誰も信じなくなった物価目標
2015年10月31日
物価引き上げの無理な目標を設け、強引な金融政策に踏み込み、過半の専門家が懸念していた通りの展開になっています。優れた専門家集団に支えられているはずの日銀総裁の発言が二転三転し、見苦しい限りです。こんな日銀総裁は日銀史上、まず存在したことはないでしょう。
最近、日銀OBが集まった会合があり、黒田総裁も招かれたそうです。現役のころから高い評価を受け、代議士にもなった著名なOBが挨拶に立ちました。現職の総裁を目の前において、挨拶は次第にヒートアップし、「2年で2%という物価目標は破綻しているし、間違った目標なので撤回すべきだ」と、吠えたのです。通常なら総裁の労をねぎらうところが、前代未聞のできごとになりました。
日銀は30日の金融政策決定会合で、追加金融緩和を見送る一方、物価上昇率の達成時期を「16年度後半ころ」に再び先送りしました。2年(2014年度中)で達成する約束を「2015年度」に改め、さらに「2016年度前半ころ」に変更していました。再三の先送りの結果、達成に2倍の4年かかるということです。「前半」、「後半」に「ころ」を付け加えるなど、歯切れも悪いですね。
任期終了まで弁明は続く
総裁は「目標が間違っていた」ことを率直に認め、「できるだけ早く達成したい」とでも謝っておけばよかったのです。日銀総裁に誤謬はあってはならないという世界ですから、そうはいかなかったのです。当初から、貨幣数量説(マネタリズム)に依拠する極端な金融政策は厳しい批判と浴び、反論を繰り返してきたため、引っ込みがつかなくなったという事情もあったでしょう。恐らく5年の総裁任期(あと2年半)の間、誤りを認めず、あれこれ弁明を続けるでしょう。
安倍首相が異次元金融緩和論に共鳴し、黒田氏(元アジア銀行総裁)を日銀総裁に押し込み、デフレ脱却を目指すアベノミクス(経済政策)の主柱に据えていたことも影響しているでしょう。その安倍首相は途中から黒田流の手法に疑問を抱き始め、アベノミクスの看板を「新3本の矢」とか「国内総生産(GDP)600兆円目標」とかに書き換えてしまいした。ハシゴをすでにはずされてしまっているのです。
実は、黒田流の物価目標は達成できないほうがいいのです。潜在成長率が上がらないまま、つまり景気が本格的に回復しないまま、物価だけ2%あがってしまったら、国民物価高に苦しみます。また、目標を無理やり達成しようとして、次々に金融緩和を追加していったら、大変なことになります。すでに償還が絶望的になっている大量の国債を日銀はさらに大量に抱え込んだらどうなるのでしょうか。
海外も冷めた目に
「もう誰も物価目標を信じなくなっているし、それでいいのではないか」と、多くの専門家はみています。一時は異次元緩和に注目した海外も、最近は「やはり無理な目標なんだろう」と、冷めるた目のようですね。
黒田流の物価目標には、いくつもの無理がありました。「日本経済の体質改革にとって金融政策の効果は限定的だ」、「物価は海外要因の影響を強く受けるのに、国内金融政策だけで物価を決めようとするのは間違いだ」、「体温(経済活動の熱気)をあげるべきところ、体温計(物価)ばかりを温めている」などです。
さらに「潜在成長率の低下、生産性の低下が原因になって、超低金利という結果に追い込まれている。超低金利すれば、問題が解決するというのは、原因と結果を混同している」という酷評も聞かれます。
不得意科目を除いて計算
日銀は「原油下落の影響で物価が上がらない。基調として物価は上がっている」という説を強調しだしています。従来の生鮮食品に加え、エネルギーを除いた物価指数を計算すると、物価は1%程度、上がっているといいます。
これなどは、不得意科目(原油)を除いて試験の合格点を決めるのに等しい行為です。そんなことをいいだすなら、2%目標設定のときに「海外要因(原油安もその一例)は除く」とでも定義しておくべきでした。「海外要因を除く」とすると、円安・ドル高の効果(物価上昇要因)も除かなければならくなります。要するに黒田総裁はいい訳すればするほど、おかしな理屈にはまっていくのです。
金融政策に過剰な負担
追い詰められた黒田総裁の救いは、欧州連合(EU)も同じようにゼロ金利、マイナス金利の金融緩和に踏み込んでいることです。米国は金利引き上げに転じ、超金融緩和からの転換を図ろうとしたところで、足踏み(見送り)をしてしまいました。
増税、歳出削減という財政政策は、どこの国も有権者の不評を買うため、金融政策を中心バッターに仕立ています。日本も同じことでしょう。そのツケが黒田総裁に回っているとみることもできます。黒田総裁を代えたところで、問題は解決しないところに本当の悩みがあるのです。
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