「はじまりはいつも雨」(飛鳥)という曲があったが、このところ「一日のはじまりはクラシック」。
新しいテレビ視聴用のシステムを導入してから、朝の起き抜けにクラシック専門放送「クラシカ・ジャパン」(CS放送)を聴くことが多くなった。
CDトランスポートで再生する音と違って、宇宙から届く電波を専用チューナーで捕えた音はいささか実在感に乏しく目方が軽い(?)気がするが、何せスイッチひとつで気軽に聴けるし、これまで知らなかった優秀なアーチストを発掘できる楽しみもある。
このところ、ゾッコン参っているのが「ユリア・フィッシャー」(1983~)という女流ヴァイオリニスト。
出演していた番組名は「フランクルト・コンサート」(2時間)で、この番組説明によると、
「英国グラモフォン誌で2007年アーティスト・オブ・ジ・イヤーに選ばれた若き美人ヴァイオリニストがヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲のソロを一晩で弾いた2008年1月フランクフルト公演。ヴァイオリンもピアノも一流の腕を持つ彼女のマルチな魅力が満載。
指揮のピンチャーは1971年生まれの若手作曲家。管弦楽はドイツの国家的プロジェクトとして18歳から28歳までのドイツの音大生を選抜したユンゲ・ドイツ・フィル。」
もっと詳しくググってみると、ユリア・フィッシャーは1995年のユーディ・メニューイン国際コンクール、1996年の第8回ユーロヴィジョン若手演奏家コンクールなど参加した8つの国際音楽コンクールの全てで優勝(うち3つはピアノでの受賞)。2006年7月には23歳の若さでフランクフルト音楽・舞台芸術大学の教授に就任した(ドイツ史上最年少記録)。
いやはや「錚々たる楽歴」の持ち主である。
この番組で弾いたヴァイオリン協奏曲はサンサーンスの「第3番」で第二楽章がとても親しみやすいメロディで有名だし、ピアノ協奏曲の方はこれまた有名なグリークのもの。
たしかに容姿端麗で見た目もよく、あの若い頃のアンネ・ゾフィー・ムターを彷彿とさせるものがある。どうやら天は二物を与えたようで、演奏の方も、ついうっとりと聴き惚れてしまうほどの巧みさで安心して聴ける。前述のようにヴィオリンとピアノの二刀流使いで、いずれも甲乙つけがたい思いがしたが強いて言えばヴィオリンの方がお上手とみた。
この番組ではユリア・フィッシャー以外にも見どころがあって、管弦楽団の顔ぶれがいずれも若かったことで番組解説によってドイツ国内の音大生の選抜と分かり納得。
さすがに「ドイツ国家演奏家資格」制度を創設して、国家的な見地から演奏家のレベルの維持向上に努めているだけのことはあって非常に底辺が厚いようで、学生が弾いているとは信じ難いほどのレベルの高さだった。
将来のベルリン・フィル、ドレスデン・シュターツカペレの楽団員の有力な候補者たちだろう。
ご存知の方も多いと思うが、ご参考までに3年以上前にこのブログで掲載した「ドイツ国家演奏家資格」制度について抜粋しておこう。
「ドイツ国家演奏家資格」というのは一体何だろうか。いかにもドイツらしい四角四面の言葉だが、音楽を演奏するのに資格が要るなんて聞いたことがない!
ググってみると、「goo教えて」に次のような質疑応答があった。
質問
「国家演奏家資格っていうのは、どこの国で必要で、どんな風にすれば取れるんですか?」この質問に対して次の2つの回答があった。
回答1
「ドイツにそんな資格があるのを聞いたことがあります。相当難しいテスト(実際の演奏)のようです。聞いた話では東京芸大と桐朋のピアノ科の人ばかり6~7人が受けたところ1人しか合格しなかったそうです。」
回答2
「トロンボーン奏者堀江龍太郎さん(同資格取得者)のURLの記事にあった話として、大学院を卒業すると「ドイツ国家演奏家資格」が自動的に授与されるが、大学院の卒業試験が生半可なものではなく、成績が悪いと強制的に中退させられるという。ドイツでは、大学院を卒業した場合を除いて、「国家演奏家資格」試験を受けなければならないようです。」
以上で少しばかり分かってきた。
ドイツでは国家的な見地から独自の制度にもとづき先人の遺した偉大な遺産(楽譜)を簡単に穢さないように、さらには音楽芸術の表現にあたってきちんと一定の水準以上に保持していく仕組みをちゃんとつくっているのだ!
文学や絵画ではどんな小説や絵を描こうと始めから個人独自の創造の世界なので勝手気ままなのだが、楽譜の存在が前提となる(間接芸術としての)音楽に限って成り立つ話。
さすがにバッハ、ベートーヴェン、ブラームス(「ドイツの3B」)、ワーグナーといった大作曲家たちを輩出した国だけのことはある。音楽芸術に対する考え方、位置づけがまるっきり我が国とは違っているようだ。
こういう制度を日本に導入できれば“もろ手”を挙げて賛成だが、諸般の事情もあって無理かな(笑)!