先週のこと、お盆休みで帰省した娘と恒例のウォーキングを済ませた後で、しかたなく付き合いで近くの本屋に立ち寄った。大概の本は図書館で間に合わせているので、興味があるのはオーディオ関連雑誌のコーナーだけ。
そこでふと目についたのが真空管アンプの専門誌「管球王国」Vol.73(2014 SUMMER)。
羽振りの良かったころは季刊ごとに必ず購入していたもので、「真空管アンプ大研究」の初刊から50号前後まで蔵書として自宅倉庫に大切に保管しているものの、“尾羽打ち枯らした”今となっては「1冊=2600円」がかなりの重圧となって定期購読を見合わせている最中(笑)。
今回も立ち読みで済まそうとペラペラと頁をめくっていると、「私のオーディオ遍歴/目指す音」とあって、「管球王国」執筆者の15名の方々のシステムが紹介してあった。
「管球王国に健筆を振るい卓見を披露する15人の執筆者は、オーディオとどう関わり、どのような音を求めてきたのか。それぞれの長いキャリアをふり返りながら真情を明かす。オーディオの愉悦の本質が、そこから見えてくる。」
しばし、ためらった後に「専門家のシステムを拝見するのは(面倒くさい理屈なんか抜きなので)手っ取り早く参考になるかもね~」と、購入することに決めた。
15人の執筆者の中にはとかく悪い噂を聞く人もいるようだが、人格と音は別なので実名を挙げるのはよしておこう(笑)。
いずれの方々とも、さすがに有名ブランドのシステムをポンと置いて安易に済ます人はいないようで、年期の入った機器類をよく工夫され使いこなされていて苦心惨憺たる結果が明らかに見てとれた。
しかし、昔と違ってこういう方々のシステムを拝見してもちっとも“うらやましい気分”にならないのは、いったいどうしたことだろう?
その理由をつらつら考えてみると、
☆ 「いい音と好きな音とはまったく別物だし後者となると受け止め方は千差万別なので、そもそも他人のシステムを聴かせてもらったところでピタリと自分の好みと一致することはほとんどあり得ない。」という諦めが長年の経験で骨身に沁みてきた。
☆ 裏を返していえば、大型システムになればなるほどうまく鳴らすのが難しく、もしうまくいったとしてもきわめて個性的な(持ち主向きの)音になっており他人を容易に寄せ付ける音になっていない可能性が高い。
☆ 口幅ったい言い方になるが、今年に入ってdCSのCDトランスポートの購入を皮切りに、古典管の購入などでようやく理想とする音に近づいた気がしているので、およそ50年にわたるオーディオ遍歴も「この辺でぼちぼち打ち止めかなあ」という心境になってきた。
この三点に尽きる。
さて、15名の方々の中で一番興味があったのは、自分が愛用している「AXIOM80」を片チャンネル4本も使って鳴らしているK氏だった。ちょっと長くなるが引用させてもらおう。(41~42頁)
「瀬川冬樹さんはJBLに傾倒する以前はグッドマンAXIOM80や様々なユニットを駆使したマルチアンプシステムをお使いになっておられました。オートグラフに到達するまでの五味康祐さんも、マルチウェイのスピーカーと苦闘されておられたと聞きます。混成旅団とは言い得て妙です。~中略~
AXIOM80の4本システムは私の理想とする音をすべて具現したスピーカーです。楓の無垢のエンクロージャーに装着していますが、これからは天上の音が聴こえてきます。~中略~
AXIOM80もWE594もハートレイも真空管アンプで鳴らさないといけません。計測の領域では半導体アンプでもまったく同じ特性のアンプを作ることはできます。実に容易にできます。でも、たとえば45シングルと比べるとその音は全然違うのです。半導体アンプからは透明感に満ちた、あでやかな音色など聴こえてこないのです。
これこそ真空管アンプをつくる理由そのもので物理領域と感性/精神領域を隔てるものが何であるかが骨身に沁みて理解できるでしょう。これこそが真のオーディオで、この”何か”が大切なのです。高音が出る、低音が出る、定位が良い、綺麗な音だという月並みな世界のさらに奥深いところにある精神的な領域なのです。
“そんな神がかったことを”とお思いでしょう。でもそんな瞬間はどなたも経験されているはずです。ただ気がつかないだけです。」
以上のとおりだが、片チャンネル「AXIOM80」4本も使うなんていったいどういう音がするんだろう?一度、同好の士とクルマをすっ飛ばして聴きに行きたいなあ。
また、この文中では真空管アンプがやたらと礼賛(らいさん)されているが、本誌自体が真空管アンプ普及の趣旨から発行されているので幾分割り引く必要はあるかもしれないが、その内容については自分も同感である。
このところ一時的にプリアンプだけをTR式にと気分転換してみたが、それなりの良さは感じたものの今では元通りに真空管式のプリアンプに戻してしまった。いろいろ欠点はあるが魅力の方が遥かにそれを凌いでしまう。
また、文中の「混成旅団」は自分もつい最近のブログで何気なく使ったことがある。JBLとタンノイの機器による現行の3ウェイマルチ・システムを称して「混成旅団」と称したわけだが、それ以外の言葉が浮かんでこなかったのは奇貨とすべきかな(笑)。
終わりに、例によって「シルバー川柳」から3句ほど紹介。これが最後です。
〇 土地もある 家もあるけど 居場所なし
〇 無病では 話題に困る 老人会
〇 万歩計 半分以上 探し物