前々回の「新たなエンクロージャー作り」からの続きです。
有名なイソップ童話の中に 「狼少年」 というのがある。 正しくは 「羊飼いと狼」 というタイトルだが、イソップ童話の中でも代表的なものの一つなので、ご存知の方も多いと思うが内容はこうだ。
「村はずれの牧場で羊の世話をしている羊飼いの少年が、いつも一人ぼっちで淋しくて退屈なので、 いたずらして大人たちを脅かしてやろうと考え、狼が来てもいないのに、「狼が来たぞ~」 と叫ぶ。
その声に驚いて、大勢の村人たちが手に手に棒を持って駆けつけてきたが、どこにも狼は居ないので、やがて帰ってゆく。 面白がった少年は、来る日も来る日も嘘をついて 「狼が来たぞ~」 と叫ぶ。
初めのうちはその度ごとに村人たちが駆けつけて来たが、そのうちに、村人は少年を信用しなくなり、 「狼が来たぞ」 と叫んでも、どうせまた嘘だろうと思って、誰も駆けつけて来なくなってしまう。
ところが、ある日、本当に狼がやって来た。 少年は 「狼が来たぞ~」 と必死で叫ぶが、村人は誰も来てくれず、少年は狼に襲われて喰われてしまった。」
なぜこういう話を冒頭に持ってきたかというと、実は同じようなことが我が家でも起こっているから。
オーディオ部屋にずっと閉じこもって、ひとしきりガサゴソと作業をやった後で食事時になると、必ずといっていいほど家内からこう訊かれる。
「どう、少しは音が良くなったの?」
「ああ、メチャ良くなったぞ。これまでで最高の音だ!」
「ホントかしら?だって作業のたんびにこれまでで最高の音だと、あなたいつも言うじゃない。」
「だから、今度こそホントだってば~」
狼少年と同じであまり信用されていないわけだが、家内に限らずこのブログの読者の方々からも「この人、システムを弄るたびにメチャ音が良くなったとか、最高とか書いてるけどホントかいな?どうせ話半分に聞いておいた方が良さそうだ。」と、疑惑の眼で見られている可能性が大いにある。
だから、今度こそ正真正銘のホントだってば~(笑)。
前々回に記したようにAXIOM80用に作った新たなエンクロージャーは、これまでとはまるっきり違う魅力を引き出してくれた。
あまりに「いい音」を出してくれたので感謝の気持ちを込めてさっそく塗装(黒)をしてあげた(笑)。
どこが良くなったか具体的に挙げると、まず「小気味いい低音が出る」「音の余韻が音響空間に漂いながらス~ッと消えていく様がとても美しい」「エッジレスのユニットだけが持つ独特の繊細な分解能、音像定位、音の艶に一層磨きがかかった」といったところ。
おそらく厚さ1.5センチの板の適度な共振、補強材、箱の容積の拡大、外側からのユニットの取り付けなどのいろんな要素がうまくマッチしたのだろう。
その昔、「AXIOM80」を愛用されていた「瀬川冬樹」さん(オーディオ評論家)が「AXIOM80が本領を発揮したときの繊細でふっくらした艶やかな響きは絶品!」と仰っていたが、このうち「ふっくら感」を出すのがとても難しかったがようやく出てくれた感じ。
ただ、本人がどうこう言ってもまるで説得力がないのは分かっている。どうせ、おいらは「狼少年」ならぬ「狼じいさん」なんだから(笑)。
そこで実際に試聴された3名の方々に登場していただこう。
まず、大分市のMさんとNさん。
Nさんには今回の箱作りに大いに加勢していただいたので、お礼の意味を込めて「是非試聴してみてください」と、お誘いしたところ完成した翌日にさっそくMさんともどもお見えになった。
当日のシステムは次のとおり。
CDトランスポート(dCS) → DAコンバーター(dCS) → プリアンプ「大西式真空管プリ」 → パワーアンプ「171シングル」 → スピーカー「AXIOM80」
