前回からの続きです。
ずっと以前、加銅鉄平さん(オーディオ評論家)の著作を読んでいたら、「他人のシステムを聴かせてもらったときに、ご本人の面前で音質についての悪口を言うのは、“あなたの子どもはバカですね”と言うのと一緒だ。」という一節があった。
当時は何の気なしに読み流していたのだが、よく考えてみるとこれは半分は当たりで半分は当たっていない。
なぜなら子供は夫婦の合作なので責任は1/2しかないから(笑)。
その一方、オーディオシステムとなると構築の責任はすべて本人に帰するので、このケースで言えば「あなたはバカですね」と一緒のことになる。まあ、バカというのは語弊があるからせいぜい「センスが悪いですね」ぐらいのものだろう。しかし、こんなことを面と向かって言われて腹を立てない人はまずいない。
長い年月を経てようやく辿りついたシステムは本人の音楽・オーディオ観、ひいては人生観でさえも反映したものだからユメユメ直接的な批評はご用心だが、それかといって通り一遍の「いい音ですね~」で済ませても何だか虚構の世界となってしまうし、第一、ご本人のためにならない。
「いい音」の尺度はいろいろあるのだろうが、ひとり“悦に入る”のではなく誰にも認められてこそほんとうに「いい音」だというのが我が輩の持論である(笑)。
とはいえ、「機器や真空管の選択によってはもっと音が良くなりそうだが、ストレートに指摘すると気を悪くされるだろうし、ま、ご本人が満足しているんだから、それでいっか。煙たがられるよりも黙っておいた方が無難だろう。」というのがせいぜいのオチというところ。
たかがオーディオだが、されどオーディオ。ま、熱の入れ具合によってもそれぞれ違うのだが。
その点、同じ「AXIOM80」仲間のKさん(福岡)とは熱意度がほぼ同程度の強力なライバル同士なので、「できるだけホンネの世界で腹蔵なく指摘しあいましょう。それがお互いのタメですからね。」と事前協定を結んでいる(笑)。
ま、中にはハナっからホンネが通用しない方もいるのでその辺の性格的な見極めが必要だが、とにかく良き仲間に恵まれて感謝しているものの、この日(27日)の試聴会は最初期の「AXIOM80」(以下80。)を導入してから初めてなのでお互いに気を張っていたのは事実だが、いつも以上にストレートな意見が沸騰した。
今回のテーマは前回にも記したように次の4点だった。
1 最初期の「AXIOM80」と「復刻版」の違いについて
2 「フルレンジ+低音部の補強」という我が家の鳴らし方は、はたして適切なのか
3 4台の真空管アンプのうち最終的に「AXIOM80」とのベストマッチは?
4 プリアンプとアッテネーターの違いと音質実験について
まず1について。
Kさんはご自身ではオリジナルの80を使用されているが、かねてからの復刻版擁護派である。オリジナル一辺倒ではないところに「名を捨てて実を取る」式の冷徹な経営者としての素顔が伺える。
そのKさんが仰るには「オリジナルの良さは当然認めますが、皆さんが言われるほど復刻版も悪くないですよ。むしろ低音域は復刻版の方がいいくらいです。それにオリジナルは製造してから60年以上も経っていますから程度の悪い物が巷に氾濫してます。手に入れるにはあまりにも危険が多すぎます。私が〇〇さんにオリジナルを積極的に薦めなかったのもそれが一番の理由です。」
そういうわけで、今回導入した最初期の80に対してもその性能に対して半信半疑のご様子だったKさんだが、試聴の結果「この80は万にひとつの確率で当たりましたね。荒れたところがいっさいありません。程度がすごくいいです。前のオーナーがよほど良質の真空管アンプで大切に聴いてきた結果でしょう。しかし、復刻版との音質との違いとなると駆動するアンプとの相性の差に等しいような気がします。たとえば、私が好きな71Aアンプで鳴らす復刻版の音と、WE300Bアンプで鳴らすオリジナルの音が似ているようなものです。」
ここですかさず反論。「いや、そうは思いませんよ。中高域にかけての自然な雰囲気と柔らかさの表現力はどう転ぼうとオリジナルの方が明らかに上でしょう。」
「・・・・・」と、どうやら納得されたご様子ではなさそう。両者の微妙な音楽感性の違いは如何ともしようがない。
これでは先が思いやられる(笑)。
ところで、今回の主な試聴盤はKさんが持参されたナナ・ムスクーリ。Kさんは女性ボーカルの大ファンで名花シュワルツコップからヒメマリア・イダルゴ(アルゼンチン)、そして加藤登紀子まで守備範囲が実に広い。
ムスクーリは素晴らしき美声の持ち主である。収録されていた「黄金のつばさに乗って」(オペラ「ナブッコ」ヴェルディ)を聴いたときに「この人はクラシックの素養の持ち主ですね。」と言ったところ「ナイトクラブでのアルバイトがばれて、音楽学校を退学させられたそうですよ」で、なるほどと納得。
一般的にオーディオマニアの好きなジャンルはどうしても愛用しているスピーカーの得意分野に収束していくようだが、自分も「ボーカルとヴァイオリン」には目がないので同様の傾向にある。その一方、大規模編成のオーケストラには足が遠のくばかりなのも“むべなるかな”。
さて、1のテーマは(両者の「音楽感性の違い」として)結着のつけようがないので、そのまま放っておいて次のテーマの2「フルレンジ+低音部の補強という我が家の鳴らし方は、はたして適切なのか」に移ろう。
以下、次回へ続く。