「一日千秋の思い」で待っていた娘の帰省。
もっとも、何も可愛いからではないし、懐かしいからでもない、ただオーディオのスピーカーを動かすのに「最適の助っ人」の出現をひたすら待ち焦がれていたというのがその理由。
娘は「一人っ子」で現在、大阪で勤務しており2ヶ月に1度くらいのペースで別府に帰ってくる。いつも2~3日ほど滞在するが今回はお盆休みということで8日に帰ってきて、17日に戻るという超ロング休暇。
たっぷりと時間があるので、ご機嫌のいいときを見計らって、スピーカーの移動を手伝わせようという魂胆だったが、出迎えのJR別府駅で顔を合わせるなり「今日の午後にスピーカーの移動をするので手伝ってね~」と思わず”いきなり”の発言が自然と飛び出した。とにかく頭の中はオーディオのことでいっぱいなのである。
さて、スピーカーといってもそんじょそこらの軽いスピーカーではない。1本が重さ110kgほどの超重量級の「タンノイ・ウェストミンスター」である。オーディオ仲間に手伝ってもらうのもいいが、いずれも自分と同様のかなりの高齢者ばかり。
作業中に腰でも痛められたらそれこそ大変、ご家族に申し訳ないし取り返しのつかないことになる。その点自分の家族なら万一のときでも気楽である。
これまで、横向きにして変則的に使ってきたウェストミンスターだが、今回は正規の使い方どおり縦向きに起こして使おうという算段。中に入れるSPユニットは愛用の「アキシオム80」。
こういう「ウェストミンスターとアキシオム80」の組合わせは日本はおろか世界にもあまりあるまい。果たしてどんな音がするか、考えついた4~5日前から胸がワクワクしてもうたまらない。
さて、昼食後に準備万端整えていよいよ作業に掛かる。
このところ、意図的に家の掃除を手伝ったり買い物に付き合うなど周到な準備のもと、やや覚えがめでたくなっているカミサンも一つ返事で引き受けてくれたので自分を入れて3人による合同作業。
とにかく想像以上の重たさで3人ともフーフー云いながらの危険極まりない作業だった。足を挟みこまないように声を出し合いながらようやく設置完了。これでもう半分以上の目的は達したようなもので女性軍は無事解放、これからは自分ひとりの孤独な作業になる。
まず、これまで使ってきた平面バッフルから取り外して、補助バッフルへのアキシオム80の取り付け。前もって購入しておいた5×35のネジで4箇所みっちりと締め上げる。これが左右2本でその後にSPコードのハンダ付け。それが済むと今度は補助バッフルをSP本体に取り付け。
1 2 3 4
1と2が補助バッフルへの取り付け写真。3がウェストミンスターへの取り付け終了後に表側正面から写したもので、4は裏側からの写真。1と2では手回しのネジ締めだったが、3と4では電動ドリルが大活躍。
あとは結線を済ませるばかりだが、それでも作業開始から3時間ほどは経過していた。時刻にして午後の4時半ごろ。
さ~て、いよいよ音出しである。とりあえず、テレビで放映していた全国高校野球の実況中継を聴いてみた。甲子園球場の観衆のざわめきがゆたかに臨場感を持って聴こえるがどうもボンつき気味で想像以上に低域過剰の傾向にある。
何だか箱鳴りそのもののような音で、こういう音はホンモノの低音ではない。「フ~ン、こんなものかな~」とやや期待はずれ。
まず、裏側に詰めていた羽毛布団を取り外してみたところ随分と抜けが良くなったがそれでも依然として低音過剰気味。
現在、アキシオム80の低域周波数の下限を200ヘルツほどでカットしているのにこんなに量感が出るのだから驚く。これまで低域補強用に使っていたヤマハの「サブウーファー」はまったく必要がないほどでやはりウェストミンスターの箱は”スゴイ”と変な感心。
この時点で、オーディオ仲間のM崎さんに電話してみた。
「ようやくウェストミンスターにアキシオム80を取り付けましたがやはり一長一短ですね。どうも低域過剰気味の傾向があって、平面バッフルのときのように音に歯切れのよさが感じられないのですが~」
「そうかい、遂に取り付けたかい。つい最近新車を購入してね~、車庫を作ったのはいいが腰を痛めてしまい声が掛からなくてホントに助かったよ。話によると低域過剰気味のようだが、背圧のかかる裏側のバックロードホーンへの音の逃げ道の穴を適当にふさいでみたらどう?」。
成る程、やはり相談はしてみるものである。
適当な厚さの板があったので、外に出てヤブ蚊にブンブン刺されながら鋸でSPボックスの裏の寸法に合わせて幅39cmの板2枚を切り出して開口部をふさいでみたところこれが非常に効果的。
1 2 3 4
1の写真が横40cm、縦10cmほどの開口部で、2が板でふさいだところ。3がカミサンの要らなくなったパンストに真綿を詰め込んだ簡易な吸音材。4が本日の作業の完成写真。
この開口部の調整で響き具合がいろいろ変わる。全部ふさぐと蒸留水のように物足りないし、全部空けると低域過剰となる。1/5開口ぐらいが適当のようで響きが適度になって、随分とまろやかで品のいい音になった。
とにかく重労働の甲斐ありで、あとは裏側に詰め込む吸音材をどの程度にするかが焦点でいろんな曲を聴きながら気長にやっていく積もりだが、これからこんな音で自分の好きな音楽を聴けるなんて最高の幸せ。
最後にカミサンと娘との夕食後の会話。
「どう、音がよくなった?」とカミサン。「”これまで”で最高の音だ!」と自分。
「あなたって、いつも装置を変えるたびに同じことを言うじゃない、その言葉、絶対に忘れないでね」
「”これまで”というのが問題で、音の記録がないのだからナンセンス」と追い討ちをかける娘。
やはり「縁なき衆生は度し難し」なのである。