前回からの続きです。
これまで愛用してきたCDトランスポート「ワディア270」(以下「270」)だが、ピックアアップの交換などのオーバーホールを経て、このほど戻ってきたもののどうも期待したような性能を発揮してくれない。
とうとう困り果てて、念のためDAコンバーターとの接続ケーブルを「STケーブル」(光)からバランスケーブル(XLRコネクター)に替えたところ見違えるような音質になった所まで前回に記載していた。
この接続コードによってどこがどう変わったかというと、まず音の瑞々しさが段違い。それにステージの再現性が秀逸で、演奏者がそれぞれの位置でピタリと定位する。ボーカルのときも歌手がすっくとスピーカーの中央に屹立(きつりつ)して(歌手の)口もけっして大きくならない。音響空間の響きも実に好ましい。
一言でいって「音の佇まい」が抜群。DAコンバーター(ワディア27iXVer.3.0)との同じ「ワディア」同士の組み合わせとクロック・リンクの強みがいかんなく発揮された印象を受ける。
こういう点になるとさすがの「ラ・スカラ」もDAコンバーターとの相性があるのだろうが、ここまでの演出力は無い。音の豊かさという点では目を見張るものがあるが、全体の統制力にやや欠ける面がある。音楽を聴く道具としてオーディオを考えると「音の佇まい」の方を優先したくなる。まるで「音楽をとるか、音をとるか」二者択一とはこのことだ。
面白いことに気が付いた。「270」はメチャ「AXIOM80」システムと相性がよく、その一方「ラ・スカラ」はJBL3ウェイシステムとの相性が実にいい。前者はフルレンジの強みで「音の佇まい」に優れ、後者は「響きの豊かさ」で一日の長がある。こりゃ、やっぱり二つ要る(笑)。
ちなみに、「ラ・スカラ」とDAコンバーターとの接続はBNCケーブル(入力4)で一応の解決をみた。
それにしても、バランスケーブルへの交換でようやく「270」が真価を発揮してくれたが、修繕に出す前と後とで確実に大きな差が感じられた。
「ピックアップ」の交換は実に効験あらたかで、読者の皆様も使用頻度にもよるが数年に一度は「ピックアップ」の交換を検討することをぜひお薦めしたい。いきなり音が悪くなると誰でも気付くものだが、段々と劣化していくときは次第に耳が慣れてくるのでそのまま放置する傾向がある。要注意である。
それともう一つ。アナログ機器ならともかく、デジタル機器同士を繋ぐときの接続ケーブルは機器の生死を左右するほどのキーポイントである。
ただし、メーカーの説明を真に受けると、とんでもない目に合うのであくまでも自分の耳が頼りである。実は「270」の取説(5頁)にはこうある。
「本機は今日のデジタル・オーディオにおいて高品位な伝送方式と考えられるフォーマットをすべてサポートしておりますが、付属のSTタイプ・グラスオプチカル・ケーブル、もしくは市販の最高級をご使用いただくようお勧めいたします。
当社の経験からデジタル・インターフェースを性能の高い順に列挙すると以下のようになります。
1 STタイプ・グラスオプチカル・コネクター
2 AES/EBL規格XLRコネクター
3 同軸S/PDIF同軸コネクター(BNCタイプ)
(注)「同軸コネクター(RCAタイプ)」と「TOSLINKプラスティック・オプチカル・コネクター」は音質上の理由から本機ではサポートしておりません。
1の「STタイプ」がもっとも性能がいいなんてまったく嘘ばっかり!
これを信用したばかりに付属のSTケーブルを“いの一番”に使用して散々な目にあってしまった。今回の件でやはりケーブルは「バランス・ケーブル」(XLRコネクター)がベストだと確信した。もっとも、この「バランス・ケーブル」は持ち主の口から言うのもおかしいが、かなりの高級品(笑)。
ところで取説にもある「TOSLINKプラスティック・オプチカル・コネクター」だが、「ラ・スカラ」にその端子があったので実際に試してみたところ”とても“ひどい音”だった。「TOSLINK」は随分普及しているが、せいぜいAV向きだと心得ておいた方がいい。
とにかく接続ケーブルのおかげで命を吹き返した「270」に乾杯!
折しも、ずっとネットオークションに出品されていた極上品の「ワディア270」がどうやらめでたく買い手が見つかったようでこのほど落札されていた。入札者1名で価格の方は開始価格どおりの「348000円」なり。定価が128万の代物だが10年以上の落ち武者なのでまあいい線だろう。
「Sオーディオ」(東京)さんの引き取り価格は「25万円」なので、やはりオークションに出した方が圧倒的に有利のようだ。
しかし、今のところ手放す気は毛頭なし(笑)。
それにしても、dCSのCDトランスポート「ラ・スカラ」と同じdCSのDAコンバーター同士の純正組み合わせとなると、いったいどんな音が出るんだろう?一度「Sオーディオ」さんからDAコンバーターを借り受けて聴いてみたい気がする。
きっと、もの凄い音が出ることだろう。「その時にお前は未練なく返すことが出来るか?」と、問われるといささか自信が無い。よほど“先立つもの”の覚悟を決めてから借り受けないと“とんでもないこと”になりそう…(笑)。