先日、「昭和ラヂオ」の収録で「昭和の差別と貧困」といったテーマの話しに参加してきました。
「日本残酷物語」(平凡社)という本を最初に取り上げたのですが、幅広い分野にわたって様々な階層で差別や貧困の実態が全7巻(内、別巻2冊)にまとめられているのを見ると、最近、貧農史観の見直しなどが行われたものの、やはり圧倒的多数の歴史の人びとはいつの時代でも貧困や差別のなかにあったのではないかと感じられます。
飢餓や貧困、あるいは戦争で亡くなった人びと、その多くは墓碑も残らないような最期であったかもしれません。運よく旅の僧が亡骸を弔い、天国へ行けた人はどれだけいたでしょうか。
などといったようなことを考えていたら、ふと思いました。
地獄の閻魔さま。
はるか昔から地獄に堕ちた人びとを裁いている大王さまです。
彼は、これまで相当多くの人間の業(ごう)を見て来たことでしょう。
いやと言えずに人を殺してしまった兵士。
貧困から逃れるために犯罪にはしってしまった人びと。
家庭の事情で間引きすることしか出来なかった母親。
人を騙すことでしか日銭を得ることを知らなかった男。
・・・などなど数多の人たち
歴史を振りかえってそのひとつひとつを見ると、多くの人びとは、そのときそうすることしか出来なかった人びとで、いったい誰がそれを裁くことができるのだろうかと思えてきます。
ただ、地獄の閻魔さまだけがその困難を引き受けてくれている。
考えてみれば地獄の閻魔さまほど、人間の深い闇の部分、弱さをつぶさに見つづけて来た人(?)はいないと思います。
慈悲のこころで優しくつつみ込む天国の仏さま以上に、個別の罪悪の実態を詳細に知り、人間というものの生々しい姿をもっとも知りつくしている人(?)こそ閻魔大王でしょう。
・・・・とするならば、
閻魔大王こそが、この世とあの世で最も話のわかるヤツなんじゃないかな?
私は、人から自分の最も尊敬する人物は誰かと聞かれても、なかなかすぐに思い浮かぶ人はいませんでした。
上杉鷹山?
二宮金次郎?
ガンジー?
聖徳太子?
暴君に仕えた名参謀、周恩来?
モノづくりの師匠、摺本好作さん?
自分の両親?
私を支えてくれている妻?
これらどのひとりも良いけれど、今やっと自信を持って言える人が現れました。
地獄の閻魔さま!
人間の最も弱い部分、醜い部分を知り尽くした男。
彼ほど話のわかる男は、おそらく他にはいないだろう。
彼なら、どんな話を持ちかけても、しっかり眼を見て、微動だにせず聞いてくれること間違いない。
おそらく地獄絵に出てくるような顔よりもずっといい男であると思います。
「地獄は一定すみかぞかし」の我が心情と、最高の酒を一升持っていけば、閻魔さまこそ最高の話し相手になってくれるのではないかと思われます。
今すぐ会うのは、帰ってくるのが難しいので、老後の先の楽しみとしてとっておくことにします。
このことに気づいたおかげで、生きるのも死ぬのもどちらも、私にとっては同等に楽しくなりました(笑)