平和ぼけとはこのことだろう
2017年4月23日
自民党は聞こえのいいネーミングで、財政体質の悪化を隠そうとしていますね。与党が熱心になっているこども保険と教育国債はどうにも無理があります。こども保険は保険という名称は不似合いで、子育て支援のための目的税の変型です。教育国債は名前を変えた赤字国債で、国の借金そのもので、返済するのは後の政権、後の世代です。
今は平時です。平時なのに財政状態は先進国最悪、異次元緩和の日銀の財務体質も、日米欧の中で最悪です。深刻な異常事態が発生した場合、どう対応するのでしょうか。それに備えておくのが、本当の意味の安全保障であるはずです。平和ぼけとはこのことを指しているとしか思えません。「当分、大丈夫」と思っているのです。
どうして次々に奇策を持ち出してくるのかといえば、消費増税を先送りし、財源が足りなくなっているためです。消費増税すると、景気が悪くなり、デフレ脱却に支障がでるので、当分、棚上げし、19年10月まで延期というのが安倍政権の選択です。当面の歳入増をやりくりをつけてしまうと、消費増税がまた先に延びることになりかねません。
5年という久しぶりの長期政権、数十%程度の高い支持率を得ている安倍政権だからこそ、不人気を覚悟で消費増税、財政再建に取り組むのが使命のはずです。安倍「1強政権」ができなかったことを、他の政権でやれといっても、もうとても無理でしょうね。
景気に悪影響がでるのを恐れるならば、他の項目の歳出を減らして、子育てや教育向けの財源を手当てすべきです。予算を一方で減らして、他方で増やばいい。それなのに政治は逆走しています。
社会保険料は税金と同じ
こども保険では、社会保険料(医療、年金、介護)を引き上げ、財源を稼ぎ、子育て支援に回します。現在の保険率約18%(企業と勤労者が折半)に0・5%、上乗せすれば、1・7兆円の歳入が得られ、児童手当は1人2万5000円、給付できるそうです。社会保険料も税金と同じことで、勤労者と企業の負担になります。
しかも、子どものいない勤労者にも負担がかかり、「なぜわれわれも払うのか」になります。発案者の小泉進次郎議員は「社会全体で子育てを支援するため」と説明しています。それでは、若い世代より資産がある高齢者はどうかというと、年金収入には、負担がかかってきません。ここでも新たな不公平が発生します。高齢者にもかかる消費税はずっと公平です。
「幼児から大学までの無償化」を目指す教育国債にも、首を傾げる点がいくつもあります。4割の私立大学が定員割れしています。2000年以降、少子化にもかかわらず、4年生大学は2割(130校)も増えました。「経済的理由で進学できない学生も大学に行け、社会的な格差を是正する」という目的は本当はどうなのでしょうか。
勉強する意欲がないのに、大学に進学させ、経営難の私大、特に地方の私大を支援することが大きな目的ですかね。幼児から大学生までの教育無償化だと、5-10兆円かかるそうです。教育予算を手厚くするなら、専門職教育の充実に取り組むべきだとの声に耳を傾けるべきでしょう。経営者になるわけでもない学生に経営学を教えても無意味です。
学力不足の学生を優遇、科学者は冷遇
もっと重要なことは、大学における研究開発費です。04年以降、大学に対する運営交付金が毎年、減らされ、この10年で1割減です。博士号を持つ若手を雇用する「ポスドク」に、任期切れ後の就職先がなく、収入や身分が不安定な高学歴研究者が増えている(日経社説、4月16日)。学力のない学生を支援し、博士号を持つ研究者を冷遇する日本です。
教育国債の発行額をかりに5兆円とすれば、消費税を2%アップに見合う金額です。国債を発行しても、デフレ対策と称して、日銀がどんどん国債を購入していますから、消化に心配はなく、教育国債ような暴論が浮上してくるのです。教育国債というネーミングには工夫を凝らしても、大学教育のあるべき姿に工夫を凝らさないことをやろうとしています。
財源が足りなくなったらまず、教育国債、農業が苦しくなったら次に農業国債、さらに安全保障対策のための防衛国債と、なりかねません。平時なのに財政や日銀の健全性を悪化させていったら、本当に困った戦時にはどうするのでしょうか。
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