かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

責任販売制でその問題は解決しない

2009年06月22日 | 書店業界(薄利多売は悪くない)
返品率の問題、粗利の低い業界体質は、
責任販売制ではなにも改善されない

http://www.asahi.com/national/update/0622/TKY200906210201.html

この流れがこのところ常識のように業界で語られているのですが、
こうした考え方が私には、返品率が上がっている問題の解決方法としてばかりでなく、
利益幅を上げる解決策としても、有効な考えであるとはとても思えません。

まず、この間、上がり続けている返品率の第一の原因は、
市場そのものが縮小し続けている時代であるにもかかわらず、委託販売システムにのった出版社が新刊をつくりつづけて、
仮想売り上げを計上する体質が加速していること、
この構造が、売り上げが下がっている書店にも、勝手な送りつけ商品が絶えず送品されてくる現状を放置して、
一部送品の買い切りへの移行をはかっても、なんら返品率低下には寄与しないと思います。

返品率を下げるために第一に必要なことは、
責任販売制という言葉から発想することよりも、
新刊予約のできる、アメリカのカタログ事前注文システムのようなもので
小売店がきちんと自店の仕入れる商品の取捨選択ができるシステムこそ、
まず第一に考えなければならないと思います。

つまり、発売日に入荷する商品を、書店がきちんと選定出来るシステムということです。
書店が、自分の店に配本される商品の選択権を持たないまま、現状のパターン配本の枠内で
特定の商品だけを責任販売制の商品にしたところで、いくらその枠を将来拡大していっても、
店の棚回転が上がることにはとうていつながらないからです。

棚回転をあげるという表現を使うと、どうも金太郎飴化する書店のイメージで取られがちですが、
表現を変えれば、顧客の購買頻度を上げること、購入回数の多い棚(店)をつくるということです。

業界全体で棚回転(顧客の購買頻度)落ちていく現状を放置したまま、その効率の悪さや
顧客の需要に合致しない配本、仕入れシステムにメスを入れず、責任販売制で返品率を下げたいとか
粗利を少し上げたいとか、そのような発想では絶対に経営改善はされないと思います。

多少粗利の良い商品が増えても、仕入れ数の読み間違いで棚一段に1冊でも、売れ残りの本が長く鎮座するようになってしまったら
その棚の鮮度やまわりの商品の動き、棚の魅力は激減してしまいます。
もちろん、そのような売れ残り商品は、きちんとした小売店であれば、
棚に残さず、二次市場や廃棄処分すべきものですが、
そのコストを勘案すれば、僅かばかりの正味引き下げでは歩はあいません。

もちろん仕入れの精度を上げることは、必須の条件ですが、
どんなに科学的なデータをもとにしたとしても新刊書を10冊仕入れて、1冊の誤差も生まないなどということはありえません。
そのロスを避けるということは、売り損じを覚悟で売り切り販売を徹底するということです。

市場が縮小していく時代に、経営改善につながる、あるいは顧客の期待を裏切らないための改善策とは、
決してそのようなものではなく、棚回転が上がるというと必ず誤解されるので、この表現は避けますが
顧客の購買頻度が上がること、さらに言えば、その顧客の期待にこたえるべく
ベスト10の次の11番目から100番目500番目の商品から自店の需要にあった商品をしっかり仕入れる体制が
まず求められるのではないかと思います。

ひとつの商品の効率を上げることよりも、
この商品が売れなければ、絶えず他の商品に入れ替えられていく棚こそ、
顧客にとってより魅力的な本屋の棚であるはずです。

この間、多くの書店は、売場面積、在庫の絶対量を増やすことでこそ、その顧客の需要に応えられるのだと、店の大型化にばかり取り組んできました。

ところが、300坪、500坪の書店を見ても、きっとかなりの商品の配本はされているはずなのですが、まさに11番目から500番目の需要のある本の仕入れがされておらず、たくさんあるのに欲しいものがない本屋を増やし続けてきています。

月商3000万円、5000万円の店であれば、さぞ配本も多かろうと思いますが、今の全国のそのクラスの書店には、必ずしもその11番目以下のマークすべき本は入っていません。

一昔前に比べたらPOSデータ管理は徹底して、商品管理の効率化はかなり進歩したかに見えますが、データを活かし見る余裕もないまま、肝心な仕入れのレベル向上がはかられているとは言い難い現状だと思います。

それを実現するには、極論に聞こえるかもしれませんが、
まず現状のパターン配本システムを無くすことです。

すべて一挙に廃止する必要はありませんが、少なくとも、発売日に必要な本、不要な本の調整がきちんとできるシステムということです。

顧客の需要をきちんと見ている書店は、必ず新刊リスト全点に目を通しています。
パターン配本に依存した現状では、そんな面倒なこととても出来ないとの返事がすぐに返ってきますが、
顧客が欲する物を真剣に探す小売業であるならば、これは大前提の作業なのです。

ここに踏み込まない限り、読者の信頼を得られる書店に近づく道はありえません。
もちろん、何から何まで目を通すことなく、ある程度効率的なパターンに依存しても済む領域もありますが、
日々、新しく面白い情報を求めている雑多多様な顧客の要望にこたえるためには、
出来る限り全点に目を通すということは、何よりも大事なことなのです。

これから10年で、おそらくたくさんの書店や出版社が消えてなくなることと思いますが、
生き残る書店がどのような店なのかを考えると、顧客の要望にきめ細かく応えられるかどうかにかかっていることは間違いありません。

経営が苦しいからといって、この部分の経費(人件費)を削っている限り、
顧客には絶対に近づけないのです。

現状でこのような発想は、とても困難で現実的でないかのようにとられがちですが、
すぐれたバイヤーが育つ環境は、このようなことが出来れば自然に育つものと確信します。

右から左へものを流すだけの商売は、業種を問わず生き残れない時代です。
業界内の利益配分の見直しは、確かに必要なことですが、
今の苦しい経営は、正味の見直しで解決できるものではありません。

むしろ粗利が低いことでこそ、顧客の購買回数を増やすサービスに向かうのであり
さらに参入障壁を高くして、競争力の高い書店を生みだす絶好の条件なのです。

こんな発言をしても、今の業界には虚しいばかりですが、
小売業の原則から、あまりにもかけ離れた発想が、読者から見はなされた書店を生み続けているように思えてなりません。

ベスト10の本を追いかけること、
それは業務の比率からすれば、大事なことではありますが、二次的なことです。

大事なのは、11番目から100番目、500番目の商品から自店の需要にあった本をどんどん仕入、
棚の商品を次から次へと入れ替えていくことです。

こうした目標を持った書店にとって、責任販売制は、決してありがたいものではありません。

まさに時代のパラダイムが、デジタル社会に向かって大きく変わろうとしている今、情報の管理能力というものを真正面から考えなければ、経営改善の糸口は決して見えてくるものではないと思います。
コメント
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