新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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オイルショック50年、揺れた原発政策に対する一記者の回想(中)

2023年08月09日 | 経済

 

原発回帰に立ちふさがる難題

2023年8月9日(中)

 便乗値上げ分析の産業連関表をスクープ

 当時の新聞の縮刷版をみると、「ついに石油割り当て立法」、「石油耐乏生活スタート、緊急対策決まる。暖房温度20度、テレビ、車自粛」、「灯油1缶288円。モノ不足、物価加速」などという見出しの記事が連日、第1面に載っています。

 

 年が明けて1月、山下英明・事務次官が記者会見で「便乗値上げが目に余る。製品コストにしめる石油、電気のコストを計算して、便乗値上げの実態を明らかにしたい。原油は2倍(最終的には1年で4倍)になっていても、製品の製造コストにしめるエネルギーコストは6-7%程度のものも少なくない。それをはるかに上回る率の値上が行わている」と、発言しました。ゼネラル石油で「石油危機は千載一遇のチャンス(便乗値上げでボロ儲けできる)」という発言があったと報道され、社会的な問題になっていた時期です。

 

 翌日の他社の記事を読むと、山下次官の「便乗値上げを調査する」という程度の内容に終わっています。私は「この問題は産業構造課が調べているに違いない」とピンときて、会見の直後、産業構造課へ行きました。課長がタイミングよく課長席におり、次官発言の内容を伝えると、待ってましたと言わんばかりの雰囲気です。早速、引き出しを開け、数字がびっしり並んだ何枚かのペーパーを取り出し、渡してくれた。産業構造課という地味な仕事をしているこの課を他社はマークしていなかったのでしょう。私は時々、勉強のために足を運んでいました。

 

 ペーパーは産業連関表で。150種類の物資、製品がエネルギーコストの上昇を受け、価格に転嫁した場合、どの程度の値上がりになるのかを詳細に調べた表です。コンピューターを駆使した産業連関分析です。課長は「便乗値上げの実態が一目瞭然だ。標準価格(適正価格)というものを製品、物資ごとに定め、法律で守らせる。標準価格設定というところまで書いて下さい」と、言うではありませんか。

 

 読売新聞しか入手していない資料です。「電気17%、セメント15%」などの大幅値上げは仕方ないにしても、一覧表をみると確かに大多数は6-7%で、「紙5・6%、砂糖3・5%」などとなっています。エネルギー・コストの上昇を価格に反映させるのは当然でも、実際には、その何倍もの値上げになっている製品、物資が多かった。紙もその一つで、値上がりするから消費者が買い急ぐ、買い急ぐからさらに値上がりする。その結末が「トイレット・ペーパー騒ぎ」で、店頭から消えてしまった時期もありました。それを新聞、テレビが報道するものですから、さらに買い急ぎが進む。それに気づいて、どこかの段階からそうした報道に自粛を始めたはずです。報道の公共的責任にのとった報道自粛です。

 

 新聞用紙も大幅に値上がりしたうえ、製紙メーカーが売り惜しみもしていました。売り惜しみをしていれば、物資が不足してさらに値上がりする。政府は売り惜しみ・買い占め防止法を後に制定しました。その後、当時の社長が記者クラブに直接、電話をかけてきて、「用紙メーカーが供給を減らしている。通産省の担当部局と掛け合い、ちゃんと供給するように頼んでほしい」という一幕もありました。新聞社の社長が記者クラブの一記者に電話をしてくるなんて前代未聞です。今でしたら「新聞社の社長が通産省に圧力、特別扱いを要請」という記事が週刊誌に載っていたかもしれません。まあ、新聞社1社の話ではなく、全国どこでも全産業においてそんな状況だったのでしょう。

 

 50年前の賃上げ率は30%

 

 翌年でしたか、私は日銀記者クラブ(金融記者クラブ)に異動していました。当時の佐々木直総裁が「海外の会議で、日本は狂乱物価状態。賃金は『サーティー(30)%上がった」と発言したら「『サーティーン(13)%の間違いではないのか」と問われたので、「いやサーティー(30)%だ」と語ったそうです。そのことを今でも記憶しています。この10年、日銀は「消費者物価上昇率2%」を目標に掲げ、「適正インフレと賃上げの好循環が景気をよくする」と連呼しています。当時の賃上げ率は現在の10倍です。

 

 8月8日に厚労省が発表した統計では、「一人当たり名目賃金は前年比2・3%増で、物価上昇分を差し引くと、実質1・6%の減少」となっております。オイルショック当時のインフレはまさに狂乱状態で、当時の首相だか通産省次官が「日本経済は全治3年の重症」と発言していました。2度にわたるオイルショックを乗り切るために、必死にエネルギー効率の改善を目指し、原子力発電の推進がエネルギー供給の基幹的な役割を担う時代に向っていきました。(続く)

 

 


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