ご意見を要約すると、「やっとAXIOM80が本領を発揮しましたね。朗々と鳴ってますよ。ひとつひとつの楽器の音がクリヤに出てきてその音の余韻が美しく音響空間に広がっていくのがよく分かります。響きがとても豊かです。これまでとはまるっきり違いますよ。こういう音を聴かされるとAXIOM80が欲しくなりますね~。」
圧巻はジャズボーカルの「エラ&ルイ」(CD)だった。名盤中の名盤だが、サッチモのしわがれ声のリアル感が凄いし、何よりもトランペットの音が凄い勢いで飛んできて脳天がクラクラッとするような鳴り方といえば分っていただけるだろうか。
3時間ほど試聴されて大満足してお帰りになった。
その3日後は今度は同じ「AXIOM80」仲間のSさん(福岡)がお見えになった。1か月ほど前にご連絡があって、出張の合間に時間が取れそうなのでぜひ聴かせてくださいとのことだった。
たまたまタイミングよく今回の新しいエンクロージャーが間に合ったので本当に良かった。
第一声は「あれっ、低音がよく出てますね。」
一般的にAXIOM80の難点というと、「なかなか満足のいく低音が出てくれない」「高音が鋭くてキンキンする」といったところだが、そういう弱点を百も承知のSさんだからこそのご発言。
「とても豊かで美しい響きがしてますよ。箱の厚さや容積とか補強材などいろんな条件がAXIOM80とマッチしたんでしょう。これは素晴らしい音です。いやあ、感動しました。」
5時間ほどみっちり試聴していただいたが、ここでも試聴盤として「エラ&ルイ」が大活躍。Sさんはこの曲目のレコードをお持ちだそうでCDながらも情報量はレコードとヒケを取らないとのことだった。
なお、当然のことながら例によっていろいろ実験を試みた。
まずアンプを「171シングル」から話題沸騰中の「6FD7」アンプに交換して鳴らしてみたところ、悪くはないのだが「171」アンプのリアル感にはとても追い付かない感じ。
そこでプリアンプと相性が悪いのかもしれないのでDAコンバーターと直結して聴いてみたところ、俄然、音に生々しさが出てきた。
我が家で鳴らすときは「6FD7」アンプにプリアンプを繋ぐのはご法度である。ちなみに、この「6FD7」アンプはSさんも注文されており、もうすぐ完成するとのことで「この音なら満足です。とても楽しみです。」とのことだった。
以上、こうして3人の方々から賛辞を浴びると、この気難しい稀代の名ユニット「AXIOM80」をうまく鳴らせたという喜びがふつふつと湧いてこようというもので、(AXIOM80を)実際に聴いたことがない人にはぜひ聴かせてあげたいし、また聴いて満足できなかった人たちもこの音を聴くときっと認識を改められるに違いない。
最後に結びとして一言。
CDプレイヤーやアンプなどは音質がほぼ「お値段」に比例しているのが通例であまり面白くないが、スピーカーのエンクロージャーに関してはお金をそれほどかけずに(手間はかかるが)あっと驚く大逆転劇が可能だ。
SPユニットはエンクロージャー次第で音が千変万化する。
デリケートなユニットほどそういう傾向があるのでメーカー製を信用してそのまま使うのは一考を要する。今にして思えば我が反省点として、AXIOM80をずっとグッドマンの指定箱に容れて鳴らしていたのはとても拙かった。
オーディオは個人ごとに好みが違うので単なる一つの事象だけをとらえて断定するのはとても危険なことを重々承知しているが、このエンクロージャーの問題ばかりは個人ごとの音の好き嫌いで片付けられる次元ではないような気がする。
この世に「AXIOM80」の愛好者は数多いが、もしその魅力を最大限に引き出したいと思ったら是非新たな可能性にチャレンジすべきで、それだけ苦労のし甲斐のあるユニットである。
そもそも今回のエンクロージャーはたまたま当たってくれたが、もっとAXIOM80にマッチしたものがあってもちっとも不思議ではない。
これ以上言うと、「くどい、調子に乗って偉そうに言うな!」と逆効果になりそうなのでこの辺で終わりにしたほうが無難だろう(笑)。