このところ音信が途絶え気味だったオーディオ仲間のMさん(奈良)から久しぶりに次のようなメールが届いた。(11月7日)。いつもネタ切れのときを見計らかったかのように絶好のタイミングで情報提供してくれるので大助かり(笑)。
「ついにオリジナルの“AXIOM80”を手に入れたそうでおめでとうございます。気になるCDが出ましたのでメールします。飛鳥新社の記念出版です。
◎「死とはモーツアルトを聴けなくなることだ」という冒頭の言葉に象徴されるような企画
◎ オペラの全曲に「魔笛」を選んでいる
◎ ノイズフィルターを使用せず、演奏者の音楽性、録音時の空気感まで再現
◎ 内田光子さんの5時間に及ぶインタビュー記事を書籍にして添付
◎ CD復刻盤に新 忠篤氏が担当
と魅力的です。 ネットで試聴しますと購入するには迷いが出ますが・・・。カタログだけを手元でめくるだけでも価値ありと思います。(綺麗なカタログです)
『モーツァルト・伝説の録音』飛鳥新社創立35周年記念出版 http://www.asukashinsha.jp/mozart/
オリジナル80でSP時代の名演奏を聴くのも得難いものがあると思いますが、いかがでしょうか。」
いやあ、大のモーツァルトファンとしてほんとうにありがたい“お知らせ”です!
ちなみに「死とはモーツァルトを聴けなくなることだ」と言ったのは、ご存知の方も多いと思うがあの「相対性理論」で有名な物理学者アインシュタインである。
平々凡々たる人間が天才物理学者と肩を並べられるのはモーツァルトの音楽を聴くことぐらいしかない(笑)!
すぐにカタログを申し込んだところ、あっという間に届いた。(11月11日)
ざっと目を通してみると、全3巻にわたってCDが36枚収納されている。書籍が3冊付き。第1巻は11月中に発売予定で、第2巻は2015年5月、第3巻は2105年11月という1年間の長丁場。お値段の方は全巻予約の場合7万円。
しかし、近代のデジタル録音に比べると音質が劣るのは間違いなし。その辺はまったく期待が持てないが何といっても演奏の中身と密度が違う。こと、芸術の格にかけては一流の演奏家たちばかりである。まあ、何も近代の演奏家たちが及ばないというわけではないが、当時の時代背景が今とはまるで違っている。
第一次、第二次世界大戦前後の荒廃したヨーロッパで当時の人々の心に潤いをもたらした数少ない手段のひとつが音楽だった。熱心な聴衆が相互作用によって優れた芸術家を育てるというのは一つの真理ではあるまいか。
カタログの中でピアニスト内田光子さんはこう述べている。(35頁)
「私がいちばん気に入ったのははっきり言ったら、ジュール・ブーシュリなんです。あれはもうダントツだと思います。アドルフ・ブッシュの物凄さというのは、これは私にとってヨーゼフ・シゲティと同様に、私は彼の音楽家としてのあり方に惹かれてきたと思います。
ティボーは私にはさほどじゃないの。素晴らしく美しいけど、だけどちょっとチャラチャラしているでしょう。ところが同じフランスのヴァイオリニストでもプーシュリにはそういうところが全然ない。」
何と、このプーシュリの演奏がCD1の第1曲目「ヴァイオリン協奏曲第5番第3楽章メヌエットより」(1907年)として収録されている。
そのほか、SPレコード時代の名演奏家たちが綺羅星のごとく集結しているので、おそらく五味康祐さんあたりがご存命ならきっと狂喜乱舞されることだろう。
もちろん同封のハガキですぐに予約申し込みをしたのは言うまでもない。
なお、モーツァルトの数あるオペラの中で完全収録されているのが「魔笛」だけというのも大いに気に入った。編集者の音楽センスはなかなかよろしい(笑)。600曲以上を作曲したモーツァルトの35年の生涯において、このオペラは間違いなく最高峰に位置している。
あの楽聖ベートーヴェンでさえ「モーツァルトの作品の中では魔笛が最高傑作!」とのお墨付きだ(笑)。
ちなみに今回収録されているのはトーマス・ビーチャム卿(イギリス)が指揮したもので1937年版(ベルリン・フィル)。オヤッ、1937年といえばたしかトスカニーニが指揮した魔笛もそうだったはずだがと探してみたら、すぐに出てきた。
左がビーチャム盤、右がトスカニーニ盤(ウィーンフィル、ザルツブルグ音楽祭ライブ)。
両者の演奏がどういうものか、ある程度把握しているものの久しぶりの機会というわけで昨日(12日)は朝から聴き比べをした。なお、出演者のうち両方とも共通している歌手はタミーノ役(王子)のヘルゲ・ローズヴェンゲ(テノール)。
まずトスカニーニ盤だがライブ録音だけあってサーノイズが激しいが10分もすると気にならなくなる。楽団員にメチャ厳しかったトスカニーニだけあって歌手たちの緊張ぶりが直に伝わってくるような熱演で自然と聴き惚れてしまった。
とはいえ、当時のライブ録音はそれはそれはひどいもので、途中で歌手の声が聴こえなかったりするので鑑賞するには相当の覚悟が要る。
しかし、録音さえ良ければ手元の40数セットの魔笛の中でも屈指の出来栄えだろう。
その一方、ビーチャム盤はスタジオ録音で台詞抜きの声楽だけの演奏。そのせいか穏やかで端正なオペラの印象を受けた。トスカニーニ盤に比べるとサーノイズが目立たたないがその代わりに最低音域と最高音域の周波数がすっぱり切り落とされている。
今回の企画のように万人向けに収録するとしたら“聴きやすさ”という面でビーチャム盤に落ち着いたというのはたしかに頷ける。
後は第1巻が配送されるのを待つばかりだが、まったく知らない演奏家に出会えるのが楽しみ~。