前回からの続きです。
オーディオ仲間のMさんが持参された山水(サンスイ)の「SP30」というスピーカーだが、この名前を聞いて「オッ、懐かしいなあ」と思われる方がいるかもしれない。
たしか40年ほど前のこと、当時オーディオ華やかりし頃に「御三家といわれていたのは「山水」「トリオ」「パイオニア」だったが、今となって生き残ったのはカラオケやカーナビゲーションに活路を求めた「パイオニア」だけになってしまった。
そのパイオニアにしてもブランド名は辛うじて残ったものの3年ほど前に全株式をオンキョーに譲渡してしまった。
栄枯盛衰は世の倣い。
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理(ことわり)をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ 」(平家物語)
当時の「山水」(サンスイ)はJBLと提携していて「SP30」や「SP50」などをシリーズ化していた。共通した組格子のデザインが特徴で自分も評判につられて「SP50」を購入したが、そのうち友人に譲ってしまった記憶がある。
さて、先日この「SP30」をMさんが持参された目的は前回登載した「チャンデバ」の実験のためだった。
この実験自体はうまくいったのだが、我が家を辞去される際にMさんが「置いていきますので、しばらく使ってみてください」。
今さら小型スピーカーでもあるまいと正直言って内心思ったのだが、フルレンジとして使い込んでみるとどうしてどうして、小型スピーカーの良さ全開といった趣ですっかり見直してしまった。
まずポイントを列挙してみよう。
1 内蔵のユニット
元々2ウェイ方式の「SP30」だが、内蔵されていたユニットはサンスイ」の純正のものではなくて、松下の「EAS-20PX60」というフルレンジのユニット一発だった。
ご覧のとおり堂々としたマグネットが付いている。Mさんによると当時憧れのユニットだったそうで、後日オークションで激しい競り合いの元で落札されたとのこと。
たしかに生き生きとして元気のいい音には目を見張るものがあったが、この図体にとってはエンクロージャーの寸法や容積がチョット小さすぎるような気がした。
そこでMさんが帰宅されたのちに、ユニットの交換をさせてもらおうと電話で了解を求めたところ「エンクロージャーの方は不要ですので差し上げます。煮て喰おうと焼いて喰おうどうぞご随意にしてください。」とのありがたいご返事。
さっそく松下の代わりに手持ちの「ニューゴールデン8」(イギリス:リチャードアレン)を入れ直した。同じ口径20センチのフルレンジユニットだがこちらの方がやや小ぶりなので取りつける寸法にも余裕があった。
胸をワクワクさせながら音出しをしてみたが、どうも冴えない。全体的に音のヌケが悪くて、自分が一番嫌いな「籠っている音」のような感じ。これなら松下のユニットの方がいいなあと天を仰いで慨嘆したが、待てよ~。
以前、オーディオ仲間のSさん(千葉県)が平面バッフルでリチャードアレンを鳴らされていて「とてもいい音ですよ~」と仰っていたのを思い出した。
そうだ、裏蓋を外して後面開放で鳴らしてみたらどうだろう、パッと閃いたねえ(笑)。
そこで第2のポイント。
2 エンクロージャーを後面開放で鳴らす
「善は急げ」とばかり裏蓋のネジをすべて取っ払って後面開放で鳴らしてみたところ、これは~と思わず絶句した。すっかり豹変したのだ!
何という爽やかでヌケの良い音なんだろう。しかも低音から高音までまとまりが良くてバランス的にまったく言うことなし。口径20センチのフルレンジのメリットが最大限に発揮されており、しかもイギリス系のユニットによく見られる品の良さや独特の艶みたいなものが中高音域から醸し出されている。
ハーモニーという面では我が家の既存の4系統のスピーカーの中で一番いいかもしれないと、ほとほと感心した。
これで見事に我が家の5系統目のスピーカーの誕生である。
今回の実験で小型スピーカーは大型スピーカーには求められない良さがあることを改めて確認したが、そういえば6年ほど前の記事「シンプルな響きの心地よさ」(2011.10.21)で「リチャードアレン」を登場させていたことを思い出した。(興味のある方は過去記事をめくってみてください。)
歴史は繰り返すんですよねえ(笑)~。
いずれにしても、大型スピーカーじゃないと出ない音があることは確かだが、「逆もまた真なり」で小型スピーカーじゃないと出ない音がある。
「大は小を兼ねない」
再び気付かせてくれたMさんに感謝あるのみ~。