かつて人間は、自らのコントロールの及ばない圧倒的な大自然のなかで生きていました。
そうした環境下で人間は、「仕方がない」という言葉とともに何事も受け入れて生きていました。
それが都市の発達とともに人間は、自然の驚異から守られた人工物のなかだけで安心して暮らせるようになってきました。
そこでは何かコトが起こると、「誰がやったんだ」と責任を追及する(できる)社会になっています。
ところがいつの間にか、自然の脅威からは安全なはずの人工物だけに囲まれた都市のなかも、人びとのコントロールの及ばない、予測もつかない経済、国家、政治、民主主義、災害、近隣の人間関係などがあふれるようになっていました。もはや個人は、人工都市のなかでも、どの道を選択したら良いのか、どのレールに乗ったら良いのかもわからなく、何も保障されない社会に生きているかのようです。
大自然の脅威から逃れる場として発達したはずの都市の中でも、人間のコントロールの及ばないことがこれほどまでに増えた現代では、「仕方がない」との言葉とともに若者が政治離れを引き起こすのも無理もないことに思えてきます。
そのような時代の「民主主義」のしくみは、いまだに一枚の紙きれに個人の名前や政党名を書くだけで当選者にすべてを託してしまう「一票丸投げ民主主義」という実態です。現代の科学技術の進歩した世の中では、信じがたいほど硬直したシステムのなかで動いています。
台湾のオードリー・タンが提唱しているように、一人一票の多数決のみが民主主義ではありません。
ここで若者の投票率を上げましょうといったことは、必要な大事なことではあるものの、その結果は仮に成果が出たとしても「超超マイノリティーの若者が、超マイノリティーに格上げ」(成田悠輔)される程度のことにしかすぎません。
一票の格差の問題が憲法違反だからといって、それを是正するだけで今の日本の問題が解決するわけではありません。
そもそもこれだけ多様化している社会の諸問題を、一票の選択だけですべてを特定の政党や個人に一任してしまうこと自体が、相当な無理を強いられていると言えます。
教育、医療、福祉、外交、防衛、財政など多岐にわたる諸課題をすべてこの政党や個人の言っていることが正しいのでそこに一票を投じるのではなく、教育、医療、福祉はA党。外交、防衛がB党、財政政策はC党などと分野によって分けられるべき時代になっているのではないでしょうか。
現状の一票丸投げ民主主義の問題には、こうした多岐にわたる諸課題は一つの政党や個人にすべての項目を一任してしまう問題と、一度当選した政党や政治家個人に対して、その後に行っている行動をきちんと監視して、問題があったらすぐに是正させたり解任したりする力や権限を、次の選挙までの間、国民がほとんど持ち合わせていないという二つの問題があります。
こうした複雑な構図こそ、AIなどにまず問題を整理させ、自動的に導き出せる領域は答えを出した上で、われわれの判断に任せる仕組みが必要になってきているのだと思います。
失われた10年が20年になり、間違いなく30年を越えようともしている今、選挙で日本の根本矛盾を問うようなことは争点にさえなっていません。
本書では、これらのことについて、ノートのように思いついたことを列挙しており、こんなまとめ方で本になるのかとさえ思えるものですが、だからこそ、読者の思考を促がす格好の構成になっているともいえます。
ネット上では名の知れた方ですが、ちょっと体裁も提案の中身も前例のないものでありながら出足好調です。
日本の現状にウンザリしている方には、おすすめの1冊です。
#成田悠輔 #22世紀の民主主義
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