良書でした。『高学歴ワーキングプア』フリーター生産工場としての大学院(光文社新書)。本書は著者の水月昭道氏自身の豊かな経歴が結実している傑作。私大中退し仕事を各地で転々。その後、私大工学部を卒業して九州大学大学院博士課程修了。人間環境学博士号を取得。そして得度(出家・浄土真宗)・・。
ポスドクの雇用不安は変わらず
「ポポロの広場」では2009年6月11日にCOE(center of excellence=卓越した研究拠点)の大学提携として明治大&龍谷大、群馬大&秋田大を話題にしました。そこでCOEがポスドグ(博士研究員)のステップアップになるのではないかなどと楽観的に書いていた。しかし高学歴者ポスドグの雇用問題は深刻と当時も認識はしていたが、本書を読み改めてその深刻さを強く感じた。
今回『高学歴ワーキングプア』を読んで、なぜ博士が激増し就職難なのか、そのからくりが良く理解できた。「末は博士か、大臣か」は、もはや終わっている。平成の時代では「博士=フリーター」の現象も。大学院生が急激に増えたその原因はなんと「産めよ増やせよ」の国家政策にあったのだ。
大学経営を救った院生たち
最近ではテレビや新聞に出てくる教授たちの肩書は「○○大学大学院教授」というのがほとんどになった。大学の中心が「学部」から「院」にシフトした結果である。「大学院重点化」政策が施行され、大学院を設置することで文科省から予算の25%増がプレゼントされる。大学経営者・理事会はこれに飛びついた。少子化でお客さま(学生)が減ることによる経営危機を「大学院生」急増でしのげる。そして甘い既得権益も守れる。院生の新規獲得で“大学ゾンビ”は生き返った。仕掛け人は文科省と東大だった。
「就職難」は「自己責任」でポイ
就職できない“フリーター博士”や“無職博士”たちは個人の努力が足りなかったわけではなく、博士が国家政策的に大量生産された結果、教員市場が完全崩壊をきたしたことでワーキングプアが生まれている。就職先としての教員市場に博士はすでに供給過剰。買い手市場に陥っていて非常勤講師などの非正規雇用者がどんどん増加している。一般企業や公務員の職場も似た傾向を示しているがここではさらにそれが著しい。
人材活用しないは社会的損失
博士をフリーターにしていることは世の中の損失。専門を極めた人間をまったく関係のない仕事につけることは社会全体の不利益なのだ。一人の博士号取得者ができるまでには国公立、私立とも多額の税金が投入されている。ノラ博士(野良犬のようにさ迷う無職の博士)、ノラ法務博士(法科大学院修了者)は一体どのように社会的還元を図ったらよいのでしょうか。
著者は「利他の精神を失い自らが生き延びることを優先してきた学校法人。高学歴ワーキングプアたちは彼らに食い物にされた被害者なのだ。」と。
著者の主張する通りだと思った。やむなく「パチプロ博士」になっている人や「コンビニ店員博士」になっている人など追跡事例や最近の大学院用語の解説、大学及び大学院の内幕など、本書は、ぜひ現役学生や志願者、保護者にも知っておきたいことばかりだった。
既得権益者を守る国策
25%増しの補助金による“博士乱造”の国策。この辺がポイントと感じました。
にほんブログ村 日本経済