14日(金)の午前9時半頃のこと。
「ようやくハートレーのシステムが聴けるようになりましたのでお見えになりませんか」と、湯布院のA永さんから携帯に連絡があった。
丁度、ショート・ステイ先に逗留している母〔93歳)の常備薬をもらうため市内の病院で順番待ちをしているときだった。
待合室の中とあって小声でそっと「今からでもいいですか?多分10時半ぐらいになりそうですが是非聴かせてください。」と一つ返事。
近くの薬局で薬を受け取ると一目散に自宅に直行してデジカメと好みのCDを数枚、紙袋に入れて、いざ湯布院へ。
ゴールデンウィークの大混雑がウソのように一般道をスイスイ。ご自宅に到着したのは丁度10時33分だった。
オーディオルームにご案内されていきなり目に飛び込んできたのが次の光景。
いやあ、圧巻ですね~。左の写真(右チャンネル用)が口径60cmの巨大ウーファー(224MS)をメインとする4ウェイシステム。(写真をクリックすると拡大できます)。
ただしハートレーといっても「それって何?」とご存じない方が大半だろう。古き良き時代のアメリカのSPでそのフラッグシップ・モデルが「コンサートマスターV」。
後に、このウーファー224MSは、中音にQUAD ESLコンデンサーSP、高音にDECCAケリーのリボン・ツィーターを組み合わせたH.Q.Dシステムとしてあのマーク・レヴィンソンが賛美していたという。
もっとも、A永さんの場合この「コンサートマスターV」のボックスというのが”ちゃち”なつくりで60cmのウーファーをとても御しきれず、やむなく新たに別のボックス(楢材の板厚5cm)を作って取り付けられたもの。
大口径ウーファーとしてはエレクトロヴォイスの70cmクラスが有名だが、反応が鈍いのであえてハートレーにされたとのこと。
近年のスピーカーは低域をいくつかの小口径ユニットでまるごとカバーする傾向にあり、大口径一発はホントに珍しい。往時のシステムならではのこと。お互いに一長一短だろうが大口径ユニットでないと出ない低音というのがあるのはたしか。
早速、日頃聴きなれた内田光子さんのピアノ・ソナタ30番(ベートーヴェン)を鳴らしてもらった。
口径60cmのウーファーだからコーン紙の重量に引き摺られて音声信号に対する反応(追従性)が鈍くなるのではという懸念が見事に裏切られた。
実にシャープな、それでいて重量感のある低音だが、むしろ、この低音を目立たせないかのように、3つのユニットによって中低域から高域までの周波数帯域に音が隙間無く充満している印象。
この辺が使いこなしの経験によるものだろう。
しかし、これまでのウェスタンの555+15Aホーンをメインとしたピラミッド型の音とは随分と対照的な傾向にある音なのが意外といえば意外。
以前のイメージが強烈だっただけに「ウ~ン、こういう音も”あり”なんですか」というのが正直な感想。A永さんの違った側面を見る思いがした。
丁度このシステムの後ろにウェスタンの555+15Aホーンが設置されている〔真ん中の写真)。
ともあれ、こんなスケールのでかい音を日替わりで聴けるなんてよほど恵まれた方だろう。
内田さんの演奏に続いて、サキソフォン・コロッサス(ソニー・ロリンズ)、イギリス組曲(グールド)、ディヴェルトメント136の二楽章(モーツァルト、コープマン指揮)など次から次にかけてもらった。
自分の耳では全体的に下から上まで音域が長方形の印象を受けたが、A永さんによるとウーファーを鳴らしこんでもっとこなれてくると低域が適度に膨らんで柔らかくなるでしょうとのことだった。
なお、このシステムを駆動しているアンプが一番右側の写真。左右チャンネルごとに特別に電源対策を施した大宰府のM田さんによる入魂の作品。
真空管はWE300Bで、ご覧のとおりトランスはすべて木製カバーがされておりシャーシも、もちろん木製。
トランスのカバーは周知のとおり通常は鉄材が用いられている。磁力線をカットするのに鉄が適しているので、こればかりはどんなに鉄嫌いの人でも仕方ないが、木製カバーともなるとホントに珍しい。
夢中になって聴いているとあっという間に昼食時になってしまい、ご迷惑をおかけしてはと11時45分頃に帰宅の途に。
「耳の記憶の新しいうちに、早く我が家に着いて音の違いを確認しなくては」と思わずアクセルに力が入ってしまう。
A永さん宅から帰るときはいつもそうだ。どうかスピード違反で捕まりませんように~。