新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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金正恩と横田夫妻と孫娘

2014年03月19日 | 国際

 策ばかりこねる北朝鮮

                    2014年3月19日

  

 モンゴルが久しぶりに国際舞台に登場しました。国際舞台といっても、北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの娘さんと、めぐみさんの両親が面会し、ウランバートルの宿泊施設で何日間かをともに過ごしたという話です。「ええっ」と、わたしは驚きました。

 

 「久しぶりにいい話だ」、「なぜ今なの」、「何か裏があるのではないの」との思いが交錯して、この話をしばらく消化できませんでした。おそらく皆さんも同じではなかったのではないでしょうか。ウンギョンさんの赤ちゃん、つまり夫妻のひ孫さんも一緒で、おみやげに、ボタンを押すと曲が流れるおもちゃ、セーター、それに風邪薬をもっていった、というところが泣かせます。「なぜまた風邪薬なの」と、ここは想像力が働きます。

 

 第三国で夫妻とウンギョンさんが面会する話は、3、4年前からあったようですね。北朝鮮に政治利用されるのではという懸念があったり、拉致被害者家族会の反対があったりして、なかなか実現していませんでした。そのため、記者会見にお出になった夫妻の表情にははじめは緊張感がうかがわれ、しばらくすると満面に笑みを浮かべ、「人の心、肉親の心とは、こういうものなのだ」と、こちらもほろリとしてしまいました。

 

 北朝鮮がこの場面を、政治利用しようとしたことは間違いないでしょう。面談実現の裏には、安倍政権も動き、承認するという流れがあったことも十分、想像ができます。そうであったとしても、国家の策謀、歴史の流れを超えた感動的な物語です。本来なら敵視すべき北朝鮮の男性と自分の娘が結婚し(結婚させられ)、ウンギョンさんが生まれ、ウンギョンさんも北朝鮮の男性と結婚して、赤ちゃんを産み、夫妻が抱きあげて、おそらく涙ぐむ。

 

 政治利用といえば、当時15歳のウンギョンさん(へギョンさん)がテレビのインタビュー登場し、「おじいさん、おばあさんに会いたい。こちらに来てください」と語ったことがありましたね。北朝鮮のことですから、事前になんどもリハーサルさせたことでしょう。そんなことを忘れさせるほど、ウンギョンさんは聡明そうで、言葉も自然に流れておりました。

 

 ここで突然、思い出すのが、金正恩第一書記の後見人、政権ナンバー2だった張成沢氏(金正日総書記の妹の夫)を粛清した事件です。昨年12月のことで、「国の経済活動に重大な支障をきたした」、「国の資源を安値で売り払う売国的行為をした」とかが、その理由とされました。特別軍事裁判でクーデターを計画したともされ、死刑判決、即時執行されたとの報道がありました。

 

 政権内部に激しい権力闘争があり、軍の強硬派が勝ち、国を好きなように操れる国になったと解説されています。いかに権力闘争があったにせよ、一族を一瞬にして処刑(銃殺)してしまうなど、恐怖で身の毛もよだつ話です。

 

 このような残忍極まりない人物と、この人物が演出したであろうモンゴルにおける涙を誘うヒューマン・ストーリーがどうにもかみ合いません。かみ合うとすれば、この国の体質、金政権の体質は「策ばかり弄する」という点に収れんします。長距離ミサイルを発射するぞ、核実験をするぞと、国際社会をさんざんに脅しておき、関係国が必死の説得を続けると、最後は援助などを引き出し、ほこ先を収める。その繰り返しですね。

 

 話は変わります。北朝鮮の人権に関する国連調査委員会が2月19日に厳しく告発する報告書を公表しました。国家政策による組織的かつ広範な人権侵害の存在を認め、「人道に対する罪」にあたるとして、国際刑事裁判所に付与するよう勧告しました。拉致問題は当然、含まれ金第一書記本人の責任も追及される流れになりました。

 

 拉致被害者家族会の飯塚代表は16日、国連人権理事会に出席するため、スイスに出発しました。日朝赤十字会談が3月3日に続き、19、20日にも中国で行われます。こうしたタイミングをぬうように10-14日にモンゴルでウンギョンさんと横田夫妻の面会がセットされたのでしょう。

 

 北朝鮮に対する包囲網が狭められて行く中で、拉致問題で思わせぶりな態度をちらつかせながら、日本を少しでも北朝鮮に寄せ付けておく、という細工のつもりであったのかもしれません。油断のならない国です。

 

 北朝鮮の将来を占うと、身内を処刑した金一族には、第一書記の盾になる身内はもういないも同然です。独走、暴走しかねない軍部に対し、第一書記は無防備同然となりました。軍部にとって第一書記がじゃまになれば、始末されかねない状況をみづから作りだしたのです。策があるようで、策のない選択をしたわけですね。

 

 最後に、横田夫妻のインタビューを聞いて、そして横田夫妻のインタビュー写真をみて、ほとんどの日本人は深い感慨を覚えたことでしょう。このシーンを見るべき国は日本以上に朝鮮であり、その国の権力者、政府や軍の関係者、さらにその国民だと思いました。

 

 

 

 

 



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