新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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クリミアと北方領土と尖閣

2014年03月22日 | 国際

 無極化時代の外交

                     2014年3月22日

 

 ウクライナ情勢をめぐり、ロシアと欧米の緊迫した駆け引きが連日、報道されています。日本は当然、欧米寄りの態度をとっているものの、北方領土返還問題、ロシアとの資源開発計画を抱え、日ロ関係をこじらせたくないと思っている安倍政権は「困った事態になった」というところでしょう。

 

 日本としても、かりに中国が尖閣諸島の帰属をめぐり実力行使にでてきたら、どう対応するのか、欧米はどんな支援をしてくれるのかを占う材料を提供してくれています。日本が欧米に同調し、ロシアが怒って、北方領土問題は白紙にするぞと脅しをかけてきたらどうするのか、というように、ウクライナ情勢は日本の外交、安全保障に直結してきます。

 

 日本のメディアはウクライナに対するロシアの動き、クリミア自治共和国の動静、欧米の対ロ非難などは詳しく伝えています。問題は、日本にとってどういうことになるのか、どのような意味を持つのかなのに、肝心な点は、ほとんど掘り下げていません。社説では、こういう問題こそ書き込んでほしいのに残念ですね。世界は無極化時代に入り、自分自身で外交、安全保障を考えていかなければならないというのに、どうしたのでしょうか。

 

 欧米も頭を抱えています。ロシアは明らかに軍事力を行使しました。クリミア半島を勢力下に置き、ロシアへの編入も時間の問題となっています。欧米は軍事力を行使することは避け、経済制裁、および国連などでのロシア批判という言論戦で戦っています。

 

 軍事力の行使は流血を伴い、紛争を長期化させ、混乱を広げ、結局、何も問題を解決してくれないというケースを、いやというほど見せつけられています。シリアしかり、イラクしかりでしょう。自国の防衛には、軍事力は使わねばなりません。他国でおきている紛争解決のために支援に出かけていくとなると、どうでしょうか。まともな国ほど、軍事力を行使しても、人命とカネを失うだけだと考える時代になりました。

 

 新聞を読んでいて驚いた記事にお目にかかりました。読売新聞のアメリカ総局長の解説コラム(3月20日)です。「力を背景とした現状変更の暴挙(ロシアによるクリミア編入のこと)を抑止するには、武力行使も辞さないという毅然とした姿勢を米国が見せる必要がある」と指摘しています。米ロの軍事対決、つまり戦争に突入したら、世界は大混乱に陥り、株価は暴落するでしょう。筆者の意図が不可解です。

 

 米国での世論調査では、「軍事選択の検討」は8%、「ウクライナ情勢に過度に関与すべきではない」が56%です。軍事力行使の限界、財政赤字の拡大による経済体質の悪化を、いやというほど体験してきたのです。

 

 それに比べ、経済の相互依存、グローバル化が進んだ結果、経済制裁が一時代前より効果がでてきたような気がします。相互依存が進んでいますから、制裁を発動する側もダメージは受けます。経済制裁は米国が強硬で、欧州は腰が引けているといわれます。欧州はエネルギー消費の3分の1をロシアからのガス供給に依存しているそうです。対ロ貿易額は米国の10倍で、ロシアの報復をうけると、経済は混乱します。もっともロシア側の経済的損害のほうがずっと大きいでしょうから、ロシアに今以上の暴走を許さない歯止めにはなるでしょうね。

 

 経済制裁のニュースを読んでいて、もうひとつ驚いたことがありました。欧米の金融機関に蓄財しているロシアの要人が意外に多く、かれらの口座を封鎖し、資産を凍結してしまうというのです。議会の議長、長官、政権幹部、プーチン氏に近い企業家らが対象になっています。日本円でいうと、兆円単位、千億円単位の総資産があるといいます。それをロシア国内でなく、恐らくニューヨーク、ロンドンなどに蓄財したほうが安全だという判断でしょう。名指しているところをみると、身元がすでに割れているのでしょう。ロシア本国に隠し財産をおいておくと、ばれる恐れがあり、こわいのですかね。

 

 小国や発展途上国ならともかく、ロシアという大国の要人がそんなことをするのですかねえ。その逆はありませんよね。欧州や米国の要人、金持ちがモスクワの銀行に私財を隠しているということは、まあないでしょう。ロシアは途上国並みなのでしょうか。経済制裁で意外な勉強をしました。

 

 結論は日本自身の課題についてです。安倍政権はプーチン政権との関係がよく、任期中に北方領土問題に道筋をつけたいと思っています。プーチン氏も安倍氏を厚遇し、思わせぶりな態度をみせてきました。北方領土返還は日本の正当な要求であるにせよ、返還の実現性は極めて乏しいとわたしは思ってきました。ロシアにとって軍政上の価値が極めて大きいこと、1,2万人のロシア人が住んでおり、返還後の処遇が難しいこと、経済的価値が大きくないことなどの問題もあります。欧米と日本の関係を悪化させてまで、無極化で国際情勢の乗り切り方が難しくなったこの時期に、返還に固執するのは好ましくないでしょうね。プーチン氏の口先の策謀に乗ってはいけません。

 

 クリミアはロシアに編入する、その一方で北方領土は日本に返還する、という選択をロシアはまずしないでしょう。そう日本はそう考えるべきです。

 

 次が尖閣諸島をめぐる中国との争いです。中国が実力行使に動いた場合、欧米、とくに米国は強硬に対中非難を繰り返してくれるでしょう。そこから先がどうなるかが問題です。日米安保条約の対象地域であるにせよ、ウクライナ情勢でみられた米国の姿勢から判断すると、軍事力の行使、直接対決は避けるでしょう。

 

 日本では、集団的自衛権の行使をめぐる憲法解釈の変更に、世論を含め、連立与党の中でも慎重論が根強いのです。日本の危機のために出動した米軍が攻撃をうけても、日本側が反撃に加わらないというのでは、米国民、米国議会、米政府はますますそっぽを向くでしょう。ウクライナ情勢の混乱に乗じて、中国が尖閣問題で実力行使に踏み切ってくるほど、短慮ではないでしょう。短慮はしなくても、何事かを熟慮している可能性はあります。後で泣いたり叫んだりしても遅いのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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