「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

オーディオ談義~「アンプの修繕依頼」~

2010年05月07日 | オーディオ談義

およそ1ヶ月ほど前に東京在住のS下さんという方からメールをいただいた。

このブログをよくご覧になっているそうで、内容は、オークションで手に入れた真空管アンプ「PX25A」の片方のチャンネルから、かすかに異音がするが原因が分からない。音質にはたいへん満足しているものの、音が鳴りやんだときなどにちょっと気になる。

そこで、原因を究明したいが、このブログで「アンプ修理」に再三再四登場する「M崎」さんなる方を紹介していただけないかという依頼。

ぜんぜん見ず知らずの方だが、そこはそれお互いにオーディオ愛好家同士、アンプの雑音はことのほか気になるもので、そのお気持ちは痛いほど分かる。「お役に立てれば」とM崎さんに電話をかけてみた。

M崎さんは以前、首都圏でアンプをはじめとするオーディオ装置の修理を1,000件以上も手がけた方で、個人のお宅を訪問されて、その場で具体的な修理を請け負われるという”ぶっつけ本番”の修羅場を何度もくぐりぬけてこられた歴戦の勇士。

修理が済んで大いに感謝されたものの、また後から同じような故障が発生し怒鳴り込まれた経験もお持ちの”酸いも甘い”も、たんと噛み分けた方である。

現在は引退されて杵築市に居を構え、悠々自適のご隠居暮らし。

「今、何か忙しいことやってますか? 東京在住の方からこういうメールが入ったのですが紹介させてもらっていいですか」と、連絡してみると、「ああ、いいよ」とご快諾。

すぐに折り返し、S下さんあてM崎さんの住所、氏名、電話番号、メールのあて先と、これからはM崎さんと直接交渉して欲しい旨メールした。

そして、4月末のこと。M崎さんから電話があった。

「5月2日〔日)の午後、空いてるかい?S下さんから送ってきたアンプの異音を”アキシオム80”につないで確認したいのだが・・・」。

もちろん「はい、どうぞ~」と一つ返事。

自分が現在愛用している真空管はPX25という50年ほど前のイギリス製の古典菅。中域から高域への艶にかけては定評あるWE300Bを凌ぐほどだが、PX25A〔別名:DA30)は、PX25のあとに開発された真空管で出力を含めて一段とスケールアップされた真空管。

滅多に市場に出回らない球で、相場のほうもペアで20万円ほどとPX25のおよそ1.5倍から2倍近い。M崎さんによると昔使っていた真空管の中ではピカ一だったそう。

自分もスゴイという評判は聞いているものの、これまで試聴の機会はなかったが果たして「アキシオム80」との相性やいかに。

もうこの歳になって「禁断の木の実」を口(クチ)にしないほうが無難、とはいっても聴いてみたいという誘惑との綱引きだが、もちろんM崎さんの依頼となればお断りする術はない。

いよいよ当日。2時ごろにお見えになった。早速アンプを拝見。

「ほら見てごらん、シャーシ〔台)もアルミと木だし、ほとんど鉄を使ってないよ。コンデンサーなど部品も実にいいものを使ってるね」

鉄は磁界をもっているので音質に悪さをするが「ヘぇ~、それだけで随分と音質に神経を使ったアンプというのが分かりますね」と感心。すぐにアンプを入れ替えて「アキシオム80」と結線。

                      

本来の目的は、滅茶苦茶に感度のいいSPユニット「アキシオム80」に繋いで異音を具体的にキャッチすることだが、自分のほうはどういう相性の音になるかとそっちの方に全神経を集中。

試聴盤はM崎さん持参のケンプ(ピアニスト)の「イギリス組曲3番」(バッハ)。

「フ~ム、音が安っぽくなくて気品がある」。一点の曇りも無い、まるで秋の空のようにスッキリ高くて晴れ渡った音。思わず”北京秋天”という言葉を思い出した。真空管にも上には上があるものだと深~い”ため息”が出る。

しかし、聴いているうちに段々とケンプの演奏の方に引き込まれてしまい、音質そっちのけで音楽鑑賞に浸ってしまった。

日頃愛聴しているグールドは音の立ち上がりに見るべきものがあって剛直というイメージがするが、ケンプは実にやさしい演奏。ピアニシモに深い趣があって好対照の両者だがこれはたいへんな名演。

M崎さんに訊いてみるとケンプは「イギリス組曲」全体をカバーしているCDは無いそうでこの「3番」だけとのこと。残念!

オット、異音の出具合を忘れていた。SPから3mほど離れて試聴していたのだが音が鳴りやんでもまったく分からない。S下さんによると右チャンネルから異音がするとのことなので、「アキシオム80」に耳をベッタリくっつけてみると「ヒュー」という微かな音がする程度。

どうやらこの音が気になっておられるようだ。

一般的に加齢とともに高域を聴き取る能力は確実に失われていくが、M崎さんともども自分たちはもはやこの音を聞き分ける能力は無いようで、たいへん都合のよい(?)耳になっている。

S下さんは、おそらくまだお若い方なんだろう。それはさておき、この気になる「ヒュー」という音の発生原因を突き止めなければいけないのだが、M崎さんによるとこれは厄介な故障でいろんな原因が考えられるとのこと。

回路、部品、前段と出力の真空管など。もし、出力菅に問題があるとなるとさあ、たいへん。20万円!

ともあれ、主治医のM崎さん、雑音の程度が分かったのでもう一度家に持ち帰って測定器で調べてみるとのこと。

そして、6日(木)の午後に調整後の最終チェックにお見えになられたが、左チャンネルから聞こえていたかすかなハム音、右チャンネルからの「ヒュー」音が見事に消えていた。

「フ~ン、どこを、どう直したんですか?」「フッ、フッ、フ、それは企業秘密」。

「モォ~、意地悪!」。
 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする