私は中学生の頃から歌舞伎や文楽が好きで、大学の頃は歌舞伎研究会に入っていたこともありました。勤めに出るようになってからは、忙しさや日頃の疲れのためか、それまでよりも劇場に足を向ける頻度も減ってしまいましたが、ことに現在の境遇に身を置いてからは、経済的な理由や人形作りの際(きわ)などにより、劇場の敷居が高くなってしまいました。今年を振り返ってみると春の国立劇場の「切られお富」を観に行っただけでした。芝居好きの方それぞれに好みや御贔屓の役者さんがあるわけですが、私の好みは「じっくり、たっぷりとした芝居」が観たいので自然と現役の役者さんでは吉右衛門丈の演しものに関心がいくわけで、9月歌舞伎座の「法界坊」と「太十」(絵本大功記十段目)も行きたくてうずうずしていらもののお金と時間がなくて残念なことをしました。今年も残すところわずかという昨日念願の吉右衛門丈の「伊賀越」の通しを観に国立劇場へ出かけてきました。
特に今回上演される「岡崎」はかねてから聞き及ぶ名場面ということで、また戦後ほとんど上演されたことがなく、私にとってははじめて観る場面。これを観逃がせば後悔が残るので出かけましたが、やっぱり観てよかったです。
せっかく観るのだから奮発して一階揚幕横の座席から、、。国立劇場は比較的料金も安く私のような者にはうれしいです。眼目の「岡崎」の場、我が子を殺して土間に投げるという酷さもあるという先入観はありましたが、人間と人間の情けの綾が描き込んであり、それを吉右衛門丈、芝雀丈他のじっくりとした芝居で、恥ずかしながらうるうるとしてしまい、袖で拭き拭き観たというありさまでした。でもせっかくお金を払って観るものなので、思いっきり笑ったり、泣いたり、感動できるということがないと「元が取れた」気持ちがしないというせこい考えを持っています。せこさのついでに劇場内での飲み食いは外で食べるよりお金がかかるものなので、昨日は西友ストアのお弁当や飲み物をたくさん買い込んで持っていきました。
やっぱり吉右衛門丈の芝居は「元が取れ」ました。よかった。よかった。