新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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トランプ氏の政治ショーの扱いに節度を

2018年08月26日 | メディア論

 

北朝鮮の非核化もポーズか

2018年8月26日

 日本のメディアまでが、トランプ米大統領の支持率目当てのショーに振り回されるべきではありません。テレビの放映時間も新聞の紙面も無駄が多いのでは。米朝関係の分析は専門家任せにするとして、トランプ氏の宣伝にいいように使われているメディアの姿を考えてみました。


 トランプ氏がまたやってくれました。ポンペオ国務長官の北朝鮮訪問(27日の予定)を中止するよう指示しました。訪朝は23日に発表され、中止はツイッターで24日に発表されました。発表した直後の中止発表は、異例というより、始めから訪朝の可能性は少なかったのかもしれません。


 トランプ氏が金正恩委員長とシンガポールで初の首脳会談を行った時も、「会談が決まった」、「会談は中止」、「会談はやはり実施する」と発表し、そのたびにメディアは振り回され、壮大な政治ドラマへと仕立てあげられました。朝鮮半島情勢は日本の関心事ですから、日本人も半信半疑で「非核化がうまく進んでほしい」と、トランプ氏に期待はしました。

 

扱いはもっと小さくてよい


 日本のメディアには、トランプ氏に対する報道姿勢を考え直す必要があります。もっと扱いは小さくてよいと、思います。26日の朝刊を見ますと、1面で扱っているのは、読売(3段)などで少数です。読売は3面で「米、北ゆさぶりか」の解説、その横に「核放棄を求める米国と遅延を図る北朝鮮の間で駆け引きが激しくなっている」の社説で1頁分の大扱いです。


 読売は解説で「トランプ氏は安倍首相と電話会談し、非核化の進展がない現時点では、北が固執している朝鮮戦争の終戦宣言は受け入れるべきではないと、安倍氏は主張した」といいます。交渉中の米朝案件について、会談内容がすぐに新聞に載ったのです。記事で言及してもらうと、「安倍氏も米朝交渉に深く関与している」と、印象づけられるという計算でしょうか。


 首席補佐官を解任されたバノン氏の発言について、英エコノミスト誌がこんなことを書いています。「メディアにはクソみたいなネタを流しまくることだ」(22日、日経)。その意味は「何が問題の本質なのか誰にも考える余裕を与えないほど、次々にニュースを流し、メディアを混乱させてしまう」と。


 トランプ氏周辺には、いつも多くのニュースが渦巻いています。ロシアゲート事件に絡み、「元側近に脱税などの罪状で有罪評決」、不倫もみ消しでは「元顧問弁護士が司法取引で有罪をを認める」、中国とは関税の引き上げで貿易戦争などなど。そこに国務長官の訪朝中止です。


ネタを垂れ流し攪乱


 糸がどこでどうつながっているのか、分からない。バノン氏のいう「クソみたいなネタを流しまくる」ですね。しかも政策や人事を独断で決め、ツイッターで大統領自身が次々に流す。ツイッターですから、情勢が変わったとなれば、続報の形で修正して、知らん顔で押し通す。


 トランプ論で的をついているのは、「自分がいないと大変なことになる。自分がいないと、米国は大きな仕事はできないと、思わせる」のだそうです。「国を率いる人物というより、単純なメッセージを発信して、選挙選に向け、支持率を取り付けることを得意とする」との解説記事もあります。


 これでは安倍首相も振り回されますね。首相は「日朝首脳会談をやり、拉致問題は自分の手で解決する」と考えているようです。首脳会談を実現するのは、周到な事前準備と交渉が必要です。それなしに、「首脳会談を開催したい」といいだすのは、相手に足元を読まれるだけで、愚策とされます。首相はこの程度のことはご存知のはずですから、首相もポーズや政治ショー優先なのでしょう。


 北の非核化では、北に本気で取り組む気持ちはまずない。それでも米朝間の課題になっているのは、北も政治ショーに使いたいからに違いありません。いくら圧力をかけても、核を手放すことはない。「交渉次第だ」という姿勢を見せておけば、米国が武力攻撃をしてこないという読みでしょう。


 核実験はやらせない。核兵器を中東などの独裁国家に売ることは絶対に阻止する。金委員長の独裁体制については、崩壊したら、その後の処理にどのくらいのコストがかかるかわからないから、そこまで踏み込まない。解決に向かったら、日本はいくらカネを要求されるか分からない。


 結局、残念ながら、解決するのでもない、しないでもない状況が長く続くのでしょう。それを政治ショーに仕立ててれば、メディアは書かざるをえない、ということでしょうか。だから解決を急がない。

 

 





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