ようやく、1年2か月ぶりに戻ってきた「WE300Bシングルアンプ」。
まず、アンプの概要を述べておこう。
厚さ2.5ミリの銅板シャーシ、ドライバー管は「471B」(デフォレ)、出力管は「WE300B」(1950年代製のオールド)、整流管は「274B」(シルヴァニア)、入力トランス、インターステージトランスともにUTC(アメリカ)、出力トランスはベテラン(個人)の手巻きによるもの。
数ある真空管の中でも「WE300B」といえば泣く子も黙るほどの存在感があり、古い「刻印モノ」ではネットオークションで100万円近いお値段で取引されているほどで、これまで数々の伝説に彩られている名管だ。
とはいえ、独特のクセがあってお値段に見合った音を出すのがとても難しいことでも知られている。
さて、話は2年ほど前にさかのぼる。
当時、真空管「71A」の素直な音質に夢中になってしまい「究極の71Aアンプ」を作っていただこうと、「とある達人」に作製を依頼したが、ついそのときに「WE300Bも持ってますので切り換えスイッチを使って両方とも聴けるアンプを作ってくれませんか」と言ってしまった。
今となってはまさに「魔が差した」としか言いようがない(笑)。
出来上がったアンプは71Aが「主」でWE300Bが「従」といった趣だったが、これはこれでたいへん音がいいアンプだったが、「二兎を追うもの一兎を得ず」の例にもあるように、チョット中途半端になってしまった。
出力トランスが名門UTC(アメリカ)のシングル用だったが、如何せんWE300Bには容量が小さすぎて常に「低音域」に物足りなさがつきまとってしまいとうとう改造のやむなきに至った。
「出力トランスの交換」「WE300B真空管専用アンプへの変更」となると、大掛かりな改造になってしまい、あいにく当の製作者が当時「腰痛」だったこともあり、泣きついたのが「北国の真空管博士」(以下、「博士」)だった。昨年の3月のことだった。
博士はあらゆる真空管に精通されており、型番を言っただけで「プレート電流」や「増幅率」がスラスラと出てくるのでその頭脳はまさにコンピューター並みだ(笑)。
アンプづくりにかけても人後に落ちることはなく、現在使用中のアンプはすべて博士が手にかけたものばかりになっているほど。
「どうせなら博士の手によって日本一のWE300Bアンプに仕上げてくれませんか。時間はどれほどかかっても構いません。待ちます。」と依頼したところ、「ハイ、分かりました」。
それから待つこと1年2か月・・・。
博士の本業は農業である。4月~11月までの農繁期にかけて、集中力を要するアンプづくりを期待するのは野暮というものだろう。
それでも、今年に入って1月頃には出来上がるだろうと内心、心待ちにしていたところ博士からウンともスンとも音沙汰がない。
「はたして大丈夫かいな?」という疑念と不満が持ちあがってきたのも「むべなるかな」(笑)。
そしてこのほどようやく次のメールが入ってきた。
以上のような内容だったのでガッカリ。ハム音が出るアンプなんて自分が一番忌み嫌う事柄である。
「1年2カ月も待たされたあげくがこの程度ですか!」と、嫌味の一つも言いたくなってしまったが、まあ実際に到着して聴いてみるまで待ってみることにしよう。それからでも遅くはあるまい(笑)。
北国からの荷物は延べ3日かかる。
連休明け8日(月)の午前中に届いたので、梱包を解いて無事結線完了。心臓をドキドキさせながらいよいよ音出し。
そして、うれしい悲鳴~(笑)。
一番気になっていたハム音はアンプのスイッチオンの状態でスピーカーにピッタリ耳をくっつけてもいっさい無音でSN比は完璧!
そして音が凄かった!!
「AXIOM80」、「フィリップス+デッカのリボン型ツィーター」、「AXIOM150マークⅡ+ワーフェデールのツィーター」が信じられないような音で鳴る!
「WE300B」に100万円近いお金を出すマニアの心境がようやく分かるような気がした(笑)。
それにしても「博士」のメールの内容はいったい何だったのか。謙遜というのか、要求レベルが高過ぎるのか、完全主義者と言えばいいのか・・・。
いずれにしても常人の「物差し」で博士を測ってしまうのは止した方がよさそうだ。
最後に、「1年2か月も待った甲斐がありました。素晴らしい音質です。どうもありがとうございました。」との謝礼のメールに対して、博士から次のような返信があった。
スピード感のある音に仕上げることができれば化粧が適度に抑制されて薄化粧の好ましい音になります。数回の試行錯誤の甲斐あって何とか既存のWE300Bアンプを凌駕するレベルに仕上げられたのかなと思います。
しかしWE300Bの値段を考えると更にワンランク上の音を目指さねばと思ってしまうのですが。」