今回は、社会保障の財源の話です。社会保険の財源として、かなりの税が投入さ
れています。社会保険は、「リスクを分散する」という保険の考えに基づきつつ、
「社会扶助」としての一面も併せ持つしくみなのですね。
参考:公的扶助
国等の公的機関が主体となって、一般租税を財源にして、貧困者に最低限の生活
を保障するために行う経済的援助。
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国民皆保険・皆年金(3)社会保険の財源
■だれが負担しているか
社会保険の財源は、原則、保険料です。サラリーマンなどが加入する被用者保
険では、被用者(サラリーマンなど雇われて働いている人)だけではなく、事業
主も負担します。ただし、保険料の負担が重くなり過ぎないよう、国や地方自治
体による税金の投入もされています。
社会保険の仕組みで年金や医療を運営する国々の中で、日本は税金の投入割合
が高い国だといわれます。下の図は、平成24年版厚生労働白書に掲載されてい
る「社会保障財源の全体像(イメージ)」です。
これを見ても、社会保険で運営されている年金や医療などの制度に、かなりの
税金が投入されているのがわかります。例えば、全国民に給付される基礎年金に
は国の税金が2分の1投入されていますし、自営業者や無職の人などが加入し、
医療サービスを受ける国民健康保険にも、国と自治体(都道府県)の税金が2分
の1投入されています。また、高齢者に介護サービスを給付する介護保険でも、
国と自治体(都道府県、市町村)の税金が2分の1投入されています。
■「保険」か「扶助」か
「税金の割合が5割を超えたら、もはや社会保険とは呼べない」と言われるこ
とがあります。確かに、給付を賄う費用の半分以上を税金で占めるようになった
ら、社会保険とは呼びにくいかもしれません。社会保障の仕組みには、社会保険
のほかに、保険の仕組みを用いず、税金を財源とする「社会扶助」という給付の
仕組みもあります。税金の割合が高まると、その制度は社会保険ではなく、社会
扶助の仕組みで運営されているのではないかということにもなりかねません。
税金がどの程度まで入ると社会保険と呼べなくなるかについての定説はありま
せん。しかし、社会保険の最大の特徴は、「保険料の拠出をしたことで、給付の
権利が得られる」ことですから、その方式にのっとって運営されている限りは、
公費の投入割合が5割を超えても、社会保険と呼んでよいと思います。
■社会保険が広まったわけ
社会保険は、「鉄血宰相」と呼ばれたドイツのビスマルクが、1883年に、
疾病保険(医療保険)を作ったのが世界で最初といわれています。それまでも、
工場などで働く人たちが、お金を出し合って自分たちで助け合う仕組みがありま
した。それを全国的に、法律に基づく制度にまで高めたのがビスマルクです。
当時、ドイツでは、労働争議が頻発していたため、ビスマルクは、社会主義的
な運動を取り締まる一方、労働者の生活を守るものとして社会保険を作ったので
す。このため、「飴(あめ)と鞭(むち)」の政策と呼ばれることもあります。
従来、貧しい人を救う政策は税金で行われることが多かったのですが、それだ
と給付を受ける際に、「ただで、施しのように受けるので、恥ずかしい」といっ
たスティグマ(恥辱、不名誉)を伴いがちだとされました。一方、保険料を払っ
た見返りに給付を受けることができる社会保険の仕組みは、より権利性が高く、
負担と給付の関係もわかりやすいと考えられました。そこでドイツで誕生後、社
会保険の仕組みは世界中に広まっていったのです。
また、社会保険は、「リスクを分散する」という保険の考えに基づくため、給
付の対象を、一部の貧しい人たち(恵まれない人たち)から、一般国民にまで広
げることができたともいわれています。
こうしてみてくると、社会保険は、自立・自助の精神に基づき、能力に応じて
保険料を拠出し、権利として必要な給付を受けられるなど、長所が多いように思
えます。しかし、社会保険ゆえの課題や短所も多くあります。次回、さらに見て
いきたいと思います。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=78620&from=popin
