富裕層を喜ばす矛盾
2015年10月28日
公明党は支持層である低所得者のために行動するはずです。それが逆なんですね。軽減税率めぐる公明党の動き見ていると、創価学会に配慮した低所得層対策のはずが、高所得層、富裕層により有利になっているのです。なぜそんな矛盾した行動をとるのでしょうかね。
自公両党の税制協議会が再開され、2017年4月に予定される消費税10%の際に、どのような軽減税率を導入するかを話し合っています。軽減税率の導入(8%に据え置き)では一致しているものの、対象分野、品目については両党の溝は深いようです。
公明党は「酒類を除く飲食料全般」を主張し、政府試算では1・3兆円(2%分)の減税(財政にとっては減収)となります。自民は対象品目を生鮮食料品に限定し、4000億円程度の減税に抑えようとしています。
外食を含めるべきでない
公明党案では、外食も含まれます。外食全般になると、高級レストランや料亭などにおける企業の接待、高所得層の豪華な食事も対象に含まれてしまいます。高級店と大衆店を区別し、家族やサラリーマンの食事に限るというような線引きは実務的に無理でしょう。酒類付き食事の場合、酒類は除くことにしても、店側の伝票処理が複雑になります。それでいいのでしょうか。
食料品ついても、公明党案では全般が対象となります。自民党案の「生鮮食料品」(農産物、畜産物、水産物)に限ると、「加工食品」が除外されてしまいます。単品の刺身は「生鮮食料品」、2品目以上の刺身の盛り合わせは「加工食品」の扱いを受けます。キャベツは「生鮮食品」でも、刻みサラダのパックは「加工食品」の扱いです。生活必需品への配慮という点では、自民党案は矛盾してます。公明党案に沿って、「加工食品」全般を対象とすると、高級な菓子、チーズ、缶詰なども含まれ、これも矛盾が生じます。
景表法と違う区分が必要
「生鮮食品」(食材のままの状態)、「加工食品」(人手を加えた食品)という区分は景品表示法(不当表示防止法)によります。「生鮮食料品」には原産地表示が義務付けられています。複数の食材による「加工食品」になると、正確に原産地を表示することができなくなり、そのための区分です。ですから、もともと税制上の区分と原産地表示のための区分は性格が違うのです。
そんなことは分りきっていたのに、今頃になって騒ぐのは政治の怠慢です。幅広い軽減税率を主張してきた公明党に特に大きな責任があります。「生活必需的な食料品」とでもいうような定義をして、軽減税率の対象を明示する税法を想定しておかなければなりませんでした。
「痛税感の解消には軽減税率の対象を幅広く設定する」という公明党の主張は、もっともらしくみえても、これも矛盾があります。対象を広げれば広げるほど、消費の金額が大きい高所得層ほど減税額が大きくなり、有利になります。公明党案では結果として、社会的な格差を拡大してしまうことをどう考えているのでしょうか。
痛税感なき増税の矛盾
社会的公正、公平のためには、「対象品目をできるだけ絞る」と同時に「低所得層には所得のレベルに応じて現金を還付する」のが正解です。これから、実務的に可能な案を作るのはもう無理でしょう。
選挙対策のために「軽減税率の導入」を叫び、実務的な裏づけを怠ってきたのです。さらにいえば、安保法制で公明党が自民党に歩み寄ったことに創価学会側に猛反発があり、軽減税率では自民党に抵抗しているという姿勢を示さざるを得なくなったのでしょう。山口代表は「痛税感の緩和を」といい続けています。そもそも「痛税感のない増税」も矛盾しており、「痛税感」があるからこそ税収が増え、社会保障の財源に回るのです。
自民党も含め、「消費税を納入する事業者とって、簡易な経理方式にとどめる」と選択もおかしいのです。「厳格な経理は事務負担が増す」というのも、もっともらしい理由付けです。本当の理由は「事務負担増大」ではなく、「厳格な経理方式を求められると、税務署の調査が怖い」という点にあると思います。軽減税率は迷走しています。