アルファベットの「Y」という文字を見ると大のミステリーファンの一人として、エラリー・クィーンの傑作「Yの悲劇」をすぐに連想する。
それはそれとして、今回は同じYでも「Yの哀しみ」という遺伝子の話。
ご承知のとおり男性は「XY」の染色体(女性はXXの染色体)を持っているが残念なことにそれは基本仕様ではなく、生まれたときに片方にそのY遺伝子という貧乏くじを引いたばかりに女性よりも短命になっているという話である。
「本が好き」(光文社月刊誌)
本誌に「できそこないの男たち~Yの哀しみ~」というのがある。著者の福岡伸一氏は青山学院大学理工学部(化学・生命科学科)教授。
最新の時点で日本人男性の平均寿命(生まれたばかりの男子の平均余命)は81歳であり、対して女性の平均寿命は87歳。ゼロ歳の時点ですでに6年もの差がある。
「女性の方が長生きできる」この結果はすでに人口比に表れている。現在、日本では女性の方が270万人多いが、今から50年たつとその差は460万人にまで拡大する。
男女数の差は年齢を経るほどに拡大する。80歳を超えると男性の数は女性の半分になる。100歳を超える男性の数は女性の5分の1以下にすぎない。中年以降、世界は女性のものになるのである。
どうして男性の方が短命であり、女性のほうが長生きできるのだろうか。
☆ 男の方が重労働をしているから
☆ 危険な仕事に就くことが多いから
☆ 虐げられているから
☆ 男の人生の方がストレスが大きいから
いずれももっともらしい理由だが、6年もの平均寿命の差を生み出す理由としては薄弱である。
著者が着目したのは上記の理由がいずれも環境的要因に限られていることで、むしろ生物学的な要因に原因があるのではと焦点を当てて検証が進められていく。
その結果、世界中のありとあらゆる国で、ありとあらゆる民族や部族の中で、男性は女性よりも常に平均寿命が短い。そして、いつの時代でもどんな地域でも、あらゆる年齢層でも男の方が女よりも死にやすいというデータが示される。
結局、生物学的にみて男の方が弱い、それは無理に男を男たらしめたことの副作用とでもいうべきものなのだという結論が示される。
その証として、取り上げられるのが日本人の死因のトップであるガン。
ガンは結構ポピュラーな病だがそれほど簡単にできるものではない。細胞がガン化し、際限ない増殖を開始し、そして転移し多数の場所で固体の秩序を破壊していくためには何段階もの「障壁」を乗り越える必要がある。
つまり多段階のステップとその都度障壁を乗り越えるような偶然が積み重なる必要があって、稀なことが複数回、連鎖的に発生しないとガンはガンにはなりえない。
それゆえに、確率という視点からみてガンの最大の支援者は時間であり、年齢とともにガンの発症率が増加するのは周知のとおり。
もうひとつ、ガンに至るまでに大きな障壁が横たわっている。それが個体に備わっている高度な防禦システム、免疫系である。
人間が持つ白血球のうちナチュラルキラー細胞が、がん細胞を排除する役割を担っているが、何らかの理由でこの防禦能力が低下するとガンが暴走し始める。
近年、明らかになってきた免疫系の注目すべき知見のひとつに、性ホルモンと免疫システムの密接な関係がある。
つまり、主要な男性ホルモンであるテストステロンが免疫システムに抑制的に働くという。
テストステロンの体内濃度が上昇すると、免疫細胞が抗体を産生する能力も、さらにはナチュラルキラー細胞など細胞性免疫の能力も低下する。これはガンのみならず感染症にも影響を及ぼす。
しかし、テストステロンこそは筋肉、骨格、体毛、あるいは脳に男性特有の男らしさをもたらすホルモンなのだ。
男性はその生涯のほとんどにわたってその全身を高濃度のテストステロンにさらされ続けている。これが男らしさの魅力の源だが、一方ではテストステロンが免疫系を傷つけ続けている可能性が大いにある。
何という両刃の剣の上を男は歩かされているのだろうか。
以上が「Yの哀しみ」の概略。
結局、「男性がなぜ女性よりも早死に?」の理由は「遺伝子の基本仕様はXXなのに男性に生まれたばかりにYというありがたくない染色体を無理やり持たされ、男らしさを発揮した挙句に早死に」というのが結論だった。
で、ブログ主が居住している団地(160戸程度)は高齢者が非常に多い。すると、夫婦そろって同時に死ぬことはないのでどちらかが生き残る。
つまり、「男寡夫(やもめ)」と「女寡婦(やもめ)」が出来上がるし、当然後者の比率の方が高い。
毎日のウォーキングなどで、ちょくちょくそういう方たちと遭遇するが、前者は一様に寂しそうな顔をしてうなだれ気味の様子、その一方、後者は明るい顔をして元気溌剌としている。それはもう、例外がまったく無いほどで女性の生命力に改めて感心する。
そういえば・・、「女やもめに花が咲く」→「夫に先立たれ女はかえって身ぎれいになり、世の男にもてはやされる」という言葉があるのも実感できますね~(笑)。
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