れています。社会保険は、「リスクを分散する」という保険の考えに基づきつつ、
「社会扶助」としての一面も併せ持つしくみなのですね。
参考:公的扶助
国等の公的機関が主体となって、一般租税を財源にして、貧困者に最低限の生活
を保障するために行う経済的援助。
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国民皆保険・皆年金(3)社会保険の財源
■だれが負担しているか
社会保険の財源は、原則、保険料です。サラリーマンなどが加入する被用者保
険では、被用者(サラリーマンなど雇われて働いている人)だけではなく、事業
主も負担します。ただし、保険料の負担が重くなり過ぎないよう、国や地方自治
体による税金の投入もされています。
社会保険の仕組みで年金や医療を運営する国々の中で、日本は税金の投入割合
が高い国だといわれます。下の図は、平成24年版厚生労働白書に掲載されてい
る「社会保障財源の全体像(イメージ)」です。
これを見ても、社会保険で運営されている年金や医療などの制度に、かなりの
税金が投入されているのがわかります。例えば、全国民に給付される基礎年金に
は国の税金が2分の1投入されていますし、自営業者や無職の人などが加入し、
医療サービスを受ける国民健康保険にも、国と自治体(都道府県)の税金が2分
の1投入されています。また、高齢者に介護サービスを給付する介護保険でも、
国と自治体(都道府県、市町村)の税金が2分の1投入されています。
■「保険」か「扶助」か
「税金の割合が5割を超えたら、もはや社会保険とは呼べない」と言われるこ
とがあります。確かに、給付を賄う費用の半分以上を税金で占めるようになった
ら、社会保険とは呼びにくいかもしれません。社会保障の仕組みには、社会保険
のほかに、保険の仕組みを用いず、税金を財源とする「社会扶助」という給付の
仕組みもあります。税金の割合が高まると、その制度は社会保険ではなく、社会
扶助の仕組みで運営されているのではないかということにもなりかねません。
税金がどの程度まで入ると社会保険と呼べなくなるかについての定説はありま
せん。しかし、社会保険の最大の特徴は、「保険料の拠出をしたことで、給付の
権利が得られる」ことですから、その方式にのっとって運営されている限りは、
公費の投入割合が5割を超えても、社会保険と呼んでよいと思います。
■社会保険が広まったわけ
社会保険は、「鉄血宰相」と呼ばれたドイツのビスマルクが、1883年に、
疾病保険(医療保険)を作ったのが世界で最初といわれています。それまでも、
工場などで働く人たちが、お金を出し合って自分たちで助け合う仕組みがありま
した。それを全国的に、法律に基づく制度にまで高めたのがビスマルクです。
当時、ドイツでは、労働争議が頻発していたため、ビスマルクは、社会主義的
な運動を取り締まる一方、労働者の生活を守るものとして社会保険を作ったので
す。このため、「飴(あめ)と鞭(むち)」の政策と呼ばれることもあります。
従来、貧しい人を救う政策は税金で行われることが多かったのですが、それだ
と給付を受ける際に、「ただで、施しのように受けるので、恥ずかしい」といっ
たスティグマ(恥辱、不名誉)を伴いがちだとされました。一方、保険料を払っ
た見返りに給付を受けることができる社会保険の仕組みは、より権利性が高く、
負担と給付の関係もわかりやすいと考えられました。そこでドイツで誕生後、社
会保険の仕組みは世界中に広まっていったのです。
また、社会保険は、「リスクを分散する」という保険の考えに基づくため、給
付の対象を、一部の貧しい人たち(恵まれない人たち)から、一般国民にまで広
げることができたともいわれています。
こうしてみてくると、社会保険は、自立・自助の精神に基づき、能力に応じて
保険料を拠出し、権利として必要な給付を受けられるなど、長所が多いように思
えます。しかし、社会保険ゆえの課題や短所も多くあります。次回、さらに見て
いきたいと思います。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=78620&from=popin