これまで放置のツケ
2014年7月17日
進研ゼミなどで知られるベネッセの顧客情報流出事件は、個人情報の管理強化、転売業界の取締りのいいきっかけにしてもらいたいと思います。事件の中心がベネッセという知名度抜群の企業、国民の関心の高い子供の情報、流出した情報の規模、名簿転売業界の広がりの大きさといい、いずれも最大級です。取り締まりを強化するには格好の大事件となりました。出入りしていた派遣会社のシステム・エンジニアが逮捕されました。ベネッセ問題にとどめてはいけません。
ほとんどの人が自分の個人情報が不正に流通していることに憤りを覚えてきたでしょう。急いで電話口にでると、さまざまな商品の勧誘を長々と聞かされます。すぐ切ると嫌がらせを受けるといけないと思い、しばらくは聞いてあげてから、電話を切ることにしているのではないですか。 わたしの経験で、一時、よくあったのは「太陽光発電パネルの設置」でした。「うちは新築したばかりで関心がありません(実際は築後15年ほどの中古)」と答えます。「墓石はいかがですか」には「まだまだ長生きするつもりですから、結構です」。「高利の金融商品があります」には「うちはおカネがありません」。皆さんも受け答えに苦労していますよね。
しつこい勧誘には、く電話口に携帯ラジオを近づけ、番組をお聞かせして差し上げます。「もしもし、もしもし」といらだち、先方から電話を切ってくれます。 「どこからわたしの名前と電話番号を知りましたか」と質問すると、「名簿業者からです」と、素直に返事する業者もいます。不正に取得した個人情報がおれおれ詐欺にも使われているでしょうから、無関心でいられません。広がりが極めて大きな問題の氷山の一角に過ぎません。
今回の事件で腹がたつポイントと書き出してみましょう。
・ベネッセの新社長の人を食った発言で、経営のプロを言われる人の認識の程度が分りました。
・情報管理に限らず、コスト削減、業務の専門化・細分化のため、何層もの外注、下請けがなされ、管理、監督が甘くなり、不正がはびこりやすくなっています。
・顧客情報を転売する際、「不正に取得したのではない」といいます。そうでないと、売ったほうも買ったほうも、後で罪(不正競争防止法違反の営業秘密の複製など)に問われるからです。要するに盗品の売買が多いのです。あるいは、無断転用の情報の売買が多いのです。
・なんども転売され、情報の出所が意図的に隠蔽される慣行になっています。暴力団関係の資金洗浄(マネーロンダリング、金融機関の口座を何度も変え、捜査機関の追及を逃れる)に似ています。流出情報の洗浄(ロンダリング)です。ドロボーが盗品を転売し、簡単に足がつくのとは、わけが違います。
・そうした情報の盗品市場が存在していることは以前からの常識で、警視庁、関係省庁も見て見ぬふりを続けてきました。官庁は社会的な大事件にならないと、重い腰をあげないということが、また立証されました。
ベネッセの社長はこの6月に交代し、日本マクドナルドの会長だった原田氏が就任しました。アップルコンピューターの社長経験もあり、ヘッドハントされ、短期間でマクドナルドを再建した功績があったとの評価です。国内では「経営のプロ」、「辣腕経営者」などの最大級の称号を贈られてきた人です。この人が報道機関のインタビュー(11日の読売新聞)にこう答えました。
「高度なセキュリーティー(防犯対策)とログインシステムがあったので、(容疑者)を絞り込めた。他者に比べ、欠陥があったための事故だとは思っていない」、「システムで二重、三重,パスワードをかけても、その人たちが結託したら、情報は盗める。最後は人の倫理だ」といいました。さらによせばいいのに「今まで以上にいい商品をつくり、いいサービスをすることが本当の信頼回復だ」と、いい放ったのです。
確かに容疑者は絞りこめ、逮捕に追い込みました。問題は情報流出を防げたかどうかです。できなかったのです。出入りしていた業務委託先の社員で犯人の男は半年にわたり、何度も、情報にログインして複数回にわたり、盗んだらしいのです。新社長が誇るほど「高度なセキュリティー」が何度も、簡単に破られたのです。「最後は人の倫理だ」ともいいました。この種の問題は性悪説にたって対応策をたてねばなりません。コスト削減で、労働条件が必ずしもいいとはいえない会社に業務委託し、そこがまた外注していくうちに、こうした事件がおきるのです。「倫理」を持ち出したのは大間違いです。
ついでに申し上げますと、「今まで以上にいい商品、サービスをする」は、このタイミングでいうべき言葉ではありません。動揺する社員や証券市場向けの言葉です。コンピューター業界、システム関係に詳しく、自分はプロの経営者という自負がありすぎたのでしょう。軽い発言をしました。まず、動揺する子供の親の心を思う発言を強調すべきところです。
盗んだ情報を買った企業はどうでしょう。そのひとつ、ジャストシステムという企業は、評価も高い著名企業です。少量ならともかく、何十万、何百万という大量の顧客情報を「不正に入手した名簿ではない」という説明を真に受けて、買ったとは思えません。「情報の出所は問わない」が、この世界の慣行なのでしょう。「盗品と知らずに買った」ではすまされません。買う側がいるから、この種の世界が成立するのです。買った側の追及も不可欠です。
このブログをここで終わりにしようと思っていた矢先、電話がなりました。実話です。関係業界は反省などしていないのです。
「太陽光発電の会社です。一戸建ての家の方に電話しています」、「わたしの名前をおっしゃって下さい」、「中村さんです」、「わたしの名前と電話番号をどこで知りましたか、「市販の名簿からです」、「その名簿はどこで買いましたか」、「分りません」、「それを調べてからもう1度、電話をください」。そうしているうちに、電話は切れました。
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