人材流出、士気低下の悪循環
2014年2月23日
東京電力の福島第1原発の敷地内で、汚染水の流出などトラブルが相次いでいます。「東電は何をやっているのだ」という批判が高まっているのは、当然でしょう。当然だからといって東電バッシングを続けていると、東電や関連会社から人材や従業員の流出が激しくなるか、士気が低下し、それがまた次のトラブルや事故の原因になりかねません。その悪循環に、すでにはまってしまったような気がします。
貯蔵タンクから高濃度汚染水があふれだすという新たな問題が発生しました。今回はこれまでのトラブルと様子が違うようで、ミスなのか故意なのか、両面から調査が進められています。だれかが故意に、汚染水を通す配管についている開閉弁を、開けたり閉めたりしていたとすれば、これは事件です。「重大な」といわなければならないかもしれません。実際の作業にあたる関連企業を含め東電の管理能力を問う声が高まるのは必至でしょう。
真相の解明は待つとして、わたしは、原発批判、東電批判が続く中で、原子力業界から去る人材、技術者が増え、残っている人たちの士気が衰えていくことを恐れています。「原発ゼロ派」は日本の原子力産業が人材面から衰退していくことを歓迎するかもしれません。なんの問題も起さずに原子力産業が衰退していくことはまずありえないから、恐ろしいのです。重大な問題です。
お断りしておきますと、わたしは東電を擁護しているのではありません。原発事故そのものに対して政府、東電は直接的な責任があります、安全性への過信、安全性に関する故意ともいえるような間違った説明を繰り返してきたことから始まり、事故発生時の緊急事態への備え、対策の欠落、実際に事故が起きてからの対応のまずさなど問題点をあげたらきりがありません。
わたしは経済記者でしたから、東電のトップ、管理職と付き合いがありました。東電社長ともなれば、経済界の重鎮で、すぐれた人たちだという印象をうけていました。原発事故いらい、次々に明らかになった東電の失態を知るにつけ、この人たちは原発の維持、管理についてどういう指導をしてきたのかと失望するばかりで、その落差の大きさに戸惑っています。
GEの社員からの内部告発で、福島原発のデータ改ざん事件が発覚し、はじめは否定しながら、最後は改ざんを認め、2002年には、社長、会長、相談役が首をそろえて辞任しました。2007年には新潟中越地震の際に柏崎原発でトラブルがおき、その際も社長が引責辞任をしました。原発絡みで社長が辞任するという経験を繰り返しながら、なぜ原発の維持、管理体制を点検し、再構築しておかなかったのか不思議でなりません。
今回の事故をいれると、最近の社長交代、というより辞任はなんと4人にもなり、原発事故が全て絡んでいます。優秀な人材を集めているといわれてきた東電が、日本の歴史はおろか世界史に記録される最大級の事故を起してしまったのです。ただし、今回のブログは「東電はなにをしてきたのか」を主眼しているのではありません。
日本の原子力業界は、電力会社、プラントメーカー、発電所の保守・点検をする工事関係者3万3000人を含め、8万人以上の関係者で構成されていると、日本エネルギー経済研究所はいっています。工事会社の多くは中小企業が多く、原発の将来性への不安、再稼動の遅れによる仕事量の減少のため、経営存続が危機にさらされているそうです。熟練作業員が流出し、将来にわたり、人材の空洞化がおきかねない状況です。
広瀬東電社長は国会の委員会で、「次々に新たなトラブルがおきるので、モグラ叩きにような状態が続いている。問題が分っていても、対策の優先順位があるため、後手にまわったものもある」と証言しています。このモグラ叩きに東電叩きが加わると、人材、作業員の流出と事故対策の遅れという悪循環が深まります。原発の将来性を悲観し、大学の学部で原子力を学ぶ学生も減っています。
今回の事故に直結する賠償、廃炉、汚染除去、汚染水対策を速やかに進めるためにも、原発の将来展望を国ははっきり打ち出し、電力会社の経営基盤もしっかさせなければなりません。廃炉の作業には30年以上もの長い歳月を要します。福島第1原発を国有化し、事故処理を東電から切り離した上で、専門技術者の集団を確保しては、という構想を唱えるひともおります。「原発ゼロ派」を含め、原発対策の難しさはどこにあるかを認識しておく必要があります。
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