足りない自衛の危機意識
2014年7月21日
ウクライナ東部でマレーシア航空機が撃墜された事件(死者298人)では、これまでの報道によると、最大の悪党は親ロシア派武装集団であり、ミサイルを供与したと見られるロシアも同等かそれ以上の悪党でしょう。もっと問題があります。数多くの数の報道、論評を読んでいて気がついたのは、戦闘状態というより戦争地域の上空をマレーシア機はなぜ飛んだかという疑問です。解明がまったく足りません。
航空管制当局が高度1万㍍までの飛行を認めていた、親ロシア派は1万㍍以上までとどくミサイルを保有していないとの情報だった、とかいわれています。結果はご覧の通り、1万㍍以上の高度で飛んでいたマレーシア機が撃墜されたのです。ロシアがひそかに3万㍍までとどくミサイル「ブグ」を親ロシア派に供与していたらしいとの説が有力です。さらに、動きがゆっくりした旅客機は戦闘機に比べ、撃墜しやすいとのことです。まさか、始めから旅客機を狙うほどかれらも残虐ではないと信じれば、誤射説もありえますね。
マレーシア機は3月、南シナ海で突然、消息を絶ち、239人の行方が今なお不明です。そんな大事故があったばかりですから、なおさら、安全管理に周到な注意を払っていなければならないところです。マレーシアの運輸相は「この飛行ルートは欧州の航空会社のほか、アジア太平洋の14か国が利用していた」といっています。だから自分たちのせいではないと、いいたいのでしょうか。
ウクライナ上空を通るルートだと、飛行距離を短縮でき、燃料費を節約できるという判断が働いたとされます。恐らくそうでしょう。結果は、そのために撃墜され、はるかに高い代価を払うことになったのです。ロシアや親ロシア派に代償を払えといったこところで、責任を明確にするのが難しい戦争状態ですし、ロシアのプーチン大統領は「戦闘が再開されなければ、悲劇は起こらなかった」と、居直っていますね。「ロシアの責任は重い」(19日の日経社説)といっても、もどかしい限りです。
日本の日航、全日空は、日本と欧州を結ぶルートでは、ウクライナ上空を飛ぶ便はなく、ロシア・シベリア北部、北欧上空を飛行しているそうです。地理的にそうできるのかもしれません。それと東アジアで中国が防空識別圏を設け、東アジアでの緊張の高まりから、日本の航空会社がリスク管理に敏感になっているせいでもあるのでしょう。管制当局とは別に、航空会社が自主的に判断して、危険な紛争地域を避けることもあるようですね。
民間航空機がミサイルで撃墜され、「悲痛きわまる惨事だ。民間機への攻撃を断じて許さない」(19日の朝日社説)、「大惨事が起きた。ロシア軍の関与が疑われる」(19日の読売社説)という状況ですから、マレーシア側の油断を解明することには遠慮があるのかもしれません。
オバマ米大統領のプーチン氏への怒りは「世界的な悲劇だ。この暴挙に関与したものに責任を取らせる」と、頂点に達しています。メディアはこうした国際的な動きを追いかけるのに必死です。この事故をめぐり、事態は「現場調査の立ち入り」、「武装集団、監視団を妨害」、「ミサイル、ロシアに移動か」、「親ロ派、機体持ち去り」、「ロシアからのミサイル搬入の映像証拠」と展開しています。米国は一気にロシアを追い詰める絶好の機会がきたと思っているでしょう。メディアはここで一歩、退いて、危機の本質に迫るセンスが必要です。
米欧は結束してロシアを糾弾していかなければならないのは当然です。これは政府にしかできない行動です。一方、メディアにはメディアの仕事があります。「マレーシア当局は不測の事態に備えた危機管理をしてきたのか」、「マレーシア航空はなぜ自主的にでも、危険空域を回避するという判断をしなかったのか」、「この空域を飛ぶほかの航空会社はどのような行動をとっているのか」、などを調査し、報道しなければなりません。その努力がまったく足りないのではないですか。
「マレーシア航空、また打撃、撃墜事件で拍車か」(19日の読売経済面)という記事を読みました。格安航空会社との競争激化などで、赤字体質から脱却できないうえ、今回の事故が起き、経営危機が深刻化するとの見方です。そうした指摘もいいでしょう。もっと大切なことは、燃料費節約のために、危険なルートを飛んだのか否かです。ここが肝心です。
ロシア、ウクライナに限らず、各地で国際情勢が不安定になり、何がおきるか予測しがたい時代ですから、民間企業は自らを自らの手で守る自衛の意識を高め、用心深く対応策をとらねばなりません。あとでロシアや親ロシア派を責めたてても、失われた乗客、乗員の生命は戻ってこないのです。もっとマレーシア側の責任も追及する声が起きてもいいと思いますね。自衛という意味を掘り下げるときです。
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