
 ルナツー防衛網の突破。対空砲火の嵐。そして内部での戦闘と、既に愛機は満身創痍である。
 しかし、何としてでもこの情報を持ち帰らなければならない。機体に最大限の火をいれ、母艦へと向かわせる。

「・・・しょう・・・畜生! 畜生!! 畜生ぉぉおぉおおおおお!!!!!」

 コクピットの叫びは、決して外へはこだましない。
 ただただ、あの人を救えなかった無念と未熟さ。そして、あのマークの入った敵への怒り。
 それらが収束されては吐き出され、何時止むとも知れなかった。



―――次回、オデッサ作戦―――



●今回の大雑把な結果
・ジオン
施設破壊と偵察など、おおよその目的を達成。

・連邦
MS工場等は防衛。
ホワイトベース、損傷するも地球へ降下。

今回の選択機体:MS-06F
当時の選択可能なジオンの機体(ただし、物によって、階級、記章などの制限あり)
・MS-05B(旧ザク)
・MS-06A
・MS-06C (耐核仕様ザク)
・MS-06F
・MS-06S
・MS-06R-1A 高機動型ザクⅡ
・MS-06R-1M 高機動型ザクⅡ 海兵隊仕様
・ビグロ
・ジッコ
・ガトル


・キャラ紹介
ユキ・イザヨイ
16歳の女の子。学徒動員でもないのに若すぎ(爆)
少しドジだけど明るい良い子。今回のことで、果たして彼女はどうなるのか・・・。



 はい、ルナツー戦をお送りしました。
 結果としては、双方の痛み分けということになりますね。豪州を完全に守り切った分だけ、連邦有利となっています。
 で、今回のガンタンク・・・要は前回にも出ていたやつですが、連邦サイドですと、宇宙で選択できました。まぢで勘弁してください(爆)
 トウヤのあの叫びは、ある意味ユキギリの代弁みたいなものです。そういえば、似たようなセリフがVガンダムにもありましたっけ(苦笑)

 尚、今回出てきたジムですが、読参では出てきておりません。読参と連動したゲームギャザの小説に、ジムの工場がちらりと出ていたので、それを膨らませて出してみました。
 「何機かは実験用に組まれてるのでは?」+「危機の際には使えるものは何でも使う」で、こういうのもありかなぁ、と・・・。

 しっかし、PCのMSを含めて軽く1000機以上参戦してるっぽいのですが、これで墜ちないルナ2はどんだけだと。
 史実のルウム戦役の際のジオンのMS投入数が約3000(ウィキペディア調べ)とあるので、どれだけ堅牢なのかお分かりになると思います。 
 まあ、撃墜制限があるし、これも仕方ないのかも・・・(はふぅ) 


 それと今更ながらにですみませんが、ハガキの返信結果等は細かくはリプレイに反映させてはおりません。
 戦果が大きかった際には相応の。逆に、低かった場合は低い活躍となっております。
 というのも、先に述べた撃墜数制限があり、トップの人でさえ最大撃墜数が「8機」ですので、文字通りお話にならないんですよorz
 ただ、負傷などは反映させております。今回のユキがそうですね。能力値が幾つかマイナス修正食らっとりました。

 で、次回はオデッサになります。ええ、マの人やレビルが激突するあの戦場です。
 うおおおおお、今考えると展開早いよー!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/


※尚、この回の結果は「ゲームギャザ 2000:5月号 vol.9(HOBBY JAPAN)」に収録されたものとなります。
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