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安倍政権に不都合な経済予測

2014年07月27日 | 経済

  経済の長期停滞説が浮上

                    2014年7月27日

 

 安倍政権は異次元の金融緩和による物価の政策的引き上げ、デフレ脱却に成功しつつあるとの自信を深めています。そんな時、米国の最も著名な経済学者、サマーズ・ハーバード大教授が先進各国での成長率の鈍化に注目、米国経済の長期停滞説を唱えました。日本の学者も一斉に注目し、人口減と財政危機を抱える日本の場合はもっと深刻だとの主張を始めております。

 

 安倍政権にとっては、恐らく相当、不都合な経済予測でしょう。黙殺してこれまで通り、目標達成に対して楽観論を変えないのか、否定論をだれかに言わせるか。景気、経済予測は、走っている人の体温、脈拍、血圧などを医者(エコノミスト)も走りながら計らねばならず、だれが取り組んでも難しく予測は狂いがでますから、確定的なことは言えません。それにしても、民間では強気の予測を崩さない政府、日銀に懐疑的な意見が出始めているだけに、困ったことになりそうですね。

 

 事細かな景気分析に熱中している政府、日銀に対して、わたしは「景気判断はムシの目か鳥の目か」(6月14日)というブログを書きました。ミクロ的なデータの分析(ムシの目)よりも、大局的な経済観(トリの目)が求められているとの指摘です。かりに物価上昇率2%、経済成長率2%が達成されたとしても、それに持続性があるのか、一過性で終わるのか。目先の目標達成よりも、こちらのほうが重要なテーマであるはずだ、との思いからでした。

 

 そこにサマーズ氏の長期停滞説が紹介されはじめましたので、深い興味を持ちました。面白いことに、アベノミクス(安倍政権の経済政策)の応援団である日経新聞が、7月半ばから熱心に停滞説を大きく紹介を始めました。一般の記事では、政府、日銀の楽観的見通しをなぞっっているのに対し、解説面ではかなりの力の入れようなのです。新聞社として、見通しが狂った場合に備え、バランスをとっているのかもしれませんね。

 

 黒田日銀総裁は「景気は心理学。政策当局者が強気で押せば、市場もデフレ脱却を信じるようになり、実際にその通りになる」との経済思想です。ですから、今の段階で、懐疑的なことは言わないでしょうね。安倍政権の後押しが使命と考えていると見られる読売新聞には、こうした停滞説の紹介は見当たりません。メディアは政権と一体にならず、中立的な立場から政策を評価、分析することが本来の使命です。まだ日経のほうが公正です。

 

 日経の経済解説ページの経済教室に、「米低成長の陰に需要不足」(7月14日、福田東大教授)、「成熟化で投資機会乏しく」(同15日、池尾慶大教授)、「投資低収益、日本こそ深刻」(同16日、岡崎東大教授)の3回シリーズで、米経済の長期停滞説および日本との関係に触れた解説寄稿が登場しました。さらに同じく経済教室で、「供給力の天井、克服を」(同23日、柳川東大教授)の寄稿が載り、見出しはともかく、「成長率が伸びないなかでインフレだけが進むのは望ましくない」と、警告しましたね。

 

 今朝(27日)、このブログを書こうとして、日経新聞を開いたら、「経済論壇から」という定例コラムに「長期停滞論と日本」(土居慶大教授)の時評でも、同じテーマが取り上げられていました。異例なくらいの頻度です。新聞社として何か意図があると思うのが自然です。

 

 サマーズ氏の長期停滞論、解説者の見解を要約すると、以下のようになります。

・リーマンショック直前の2007年に、潜在的な成長軌道とされた水準を10%、下回ったまま米経済は推移している。この低成長ですら、極端な金融緩和による実質マイナス金利でようやく実現できた。

・金融危機後、経済回復は遅れ、成長路線への復帰を果たしていない。潜在成長率は低下しており、それは金融危機の前からおきている。第二次世界大戦後の復興・高度成長ブームは70年代に終わっており、先進国経済はおしなべて成熟化の傾向を示している。

・実物的な投資機会はすでに乏しく、低成長は不可避になっている。人口増加率の低下、イノベーション(技術革新)の一巡などが背景にある。

・米国経済は金融依存を強め、資産価格バブルを起すことで、その後も高成長を維持してきた。実体を欠いたかさ上げが限界に達した結果として金融危機(リーマンショック)が発生した。それを契機に低成長の実体が露呈した。

・IT革命の進展によって、少ない人数で生産できるようになる一方、働き場を失った人々に新しい職場を提供できないでいる。新興国の企業、労働者の能力は高度化し、先進国の製品、技術が競争に負けだしている。

 

 もっとも対策がないわけではありません。サマーズ氏は「努力次第で脱却できる」と言っています。所得分配の不平等化による消費減退の是正、日本がやっている第三の矢である成長戦略(投資機会の創出)、女性の社会進出の促進、高齢者の働き場の創出などもありましょう。

 

 要するに黒田総裁が固執する異次元の金融緩和、心理学によるデフレ脱却という目先の話では解決できない構造的問題が横たわっているということです。安倍政権がやっている資産バブルの創出、株価引き上げは、むしろ本質的な問題解決を先送りすることになりかねません。官僚から提出されるおびただしい数のプロジェクトを、十分な政策的手順の裏づけ、実現可能性の詰めがないまま、速射砲のように右から左に、次々と打ち出し、新聞、テレビの報道させる手法もいかがなものでしょうか。

 

 最後に、日本の経済学者は、いつものように、海外の権威ある学者の主張、学説に刺激を受けています。輸入学問、輸入学説なのですね。サマーズ氏の長期停滞説をまず日本の経済学者から聞かせてもらいたかったと思います。

 

  

 



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