時候の挨拶でいえば2月は「立春の候」、3月は「早春の候」とされているので、端的に言えば1月が過ぎるともう春なんですね~。そしてあと3日もすればもう3月に。
そこで今回は早春にふさわしく明るめの「小咄」をご紹介しよう。
ネタの材料は「名文どろぼう」(文藝春秋社刊)
著者の「竹内政明」さんは読売新聞の看板コラム「編集手帳」の6代目執筆者(2001年~?)だ。
☆ 「じいさん、ばあさん、お出かけ」
国文学者の池田弥三郎さんがご夫人と福島県のひなびた温泉に旅したときのこと。夕方、宿の下駄をつっかけて散歩に出ようとした。
すると、宿屋の番頭が玄関のところにいて「じいさん、ばあさん、お出かけ」と、大声で怒鳴った。
自分はたしかに若くはないが何もじいさん、ばあさんと呼ばなくてもいいだろうと思いながら一回り散歩して帰ってきたところが、再びその番頭が「じいさん、ばあさん、お帰り」と言った。
池田氏はつかつかと番頭の前へ行き、「きみ、いくら何でも僕たちを、じいさん、ばあさん呼ばわりすることはないだろう。少しは違った言い方があるんじゃないか。」と抗議した。
すると今度は番頭の方が面食らった表情で、そんなことは言った覚えはないという。いったいどういうことかと思ってよく聞いてみると、池田氏の泊まった部屋の番号が「13番」だった。
「ずうさんばんさんお出かけ」と言ったのである。
ご夫妻はきっとあとあとまで番頭さんがくれた「想い出」という土産をサカナに折にふれては思い出し笑いをされたことだろう。
☆ 「旧中山道」(きゅう・なかせんどう)の読み方
何と「旧中山道」を「いちにちじゅう やまみち」と読んだフジテレビの女子アナがいたという(笑)。
☆ 「餞別を 銭別と書いて 本音ばれ」
ごもっともですね(笑)。
☆ 面白い変換ミスの事例
正しい変換 → 「うまくいかない画像サイズになった。」
変換ミス → 「馬食い家内が象サイズになった」
☆ 「猿の毛を抜け!」
明治から大正にかけて東京帝大で経済学を講じた学者の和田垣謙三氏に、あるとき学生が「どうすれば金儲けができますか」と、質問したところ教授の答えがふるっていた。
「猿の毛を抜け!」
「MONKEY」(モンキー)の「K」を抜けばMONEY(お金)となる。気の利いた洒落で学生を煙に巻いたようでもあり、「経済学を何と心得るか」とたしなめたようでもある。
☆ 「折口学入門」
詩人「北原白秋」が「黒衣の旅人」と称した折口信夫は、あの世からやってきたかと思わせる独特な雰囲気の内側に深い学識を蔵した国文学者だった。
作家の丸谷才一さんは若い頃の一時期、熱に浮かされたように折口に傾倒したという。
「その熱中のせいでしょうね。たしかあれは日本橋辺りの裏通りの本屋だったと思いますが、入り口のところに「折口学入門」と墨で描いたビラを見つけたことがありました。
夢中になって飛び込んで行って「折口学入門」をくれと言ったんです。ところが「そんな本はうちに置いてません」と言うんですね。そこでビラを指さして「ほら、ここにあるじゃないか」と言いながらよく見たらそれは「哲学入門」だった。
蛇足だが「哲」を上下に分解すると「折口」になる!
☆ 「昨年はご厚情をいただいた気がしません。本年はよろしく」
自分もこういう「本音」を書いた年賀状をいずれ出してみたい(笑)。